[Analysis]

MID Linuxの可能性

2008/07/08

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 モバイル向けソフトウェアプラットフォームの世界で、オープン化の流れが加速してきた。

 2008年6月24日にノキアは、以前から大株主だった英シンビアンの残りの株式52%すべてを約2億6400万ユーロ(約443億円)で買い取り、Symbian OSをオープンソース化していくと発表した。新たに業界団体のSymbianファウンデーションを発足させ、Symbian OSと開発ツールを2010年までに公開していくという。Symbian OS向けにはこれまで、ノキアの「S60」、ソニー・エリクソンの「UIQ」、NTTドコモの「MOAP」など異なるUIフレームワークがあったが、これらのコードはSymbianファウンデーションに寄贈され、オープンソースとして公開されていく。

 Symbian OS搭載端末は2億台を超える出荷実績、数万を超えるアプリケーション、400万人といわれる開発者の数など、稼働しているプラットフォームとしては最大といっていいだろう。北米ではWindows MobileやRIMのシェアが高いほか、日本ではSymbian OSの存在感が小さいという違いはあるが、スマートフォン市場で大きなシェアを持つSymbian OSのオープン化のインパクトは大きい。

2013年までにLinux端末がシェア23%を獲得

 Symbian OSオープン化にはOSライセンス料を撤廃し、端末メーカーに重荷となっているソフトウェア開発費を下げる狙いがある。これは、忍び寄るLinux勢力への対抗策と見るべきだろう。グーグルがオープン戦略の一環でOHA(Open Handset Alliance)とともに進めるLinuxベースのAndroid端末は、まだ実機が出ていないうちから大きな注目を集めている。

 キャリアや端末メーカーが集まった業界団体のLiMoファウンデーションも勢いを増している。LiMoには今年に入って米大手のベライゾンが参加したほか、Linuxベースのプラットフォーム策定に取り組んでいたLiPS(Linux Phone Standards)が2008年6月26日にLiMoファウンデーションに合流したことで、分断されていたLinuxベースのモバイル端末への取り組みがいよいよ集約されてきた。

 米ABI Researchは2008年6月に発表した予測の中で、2013年にはスマートフォン市場におけるLinux端末のシェアがSymbian OSに次いで2番目に大きい23%となるとしている。

 Symbian OSがオープンソース化されるといっても、Linuxとは開発モデルが異なる。カーネル関連ですでに大きな開発者コミュニティがあり、ドライバの種類や開発者が多いLinuxは、汎用的なデバイスが使われるスマートフォンの世界で有利だろう。北米でほとんど市場に入り込めていないという地理的偏りがあることも、Linuxと比較した場合のSymbian OSの弱点だ。

端末販売は倍増しても、株価が伸び悩むRIM

 オープン化の流れで苦戦を強いられそうなのは、好調な端末販売業績に反して株価が振るわないカナダのRIM(Research In Motion)だ。2008年6月に発表した2008年第1四半期の売上高は22億4000万ドルで、これは対前年比107%増とほぼ2倍となる数値だ。この間の新規加入者も230万人と好調だったが、発表後に同社の株価は約8%下落した。これは第2四半期の業績予想が市場の期待を下回るものだったからだが、控えめな数字しか出せないのはiPhone 3G登場など、よりオープンで先進的な端末の登場による競争激化が予想されるからだろう。「BlackBerry Bold」など高機能端末の投入を7月に計画しているRIMだが、実際には同社の1600万加入者のうち約4割が1万円前後の安い端末を購入するライトユーザーとなっていて、iPhoneやAndroidといった高機能スマートフォンの進化とは違う方向へとマーケティングしていることも市場に評価されていない点かもしれない。

LiMoやAndroidは十分にオープンか?

 「オープン」という概念は相対的なものだ。Windowsサーバに比べてLinuxサーバはオープンと考えられるが、そのWindowsサーバはプロプライエタリなUnixサーバよりもオープンだ。プロプライエタリなUnixサーバは、かつてメインフレームを置き換えた“オープン系サーバ”の代名詞だった。

 同じように、RIM端末に比べれば、汎用OSを使いSDK配布を約束しているiPhoneはオープンだ。しかし、そのiPhoneも、ハードウェアやアプリケーションの実装、配布が自由なAndroidに比べれば、クローズドなビジネスモデルだと言える。さらに、AndroidやLiMoですら、もっとオープンな開発コミュニティを持つLinuxベースのモバイルプラットフォームプロジェクト「Maemo」「Ubuntu MID」「Moblin」「Gnome Mobile」「Openmoko」などに比べれば、十分にオープンとは言えない。

 LiMoは端末の開発コスト削減を主眼に業界主要メーカーが集まったもので、そこにあるのは基本的にキャリアやメーカーなど端末提供側の論理だけだ。どのような画面構成で、どのようなアプリケーションが稼働するかをユーザーが選べるかという意味では、LiMo端末はPCやインターネットのようにオープンな環境とならない可能性が高い。LiMo端末は、特にそれと意識されることもなく広く普及するだろうが、iPhoneやAndroidに熱狂する開発者やユーザーを惹きつけることはできない。Androidは完全なオープンプラットフォームを目指しているというが、現時点ではグーグル色が強すぎて先行きが不透明だ。例えば、AndroidではDalvik VMと呼ばれるJavaVMに似たVM上でアプリケーションを動かすことになっている。もしネイティブコードを走らせた場合、そのデバイスはAndroidと呼べなくなるのだろうか。

本当にオープンなモバイル環境はMID Linux

 MaemoやUbuntu MID、Gnome Mobileといった名前をAndroidやLiMoと並べることに違和感を感じる読者も多いだろう。ノキアがインターネット端末「Nokia 770/810」でMaemoを採用した実績があるものの、これらはMID(Mobile Internet Device)向けのOS環境で、いわゆるケータイ向けではないからだ。

 iPhoneはどうだろうか。これはケータイやスマートフォンと呼ぶよりも、すでにMIDに近づいている。大きなタッチパネル画面やパワフルなプロセッサ、グラフィックチップによる軽快な操作感はPCに近いものがある。

 モバイル環境での音声通話は重要なアプリケーションであり続けるだろうが、相対的な位置付けは下がっている。主従関係が逆転し、モバイルは音声通話からデータ通信へと比重が移るだろう。通信量で見れば音声トラフィックは、いずれ誤差程度となっていくに違いない。

 そうであれば、音声を中心に考えられたハンドセット型の端末よりも、今後はデータ通信を中心し設計した、画面の大きな端末へとモバイル端末のシフトが起こっていいはずだ。今週末に発売を控えたiPhone 3Gの一種異様な盛り上がりは(意外に売れなかったという結末になる可能性もまだあるが)、そのことを端的に示しているように思われる。

 iPhoneを使いやすい電話として買う人はいない。それよりも、多少大きくてバッテリの持ちが悪くても、ネットアクセスにおいて狭い画面でもどかしい操作を強いられるよりもいいと考えるユーザーが増えているのではないか。

 iPhoneやAndroidはモバイルインターネット市場を開拓する可能性がある。これら第1世代が一部マニア層の支持を超えて広がっていくものだとしたら、やがてモバイルの世界でもさらなるオープン化の流れが出てくるだろう。立ち上がりもしていない市場の第2世代のことを語るのは時期尚早かもしれない。ただ、将来モバイル端末を支えるプラットフォームとなるのは、現在MID向けとして静かにコミュニティベースの開発が進められている、先述のMID Linuxたちなのではないかと記者には思われるのだ。

(@IT 西村賢)

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