Spencer F. Katt

敵も味方も雲の中

2008/05/09


 敵の敵は味方だとすると、味方の敵は敵だろうか? それなりの学識を持つと自負する吾輩でさえ、セールスフォース・ドットコム、グーグル、そしてマイクロソフトの3社が離合集散を繰り返す背景を理解するまでには、少なからず時間を要した。

 であるから、一部のアナリストたちがいまだに「Salesforce」と「Google Apps」のアプリケーション・マッシュアップに当惑していることも、まぁ、分からないわけではない。ガートナーのアナリスト、トム・オースティンは考えた。なぜセールスフォース・ドットコムはそんなことをするのだろう?

 セールスフォース・ドットコムがCRM製品で狙っているのは、エンタープライズユーザーだ。一方、グーグルはAppsに近寄ってくる一般ユーザーに投網をかけようとしている。グーグルはビッグビジネスの求めるSLA(サービス品質保証契約)を提供しないので、当然、Google Appsのユーザーにエンタープライズユーザーは含まれないはずだ。

 「Google Appsはエンタープライズ向けではない。少なくとも、いまのところは」と、オースティンは語る。「多くのユーザーが無料のGoogle Appsを単なるサプリメント程度に見ている現状では、とくにそうだろう。しかし、タダのものに金を払う必要はない。”無料”のソフトとサービスゆえに支払い義務が生じないのであれば、企業にとってGoogle Appsはどうでもいい話だ。導入が成功すればそれでよし。失敗しても誰も気にしない」

 じつは、そこに疑問を解く鍵がある。「グーグルにとってはそうしたステルスモードこそ、エンタープライズ市場へ深く浸透する最も抵抗の少ない方法なのだ」と、オースティンは結論付けた。

 なるほど。では、セールスフォース・ドットコムはこの先、Microsoft Outlookとの統合化を放り投げることになるのだろうか?

 いや、どうもそうではないようだ。オースティンはこう続ける。「グーグルの戦略は誰も傷つけない。”敵の敵は見方”という考え方は、もはや意味を成さない。重要な点は、特定の分野に限定されない長期的な利益を狙うクラウドPRであることだ」

 吾輩はさきごろラスベガスで開催された「ガートナー・シンポジウム/ITエキスポ」の取材メモを読み返しながら、そうしたクラウドコンピューティング開発は、マイクロソフトにとってどのような意味を持つだろうと考えた。

 マイクロソフトはいまWindows Liveプラットフォームをめぐって、メディアや専門家、さらにはグーグルからも激しく非難されている。同プラットフォームは、基本的にはマイクロソフトのコア・デスクトップ機能上に構築したSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)だ。同社は、Windows Liveをグーグルやセールスフォース・ドットコムなど、強豪が先行するクラウドコンピューティングへ参入するための足がかりにしたいと考えているのだ。

 ガートナーのデビッド・ミッチェル・スミスは、シンポジウムの会合で吾輩に「Windows Liveはよくできている」と述べ、マイクロソフトのやり方にいつものような「容赦のない感じ」はしないと話した。

 ではなぜマイクロソフトは、Windows Liveでこれほど叩かれているのだろう? スミスによると、原因はVistaにあるという。Vistaをめぐる社内のドタバタが表面化し、何人かのエグゼクティブが同社を離れるなどしたことが、どうやらWindows Live批判の流れを加速したらしい。

 スミスはまた、「ハイテク業界は”クラウドこそ王様”と主張することに否定的だ」とも話した。まだまだトラディショナルなパッケージアプリケーションにも発展する余地は十分残っているという。

[英文タイトル] Keep track of friends, enemies

情報をお寄せください:

アイティメディアの提供サービス

キャリアアップ


- PR -
ソリューションFLASH

「ITmedia マーケティング」新着記事

生成AIとAR/VRで失った個性を取り戻す――2025年のSNS大予測(Instagram編)
万能だが特徴のはっきりしない「何でも屋」と化したInstagram。2025年の進化の方向性を予...

「AIネイティブ世代」の誕生 10代のAI活用度合いは?
博報堂DYホールディングスのHuman-Centered AI Instituteは、AIに対する現状の生活者意識...

低品質コンテンツがSEOに与える影響は? 低品質になってしまう4つの原因と改善方法
検索エンジンのランキングアルゴリズムの妨げとなる低品質コンテンツは、検索順位の低下...