Analysis

「ソフトウェアの部品化」が失敗する理由

2008/04/21

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 経済産業省のとある外郭団体の委員をしている方と話をしていたら「我が国のソフトウェア産業を改革するためには、ソフトウェアの部品化を推進しなければならない」と話していた。うーん……ソフトウェアの部品化かぁ……。正直、頭をよぎったのは1980年代後半に国内のソフトウェア部品の集積を目指して立ち上げられたが、失敗した「Σ(シグマ)プロジェクト」だ。

 Σプロジェクトから20年の歳月を経て同じコンセプトが出現するには理由がある。日本の輸出を支えている製造業で、製品におけるソフトウェアの比重が高まるに伴って、業界全体がソフトウェア・エンジニアの不足および、ソフトウェア関連の障害の多発に悩まされているからである。

 外注先企業が作ったソフトウェア障害に悩まされている製造業の視点から見れば「なぜ、ソフトウェアはこんなにトラブルが出るのか? 部品化して、それぞれの部品の品質チェックをもっと厳しくし、その上で再利用すればコストは下がり品質が上がるに違いない」と考えるわけだ。

分かりやすい部品化

 実際のところ、この「ソフトウェアの部品化と再利用の推進」というキーワードは我が国のソフトウェア産業における政策課題としてしばしば取り上げられている。

 おそらくその1つの理由は、「部品化」という比喩が門外漢にもきわめて分かりやすいからだろう。部品化は以下のように理解されている。

  1. 部品を再利用すれば生産性が上がる
  2. 不具合が出るのは部品の品質基準がないからだ
  3. 汎用部品を使わず専用部品を作るから費用がかかる
  4. 完成品メーカーになれなくとも、高品質な部品を提供する産業として成長できる

 そして最後に、部品が流通する市場と仕組みを作ろう、部品の品質基準を作り安全な再利用を促そう、という結論が導き出されることが多い。しかし、20年にわたって推進され続けていると言っても過言ではないソフトウェアを部品化するというコンセプトであるのに、その成果は見えてこない。また、一般のエンジニアがソフトウェア部品を提供しているという話をあまり聞かない。これはなぜなのだろうか?

再利用は茨の道

 一般の製造業の部品に関してもいえることなのだが、実は「リサイクルするより使い捨ての方が安い」ことが多い。リサイクル部品は利用履歴が不明で必要な強度の有無を検査する必要があるし、強度に不安がなければもともと過剰な品質なのだろう。同じことはソフトウェアにも言える。同じ機能を持つモジュールであっても、単一ユーザーのシンプルな利用状況向けに作るのと、様々なユーザー向けに多様で複雑な利用状況に対応して作るのでは、内部の複雑さも、必要とされる検証工程も格段に違ってくる。

 実のところ、部品化とは

  1. 再利用は品質の安定期まではかえってコストが上がる
  2. 初期目的外のテストは過剰で、そもそも行われてない
  3. 汎用化を目的とせず使い捨てコードを書くことで、短期的コストは下がる
  4. 高い再利用性を持った部品群を作成する方が、使い捨てコードよりも高度な技術が必要

なのだ。

 おそらく現在、世界で最も再利用されているソフトウェア部品は「Windows」と思われるのが、マイクロソフトの年間研究開発費はおよそ7000億円である。多人数に利用されるコードの開発には莫大な費用がかかり、これだけの投資をして品質基準を定めたドライバの認証制度などを行っても、「安定性が」などと非難されるのだ。

技術でもツールでもない課題

 「部品化を推進」という言葉。この志は正しい。しかし、ベンダがパッケージソフトウェアは作れなくても部品ぐらいと考えるのであれば誤りだ。

 部品化の実現には、技術的な課題以上に実は経営資源的な課題が横たわっている。日本のソフトウェア企業が部品化を推進できない理由。それは「納品物の作成に手一杯かつ、採算はギリギリで再利用に足る品質を持ったコード作成に必要な資金投下がそもそもできない」ことも理由である。そもそも日本のソフトウェア企業の研究開発予算比率はきわめて低い。

 プラットフォーム、ミドルウェアを提供できるソフトウェア企業が極端に少ない我が国。過去、一貫して課題と認識されながら解決されない問題があるとき、そこには一貫した原因があるはずである。そろそろ我が国もソフトウェア産業の構造自体を再編しなければならない時に来ているのではないだろうか。

(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)

[著者略歴]

「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて1−2− 3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパンジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長



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