Spencer F. Katt

デルの見え透いたメディア工作

2007/12/03


 霧に包まれたサンフランシスコの街を歩くのは久しぶりだった。最新の業界情報を求めて市内のビストロやコーヒーショップをかぎまわるつもりだったが、本格的に活動するのは次の日からということで、とりあえずジャクソンクスウェア近くのスーパークラブ「ビックス」で夕べのひとときを楽しむことにした。最近米国でもスタイリッシュな飲み物としてカムバックした薄緑色の魅惑的なリキュール、アブサンを数杯サンプリングしたのはよかったが、翌日、ホテルで目覚めた吾輩はスタイリッシュでもなんでもなかった。が、二日酔いでグダグダしているわけにもいかない。白濁した意識の中で、クモの巣を払いのけるようにベッドから起き上がり、ダブルのエスプレッソと新しい情報を求めて、吾輩はコーヒーショップへと向った。

 そんな吾輩がいつもの元気を回復したのは、コーヒーショップで情報屋から、BEAシステムズの将来を悲観したエグゼクティブやセールスピープルたちが、シリコンバレーに向けて一斉に履歴書を発送し始めたという話を聞いたときだ。「彼らがナーバスになっているのは、オラクルとの買収交渉が手詰まり状態に陥ったからだけではない」と情報屋は断言した。懸念材料はもう1つあって、それはBEA内部で最近の合併戦略に伴う統合化作業が順調に進んでいないことだという。その1つの例が、2006年10月に8700万ドルで買収したFuegoソフトウェアだ。BEAのAquaLogicを購入した顧客に対して、別の販売部隊がFuegoを売りつけようとしているらしいのだ。当然、AquaLogicの販売部隊にしてみれば、新参者によって自分たちの芝生が荒らされることを快く思うはずがない。その結果、社内の各部門やスタッフの間では、必ずしもフレンドリーな競争意識が芽生えたとは言えない状況になっているという。

 二日酔いのむかつきを抑えようとドラッグストアで胃薬を探しているとき、吾輩のBlackBerryにニュースが飛び込んできた。トゥモローナウのCEOほか、何人かの上級エグゼクティブが辞任したというのだ。親会社のSAPは、同社の売却も含め、「いくつかのオプションを検討中」という。トゥモローナウは、オラクルから特許権侵害で訴えられている。数人のエグゼクティブの首を飛ばすだけで、オラクルの怒りを静めることができるとは思えないが、SAPは明らかに裁判を早く終わらせたいと考えているようだ。おそらくオラクルは和解の条件として、SAPにトゥモローナウを手放せと要求してくるだろう。

 荒れ気味だった胃袋も夕方には再び活発に動き始めた。サンフランシスコのレストラン「コルテス」へ向かった吾輩は、そこでマイケル・デルの会社がいかに巧妙にメディアを操作しているか、はしなくも垣間見ることができた。

 デル製品グループ・ソリューション担当副社長、リック・ベッカーの携帯電話が鳴ったのは、彼がわれわれレポーターに今後の仮想化戦略について説明しているときだった。「おっと、これは出なきゃな」と言って、ボスからの電話であることを表情で伝え、しばらく席をはずした。そして戻ってくると、彼はすぐ「マイケルだったよ」と、電話の相手を確認した。そして、「デルは明日(Oracle OpenWorldで)、サンとの新しい提携を発表することになった」と教えてくれたのだ。「つまり、SolarisとOpenSolarisが初めて、われわれのアプリケーションおよびストレージサーバ上で動作すると認定されるわけだな。これはスクープだよ」と彼はウインクした。

 しかし、吾輩の青い目には疑念の色が浮かんだ。なんでまたデルは、いまどきそんな見え透いた手を使うのだろう? と思ったからだ。しかし、まあ、CEOからの電話が本物だったかどうかはさておき、Solarisの話がビッグニュースであることは間違いなかった。その日のディナーは、ちょっと量が多過ぎたかもしれない。レストランに到着したとき、吾輩は空腹だったが、店を出るときは胸焼けがした。

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)