@IT自分戦略研究所読者調査結果(1)
〜ITエンジニアのスキルアップ/資格取得動向調査:2004年版〜
小柴 豊アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2004/11/20
@IT自分戦略研究所では、定期的にITエンジニアのスキルアップや資格取得動向を調査している。いま最も人気のあるスキル/資格は何なのか、2004年版の調査結果を紹介しよう。
■ITエンジニアの6割がスキルアップ研修を受講
はじめにスキルアップのための研修(オフラインまたはオンライン)について、読者に過去1年間の受講状況を尋ねた結果が図1だ。「主に会社の経費や制度を利用して研修を受講した」(45%)、「主に自費で研修を受講した」(15%)を合わせると、全体の60%がこの1年に何らかの研修を受講しており、ITエンジニアが持つスキルアップへの意欲の高さが表れている。
図1 スキルアップ研修受講状況 (N=914) |
■スキルアップ研修の受講内容と受講形態
では読者は、実際にどのようなスキルアップ研修を受講しているのだろうか? まずその内容を尋ねたところ、「技術スキル研修」の受講率が87%でトップに挙げられた(図2)。技術スキルはITエンジニアの本業であるだけに当然の結果だが、それに加えて「ビジネス/ヒューマンスキル研修」や「英語などの語学スキル研修」の受講率も、それぞれ33%、14%に上っている。
- マネジメントスキルを向上したい。現在は技術職で話し方のイロハも知らず、お客さまに会うことは非常にまれ。これでは将来が不安なので、人をマネジメントしていく職種に移っていきたい
- 技術の進歩があまりにも早いので、汎用的なヒューマンスキルを身に付けていきたい
- オフショア開発に必要なスキルを習得したい。具体的には、中国語やコミュニケーションスキル、業務に関連する法律など
といった読者の声を聞くと、社会人としての総合力を視野に入れたスキルアップ意向が感じられる。
図2 スキルアップ研修の受講内容 (研修受講者 n=542) |
次に読者が過去1年に受講した研修の形態を見ると、オーソドックスな「教育事業者による集合研修」がトップに挙げられた一方、新しい研修スタイルである「eラーニング/Webベースのトレーニング」の受講率が36%に達した点が注目される(図3)。
図3 スキルアップ研修の受講形態 (研修受講者 n=542) |
読者からはeラーニングに期待する以下のようなコメントが、数多く寄せられた。
- 自由な時間に自宅で学習できるeラーニングが一番便利な手段だと思います
- 現在は書籍で勉強しているが時間が取れず苦労している。eラーニングであれば毎日PCを使うので気軽に勉強できると思う
- PDAを利用したeラーニングができてほしい。通勤時間が長いので現在学習の中心は書籍になっている
- Web上で時間にとらわれずいつでも受講でき、しかも実機で操作できる環境(Web上に仮想サーバがあるようなイメージ)で学習したい
eラーニングは時間に追われる現代のITエンジニアにとって、理想的な学習手段と見られているようだ。コメントにあるような“ユビキタス学習環境”や“仮想実機環境”を実現できれば、その利用率は今後大きく拡大する可能性があるだろう。
■現在のスキルと今後身に付けたいスキル
続いてIT関連の技術諸分野について、読者が現在までに身に付けているスキル/今後身に付けたいスキルを尋ねた結果が、図4だ。まず青棒グラフを見ると、現在は「Windowsシステム管理」をはじめ「Web系システム開発」「Visual Basic」といったスキルの保有者が多いことが分かる。一方今後身に付けたいスキル(黄棒グラフ)では、「セキュリティ構築/管理」「オブジェクト指向分析/設計(OOAD)」「XML/Webサービス」など、最近のシステム課題や先端テクノロジに関するスキルの習得意向が高くなっている。
図4 テクニカルスキルの保有状況(複数回答 N=914) |
図4のデータについて横軸に「現在のスキル」、縦軸に「今後身に付けたいスキル」のポイントをプロットし、散布図で表したのが図5だ。各データが置かれているポジションによって、おおむね次の4つのスキル群に分けることができそうだ。
- レガシースキル:現在保有者が少なく、今後の習得意向も低いスキル(汎用機系開発やCOBOL)
- 成熟スキル:現在保有者は多いが、習得意向は低いスキル(クライアント/サーバ系開発、VB、C/C++)
- 花形スキル:現在保有者が多く、習得意向も高いスキル(Web系開発、Java、データベース、ネットワーク)
- 注目スキル:現在保有者は少ないが、習得意向が高いスキル(セキュリティ、オブジェクト指向分析設計、Linuxシステム管理、XML/Webサービス、Microsoft .NET)
図5 テクニカルスキルの保有状況:散布図(複数回答 N=914) |
こうして見ると現在のシステム開発/運用に多用される技術が“花形スキル群”に含まれており、ITトレンドとエンジニアのスキルアップ意識が同期している様子が分かる。現在の“注目スキル群”の中から、どのスキルが“花形”に移行していくのか、今後も定期的にウォッチしていきたい。
■勤務先の資格取得支援制度の多くは結果重視型
さて後半では、ITエンジニアの資格取得状況をチェックしていこう。
本題に入る前に、まず読者の勤務先における資格取得支援体制を尋ねたところ、全体の7割強が社内で何らかの支援制度を備えていることが分かった(図6)。ただしその内容を見ると「資格を取得すると、資格手当が支給される」「合格した場合にのみ、受験料を負担してもらえる」といった“結果重視”な制度が多いため、実態としては個人がリスクを背負って学習/受験しているエンジニアが多いようだ。
図6 勤務先の資格取得支援制度(複数回答 N=914) |
■国家/公的資格の取得状況は?
