[Analysis]
携帯電話向けサービスで激化する主導権争い
2008/07/01
「日本の携帯電話ガラパゴス」論者は競うように、日本の携帯電話端末が世界に通用しないものになってしまった原因の1つとして販売奨励金を取り上げた。しかしアップルは「iPhone 3G」で、そんな議論などどこ吹く風とばかりに販売奨励金を世界的な価格戦略に組み込んできた。以前この欄で、「ガラパゴス論」は日本の携帯電話端末メーカーをバカにした議論だと書いたが、結局のところ、ポイントはだれが主導権をとるかということにある。端末メーカーが主導権をとってしまえば、奨励金だろうがなんだろうが、使えるものは使えばよいということになる。
しかし一般的には、端末メーカーが主導権をとることは非常に難しい。これを世界的に実現してしまうところに、アップルの凄(すご)さがある。多くの信奉者を持つアップルのコーポレート・ブランド、「iPod」の斬新(ざんしん)な製品・サービス設計と、これにより築き上げた強力なデジタルオーディオ製品ブランド、そしてこれらをベースとした携帯電話としての非常に思い切った設計で、iPhoneはまたたく間に世界中の携帯電話事業者にとっての「キラー・デバイス」となってしまった。
携帯電話事業者がARPU(加入者1人当たりの平均月額売上)を上げるためには、データ通信サービスを使ってもらえるかどうかが1つの勝負だ。iPhoneの場合、その提供する個々のサービスだけでなく、iPhoneという存在自体がデータ通信サービスの利用をうながす格好のツールとなっている。
ソフトバンクモバイルもiPhone購入者全員に、有無をいわせず「パケット定額フル」への加入を義務付けることで、ユーザー1人当たり月額約8000円以上の料金を請求する。携帯ビデオサービスなどを1つひとつ説明して各ユーザーに働きかけるよりも、よほど効率的にパケット定額フルユーザーを増やすことができ、ARPUを上げられる。まさにWin-Winの関係だ。
ただし同時に注目したいのは、アップルがiPhoneでiTunesによる音楽やオーディオブックの販売サービス、そしてApp Storeによるアプリケーション販売サービスを独自に展開することだ。携帯電話事業者にとってコンテンツ関連の手数料収入はない。つまりアップルはiPhoneに関していえば、コンテンツ・プラットフォーム・ビジネスでも、携帯電話事業者との間で主導権を獲得したことになる。
携帯電話事業者としては現在のところ、データ通信サービスの契約が増えればそれで十分かもしれない。しかしいずれ、そうは言っていられなくなる日が来るはずだ。iPhoneユーザー以外にもデータ通信サービスを広めるため、あるいはほかの事業者との競争上の理由で、データ通信サービスの料金を下げなければならない日がやってくるだろう。そうなったとき、あるいはそうなることを見越して、携帯電話事業者もコンテンツ・プラットフォーム・ビジネスへの土台を築く必要がある。
アップルの主導権は端末がiPhoneに限られるため、携帯電話事業者にとっての影響は大きくないと考えたとしても、違う角度からコンテンツ・プラットフォーム提供者の地位を狙(ねら)っているグーグルがいる。グーグルは携帯電話端末へのサービス、広告、アプリケーションの提供機会と請求メカニズムを、これまで参入が難しかった人々に提供することで、ビジネスを広げようとするはずだ。
携帯電話の世界では今後、コンテンツ・プラットフォームの座を巡る主導権争いが激しさを増してくるのは間違いない。ユーザーとしてはこれが、一般携帯電話端末からのインターネット・コンテンツ・ナビゲーション・インターフェイス改善につながることを大いに期待したい。携帯電話端末の限られた画面に対し、豊富なインターネット上のコンテンツを、その時々のユーザー・ニーズに合わせてどうフィルタし、使いやすく加工して提供できるか。このことだけでも、十分に大きなテーマだと思うのだ。
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