[Analysis]
YouTubeのロケール設定が微妙な件
2008/05/19
最近はニコニコ動画にお世話になりっぱなしなのだが、多少マンネリ気味なこともあり、久々にYouTubeにアクセスしてみた。国内SNSへの対応や、国内向けのイベント、コンテンツ提供者向けのプログラムなど、賢いスタッフがやるべきことをがんばっている点はさすがグーグル先生である。しかし、肝心の投稿動画に心をつかむコンテンツがない。そしてなんとなく、くつろげない感じがする。 なぜだろうか?
標準の言語設定が英語
たとえば、日本のアーチスト名「Bennie K」をGoogleで検索してみると、権利保有者がプロモーションのためにアップしているYouTubeの投稿動画がヒットする。そしてサーチ結果のURLをクリックしてYouTubeに接続するとメニューは英語だ。
YouTube自体はサイトの日本語化が完了している。表示されたページを見ると、動画の投稿コメントは日本語だが、ナビゲーションやページでのメニューは英語になっている。理由は単純である。YouTubeは、標準設定が「グローバルサイトの利用」であり、グローバル設定にしているとき、動画のURLが「www.youtube.com」で始まっている場合の言語設定は英語なのだ。
ロケール設定はユーザー次第
アプリケーションの国際化を行う場合、言語や地域ごとの慣習、通貨単位や尺度をまとめてロケール(locale)に従って切り替えられるように設計する。たとえば、「Google.com」を標準的な日本語環境からアクセスすると日本語の画面が出てくる。この仕組みは、Webブラウザのロケール設定に従ってサイトの表示言語を切り替えることで実現されている。
ところがYouTubeの日本語対応は、画面右上にあるサイト設定で国ごとのロケールを指定する仕組みとしているようだ。指定しなければサイト設定はグローバルのままであり、メニューは英語だ。
ただ、設定がグローバルになっている場合でも、URLのサブドメインによって言語設定を切り替えられるようにしている。「jp.youtube.com」で始まるURLを開くと、ロケールが日本に変更され、メニューは日本語になる。そして、ロケールが日本に設定されると、それ以降「www.youtube.com」で始まるコンテンツをクリックしても、日本語ページ上にリダイレクトされて表示されるようになる。
グーグルは、YouTubeの多言語化に当たって標準設定をグローバルとするか、ブラウザロケールに合わせるかの判断に迷ったのではないだろうか? 従来から使っているユーザーは英語環境から使っていたグローバルなユーザーだ。ブラウザロケールで標準設定をコントロールすると、彼らが離れてしまわないだろうか。コンテンツの投稿が減らないだろうか。グーグルは「一時的なリスクを負うより、グローバルな運用でいいのではないだろうか? 知っていればワンクリックで日本語環境とすることができる」と考えたのだろう。
しかし、日本国内では、やはりグローバルは特殊だ。その特殊性に気付かないこと、これこそが外資系ネット企業が陥る罠なのである。
英語が苦手な日本人
考えてみれば、日本国内で成功しているグローバルなサイトは少ない。海外で絶大な人気を誇るSNSも国内参入には苦慮しているし、成功していると思えるサイトの多くは国内では独自運用をしている。
実のところ、英語ができる人が考える以上に日本人は英語が苦手である。また、協調を重んじる国民性から、英語が話されている場所で日本語を平然と使うことに躊躇するユーザーが多い。
領域は違うがWoW(World of Warcraft:世界最大のMMORPG)など日本以外では絶大な人気を誇るサービスが日本参入できていないことも、そうした背景があろう。おそらく、YouTubeに関しても、アクセス数の割には日本国内ユーザーからの投稿は少ないのではないかと推察される。標準が英語メニューでは気楽さを感じられないし、設定変更の方法も伝わりにくいのだろう。
国内サービスの台頭を許す理由
欧米発のネットサービスには、いわゆる「先端的」とされているネットのオピニオンリーダー層が飛びつき一時的に日本からのトラフィックが上がるのだが、普及期になると、国内ユーザーに特化した類似のローカルサービスの台頭を許してしまうことが多い。YouTubeに関しても、そうした普及期特有の課題に直面しているのかもしれない。
しかし、動画領域に関して言えばニコニコ動画が急成長したものの、偏りすぎたユーザー層に苦慮し、普通のユーザーが楽しめる国内サイトが未だ存在していないのも事実。YouTubeも初期の先端的なものに飛びつくグローバルなユーザー層から脱却し、国内ユーザーにより豊富な楽しみを与えられるようになれば、より魅力的になるだろう。
(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)
[著者略歴]
「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて1−2− 3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパンジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長
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