[コラム:Spencer F. Katt]
Linuxをめぐるゲームの法則と地政学

2003/7/29


 え、また行くの? ちょっと勘弁してよ。と、吾輩はめずらしく弱音を吐いた。強引さではJ・ジョナ・ジェームソン(「スパイダーマン」に登場する日刊紙経営者)に勝るとも劣らない本誌編集長から、またしてもラスベガスへ飛べと命じられたからだ。いくらギャンブル好きの吾輩でも、ちょっとタイミングが悪すぎる。つい先日、パワーボールにオフィスの1カ月分の賃料をつぎ込んじゃったばかりなのだ。

 ただ、ラスベガスではほとんどインドアで過ごせそうなので、摂氏45度を超える猛烈な暑さから逃れることができるのは、せめてもの救いか。それに今回の「CA World」の基調講演には、古い世界の秩序を築き上げた、あのヘンリー・キッシンジャーが登場する。新しい世界の秩序に対する大所高所からの提言、あるいは今日の混とんとした情勢に立ち向かうための英知を聞くことができるかもしれない……。

 マンダレイ・ベイ ホテルの基調講演会場に響き渡る元国務長官のしゃがれ声にいちいちうなずきながら、ラップトップでメールボックスをチェックしていると、「サーチエンジンのGoogleで面白いことを発見した」という情報提供者からのメールが届いていた。それによると、Googleで“weapons of mass destruction”(大量破壊兵器)と入力し、I'm Feeling Luckyボタンを押すと、エラーメッセージが表示されるという。だけど、よーく読むと、ページ全体が思いっきりパロディになっているのだ。これは笑える。

 ところで最近、おそらく主要先進国の首脳が集まるサミットでもまねたのだろうが、IBM、HP、CAを含むLinux業界の“ビッグ・セブン”が某所に集まり、今後の世界(少なくともオープンソースの世界)をどのように管理していくかを議論したもようだ。会議の狙いは、Linuxディストリビュータに対抗するための統一戦線の構築だという。もちろんディストリビュータは会議に招待されなかった。

 「われわれはサポートに関して共通の問題を抱えているからね」。ブラックジャックのテーブルをはいかいする吾輩に、ビッグ・セブンの関係者がそうささやいた。そのディープスロートによると、彼らは“最も成功している米国のLinuxベンダ”にテコ入れし、そのベンダと他社を戦わせる戦略だという。吾輩はツキを呼ぶという“赤い帽子”をかぶり直して、次のゲームに臨んだ。

 と、そのとき、携帯電話がポケットの中で暴れ出した。ボストンのフェアモント・コプレイ・プラザの高級バーから、いつもの情報屋が電話をかけてきたのだ。彼が入手した情報によると、SCO Linuxに対して法的に安全(とされる)Solarisにあまり満足していないサンは、近く独自のペンギン・パワードOSディストリビューションを投入するかもしれないという()。現在、同社はRed Hat Linuxを販売しているが、どうやらマクニーリ商店はオープンソースでSCOフレンドリーなLinuxバージョンを速攻で作り上げる考えだ。

 結局、赤い帽子はまったくツキを呼ばないことが判明したが、賭けごとの天才を自認する吾輩は、気を取り直してバカラのテーブルへ移動した。すると、そこには数年前からCAのストレージ製品を利用しているというコンサルタントがいた。その彼から聞いた話だけど、どうやらCAはいったん製品を出荷してしまうと、バグ・フィックスのための正式なレビュー・プロセスは行わないらしい。コンサルタントが既知のバグについて問い合わせても、CAからはまったく応答がないそうだ。同社は製品がインストールされ、問題が明らかになって初めて情報を提供するという。相変わらずだね。

編集局注:2003年2月、サンはSCOグループからUNIX技術のライセンス供与を受ける契約を結んでいる。

*Spencer F. Kattのコラムは毎週月曜日(月曜日休日の場合は火曜日)の更新予定です

[英文記事]
Gaming and geopolitics in the all-American city

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