[Analysis]

部材コストを極限まで圧縮したiPhone 3Gの意味

2008/06/17

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 画期的ユーザーインターフェイス(UI)を備えたハンドヘルドデバイスの出現はこれで何度目であろうか? 私も過去ソニーのPTC−500を皮切りに、Newton、Palm、クリエ、ザウルス、Visor、カラーザウルス、Genio、EM-ONEを使ってきた。役に立つと考え購入したものの、大抵しばらくすると使わなくなってしまう。それぞれの機種は、登場時にはIT関係者の間では話題となり、画期的ともてはやされたデバイスだ。では、なぜ使われなくなるのか? 端的にいえばメイン端末ではないからだ。

 あれば便利だが、逆に便利に活用するためには、情報を入力しメンテナンスを行い、同期したりしなければならない。画期的UIであってもメインで使っているPCに比べて処理が遅かったり、電池が持たなかったり、メール容量が少なすぎたりと機能が制限される。盛り上がっているうちは良いが、やがて面倒になる。使う必然性がないため、習熟度が上がらず操作はめんどくさいままだ。

 特に携帯電話に簡易電話帳とWebブラウザ機能が実装されて以来、これらのハンドヘルドは常時持ち歩く1台目の地位を携帯電話に奪われてすっかり日陰者扱いだ。

アップルの迷い

 限定的なモバイルセカンドマシン市場を考えれば、アップルの社内でも広いタッチスクリーンで一見して電話には見えないiPhoneを投入することに議論があったはずだ。実際、アップル自身、画期的UIを持つデバイスを出しながら、最終的にPDA市場から撤退した過去を持つ。このため、アップルはiPhoneをPDAとしては位置付けず、電話機能が付き、ネットアクセス可能なiPodの延長として位置付けているように思われる。

 iPodと携帯電話の両方を持つユーザーは多く、音楽デバイスであれば、習慣的な利用が期待できる。アプリケーション実装はSafari経由が推奨され、マルチタッチインターフェイスと相まって、従来のスマートフォンとは一線を画した位置付けだ。

 それにもかかわらずアップルはSDKの公開に引き続き、メール機能の強化、セキュアアクセスの追加、そして、WiFi経由でのVoIP機能容認など、いわゆるスマートフォンマーケット、特に企業向けの機能強化を図ってきた。

 ビジネス向けスマートフォンの市場は堅い。高価格なネット・コンテンツ端末では、購入層はガジェット好きに限定されるため、企業向けの機能強化はビジネス的判断としては賢明だ。アップルも迷っていたのだろう。ただ、日本市場の場合、ビジネス向けスマートフォンの市場は限定的だし、セカンド市場もそれほどの規模ではない。騒ぎの割に国内市場では苦戦するのではないかと6月8日までは思っていたのだが……。

もっとも分かりやすい魅力、それは価格

 6月9日の「iPhone 3G」発表には驚いた。何よりも価格に。通信会社からの売り上げ分配を当て込んでいるとはいえ、199ドルは8GB版のiPod nanoと比べて20ドル程度しか違わない。しかも、Portelligent社の分析によれば、iPhone 3Gの推定部材コストは100ドルまで圧縮されているらしい。3G版の登場に1年かかった割に目立った機能追加がないのは、この低コストを実現するためなのだろう。ターゲットマーケットには迷いがあっても、コスト低減が強さになる製造業としての根幹には迷いがなかったということである。将来的にもストレージの増加とパッケージデザインの変更、そしてCPUの強化などで新製品を安価にシリーズ化できるわけだ。

携帯はPC化するのか?

 この値段なら、多機能を求めない普通のユーザーでも単なる音楽機能付き携帯として購入できるだろう。iPhoneはガラパゴス化した日本の携帯市場にインパクトを与える製品になる。おそらくそれはユーザーよりも、端末開発メーカーに対する影響が大きいだろう。つまり、iPhoneのような端末の登場は、携帯に載せられる機能の実装が、従来のように「機種ごとの組み込み開発」で行われるのではなく、安価な共通プラットフォームチップセットの上に、「ソフトウェアによって機能だけが実装される」という時代の始まりを意味しているのかもしれないからだ。

 さて、iPhoneは日本市場で本命の座を射止めることが出来るのだろうか? 日本的な携帯メールやデコメがない? おそらくいくつかの機能は、iPhoneの上でソフトウェア的に実現可能だろう。企業向けにはどうか? WiFiベースの構内内線と組み合わせれば、電話システムとWebシステムの統合は容易になり、利便性が増すだろう。しかし、しかしだ。あの端末で電話をするのは……。この一点によって普及には限界があるのかもしれない。

(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)

[著者略歴]

「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて1-2-3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパンジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長



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