では具体的なIT関連資格の取得状況について、国家/公的資格、ベンダニュートラル資格、ベンダ資格の順に見ていこう。
まず国家/公的資格を見ると、回答者の半数近くが現在「基本情報技術者」を取得しており、これがITエンジニアにとっての“入門資格”であることが確認された(図7 緑棒グラフ)。また読者が今後取得を目指している資格では、ネットワーク/データベースを中心とした「テクニカルエンジニア」への注目度が高いほか、セキュリティ課題の表面化を背景に「情報セキュリティアドミニストレータ」(図7 黄棒グラフ)の人気も高くなっている。
図7 資格取得状況:国家/公的資格(複数回答 N=914) |
■ベンダニュートラル資格の取得状況は?
次に、ベンダニュートラル資格の取得率/取得意向を尋ねた結果が、図8だ。この分野では、上述した注目スキル群に関連する「XMLマスター」「UMLモデリング技能認定」および「OMG認定UML技術者資格」「LPI(Linuxプロフェッショナル認定)」の取得意向が、そろって上位に挙げられている。
図8 資格取得状況:ベンダニュートラル資格(複数回答 N=914) |
■ベンダ資格の取得状況と今後の受験ニーズ
続いてベンダ資格の取得状況を見てみよう。今回はサンマイクロシステムズ/シスコシステムズ/日本オラクル/マイクロソフトの4社に注目し、各社の個別資格ごとに選択肢を用意した。
まず現在の取得率では「Oracle Silver Fellow(旧Silver)」がトップに挙げられており、以下「MCP:Microsoft Certified Professional」、「SJC-P:Sun Certified Programmer」および「ORACLE MASTER Silver(旧Gold)」と続いている(図9 青棒グラフ)。また今後の取得意向を見ても、「ORACLE MASTER Silver」を筆頭に「ORACLE MASTER Gold(旧Platinum)」や新設された「ORACLE MASTER Bronze」の人気は高く(図9 黄棒グラフ)、“資格ベンダ”としての日本オラクルの存在感は、他社を一歩リードした感がある。
図9 資格取得状況:ベンダ資格(複数回答 N=914) |
最後に、ITエンジニアが今後どのような資格の取得を考えているのか、読者のコメントからその受験ニーズを探ってみよう。
まず多く聞かれたのが、現在の業務に直結している/自分の能力を証明できるといった“実務指向型資格”ニーズだ。
- 仕事に直接つながる資格なら、お客さまからの信頼につながる
- 応用力が試され、実務能力を証明できると思える資格なら、何でもチャレンジしたい
- 自分の実績に関連する資格(資格だけ持っていても意味がない。実績と、それを裏付ける資格、という取り方をしたい)
- 現場で即戦力となることを証明できるような資格
上記実務指向型資格は、ITエンジニアの「実績」を認定することで、日々の業務や営業、転職などの場面に有効な武器となりそうだ。一方で自分の「可能性」のために、資格を活用する考え方もある。
- できることなら、コンサルタント的な仕事がしたい。その手段とか、自分にとって向いているか/実現性など考えていきたい
- ネットワークなどのインフラ関連での仕事に興味があり、そのスキルの習得目標としてテクニカルエンジニア(ネットワーク)を取得したい
- 経営の問題・課題の整理とITによる解決策計画について今後の主な仕事にしていきたいと考えているため、経営について体系的に学べる中小企業診断士の取得と、今後の開発技術の主流になると考えているオブジェクト指向モデリング技術について学んでいきたい
これらは将来のスキルアップ/キャリアアップを目的とした“自分戦略型資格”ニーズといえる。いずれにしても、読者のコメントからは資格取得に対する明確な目的意識が感じられた。今後は上述したようなニーズに応えられるかどうかが、“ITエンジニアに認定される”資格の条件となりそうだ。
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