[コラム:Spencer F. Katt]
宇宙の果てのオープンソース・レストラン

2003/4/1


 ワシントンD.C.の幹線道路は、先頭を走る不機嫌なタバコ栽培業者のためにひどい交通渋滞が続いていた。吾輩はリムジンバスの後部座席でイライラしながら、ホテルに愛用のダート銃を忘れてきたことを思い出し、毛むくじゃらのあごをかきむしっていた。その日、「官公庁オープンソース・カンファレンス」に出席するために合衆国の首都にいたのだが、警察当局はなぜこうした無法者たちを可及的速やかに逮捕しないのだ?

 それはさておき、遅れながらもようやくたどり着くことができたカンファレンス会場には、敵意をむき出しにした聴衆を相手に、マイクロソフトの「シェアドソース・イニシアチブ(Shared Source Initiative)」についてプレゼンする1人のプログラム・マネージャがいた。

 そのマネージャ、ジェイソン・マツソーもまた、オープンソース信奉者たちのために用意したレドモンドのスライドショーのおかげで、タバコ栽培業者のトラクターに投げかけられた罵詈(ばり)雑言と同じくらいの喧騒(けんそう)を会場にもたらした。

 マツソーは最初からトラブルに見舞われた。大きなスクリーンに映し出されたスライドの画面がゆがんでいたのだ。必死になって調整しようとしていた彼に、会場からは「だからLinuxにしろと言ったんだよ!」とか、「俺が代わりにStarOfficeで作ってやるぜ!」といった冷笑が浴びせかけられた。

 彼は、問題解決に躍起になっていた間も、「このスライドはマイクロソフトの若干ゆがんだ視点を端的に示したものなんですよ」と、友好的なジョークで場を持たせようとした。が、会場の罵(ののし)り声は一向に収まる気配を見せなかった。

 で、ようやく問題を解決すると、マツソーは来場者に向かって、そのとき自分の置かれている立場をこう表現したのだ。「いま僕は、ダグラス・アダムスの『宇宙の果てのレストラン』に登場する、ディナーに自分を食ってくれっていう牛みたいな心境だよ」

 彼のコメントは会場に大きな笑いを呼び、アンチ・マイクロソフト派の半可通(:はんかつう)たちの間に、彼が少なくとも自分たちと同類のスピリットを持つ人間であることを賞賛するどよめきが広がった。

 ところで何人かのLinuxラバーズから、先週のコラムの内容について確認することができた。つまり、SCOグループが同社のUNIXに関する企業秘密を盗んだとして、IBMに10億ドルの損害賠償を求める裁判を起こし、Linuxユーザーから怨嗟(えんさ)の声が集中していることだ。

 ある情報屋によると、この訴訟をLinuxコミュニティの人々は、SCOを助けようとする投資家たちの最後の悪あがきだと見ているらしい。また彼は、マイクロソフトかIBMがいずれSCOを買収するのではないかという憶測も耳にしたそうだ。SCOを買収すれば、IBMは訴訟問題を一気に解決するとともに、SCOの技術を合法的に入手できるからだという。

 いずれにしても、Linux愛好家の話では、SCOや同社のパートナーに対する圧力はマイクロソフト製品のセキュリティ・バグよりも早いスピードで広がっているとか。

(注)
よく知らないのに知ったふりをすること。通人ぶること。いいかげんな 通人。上方落語『ちりとてちん』(腐った豆腐)を聴くべし。

*Spencer F. Kattのコラムは毎週月曜日(月曜日休日の場合は火曜日)の更新予定です

[英文記事]
Microsoft Pitches Tough Open-Source Crowd

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