Spencer F. Katt

マイクロソフトのメッシュとは

2008/05/15


 「いくらクラウド(雲、大群)がはやりとはいえ、この混雑はなんとかならんのか」 ――サンフランシスコで開催された「Web 2.0 Expo」を取材するためにモスコーンセンターに足を踏み入れた吾輩は、会場にひしめく来場者の大群を前にして抑揚のない声でつぶやいた。このイベントで吾輩が最も注目したのは、Ningの創立者で、その昔、Netscape Navigatorを開発して、マイクロソフトによるPCオペレーティングシステムの標準化を実質的に支えたマーク・アンドリーセンのスピーチだった。

 「80年代初頭、市場に出回っていたPCは60ないし70製品あったが、いずれも互換性はまったくなかった」と彼は指摘し、「もしそうした状態が、その後10年あるいは15年続いていたとすれば、この業界は現在よりもっと小さなものになっていただろう」と述べた。

 一方、「マイクロソフトはMicrosoft Live Meshの“メッシュ”を“クラウド”の意味で用いており、そうした用法は、業界用語を取り込み、独自のボキャブラリに塗り替えてしまうレドモンドの性癖を如実に示している」と断じたフェデレーテッド・メディア・パブリッシングの創立者、ジョン・バテルのスピーチもなかなか面白かった。モスコーンをひと通り“メッシング”した吾輩は、西海岸の友人と落ち合う約束をしていた「ザ・サースティ・ベア」へと向った。

 とりあえずコズロフ・スタウトを2人分注文したあと、吾輩は友人のほうを振り返り、貧富の格差がとめどなく広がる米国社会を憂いた。それを受けて友人は、ラリー・エリソンが最近300万ドルの租税還付金を得たことに言及、「富めるものはますます富みつつある」と嘆息した。オラクルのボスは、16世紀の日本の朝廷の離宮を模したという大邸宅の固定資産税をめぐるサンマテオ郡との2年越しの論争に勝ったのだ。当初、郡当局は邸宅の課税評価額を1億6600万ドルとしていたが、エリソンの異議申し立てを認め、しぶしぶ評価額を60パーセント減額し、2004年にさかのぼって税金を払い戻した。

 「地元の学区では、エリソンへの税金還付で公立校のインフラが崩壊しかねないと怒りの声が上がっているそうだ」と、友人は肩をすくめた。「ふむ。崩壊するといえば、UplineとかいうHPの新しいホスト型ストレージサービスも1週間で崩壊しちゃったとか?」と吾輩は友人に聞いた。

 「ああ、それで早くもサメたちが海中に漂う血の匂いをかぎつけたらしい」と友人は皮肉っぽく笑った。なんでも、いまGoogleで”HP Upline”を検索すると、「Uplineでひどい目に?」というEMC Mozy.comのスポンサーリンクが表示されるとか。

 吾輩がもう1杯注文すると、友人はバーバラ・バレット、つまりインテル会長のクレイグ・バレットの奥方が、駐フィンランド大使に任命されたことを話題にした。「もし彼女がフィンランドと米国の友好関係を促進したいと考えているなら」と、吾輩はわけ知り顔で応じた。「最初に手をつけるべき仕事は、スティーブ・バルマーとリーナス・トーバルズの仲を取り持つことだろうね」

 ホテルに戻ると、業界仲間の1人から、リンデンラボの新しいCEOに、元オーガニックのトップ、マーク・キングドンが就任したというインスタントメッセージが届いた。また彼の情報によると、ミッチ・ケイパーが、3Dカメラとモーショントラッキングソフトを組み合わせ、セカンドライフ内をハンズフリーで移動できる仕組みを開発中だとか。人々がハンズフリーでセカンドライフに潜伏できるようになるなんて、ちょっと恐ろしいような気もするけど。

[英文タイトル] A taxing time for Oracle’s Ellison; HP’s Upline sees downtime

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