読者調査結果

@IT自分戦略研究所読者調査結果(2)
〜ITエンジニアであることの“喜びと不安”とは?〜

小柴 豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2005/2/22

 @IT自分戦略研究所では、ITエンジニアのスキルアップやキャリアアップに関して、定期的に読者調査を実施している。本稿ではITエンジニアの職業意識について、2004年末に実施した最新の調査結果を紹介しよう。

ITエンジニア職の魅力/やりがいとは

 はじめに、読者がITエンジニアという職業をどう思っているのか、現職の選好度を尋ねた結果が図1だ。「この仕事が好きだ。天職だと思う」および「好きとはいい切れないが、自分に向いていると思う」を合計すると、回答者全体の75%が、現在の仕事を肯定的にとらえていることが分かる。特に“天職”と認識する人が3割に上った点からは、ITエンジニアという職業の持つ魅力/やりがいの高さが感じられる。

図1 ITエンジニアの職業選好度 (N=467)

 では読者が“エンジニアになって良かった”と思うのは、具体的にどのような瞬間なのだろうか? 自由にコメントしてもらったところ、最も多く寄せられたのは、以下のような“顧客から評価/感謝された瞬間”だった。

  • 立ち上げたシステムをエンドユーザーに「助かる!」「便利だ!」「ありがとう」と評価されたとき
  • 顧客に「このシステムを入れたおかげで作業が楽になった」といわれたとき
  • お客さまから「あなたが担当でよかった」といわれたとき

もっともこれはITエンジニア固有の喜びというより、人を相手にする職業に共通した価値観といえそうだ。ではITエンジニアならではのやりがいは、どこにあるのだろう? 再びコメントに戻ると、

  • 新しいものを作る楽しさ、自分の発想が形になるうれしさ
  • 至極当たり前な感じですが、ものを作り、完成させる喜び
  • ものを作っている過程が、一番しんどいけど楽しい

などの“モノ作り/創造性を発揮する瞬間”や、

  • 新しい知識・技術を常に欲するような、どん欲な考え方ができるようになった自分に気付いた瞬間
  • さまざまな技術や考え方に刺激を受け、自分が成長していることを実感できるとき

といった“知識/スキルを身に付け成長する瞬間”を挙げる読者も多かった。これらを総合すると、“モノ(システム)作りを通じて自己の成長と他者(顧客)への貢献を実感できること”が、ITエンジニア職のモチベーションとなっているようだ。

現在の不安/不満/悩み

 では反対に、読者は現職にどのような不満や不安・悩みを抱えているのだろうか? その主因を尋ねたところ、「現在の勤務先(職場環境/待遇/経営方針など)」「自分の将来(今後のキャリアプラン)」「自分の能力/適性(技術スキル/ビジネススキル)」の順で、上位に挙げられた(図2)。職務内容には適応していても、現在の職場環境や今後のスキル/キャリア計画に悩んでいるITエンジニアは多いようだ。

図2 ITエンジニア職の不満/不安/悩み (N=467)

 図2で上位に挙げられた不満/不安の具体的な状況について、読者の生の声を紹介しよう。

 まず「現在の勤務先」に関しては、不明瞭な経営方針/ビジョンや、公平感のない人事考課制度を指摘する意見が多かった。

  • 会社の方針が明確ではない。ITコンサルタントを中心にするのか、開発を行うのか
  • 人事制度や給与制度が名目上は成果主義なのだが、実態は旧態依然とした年功序列制度に近い
  • 給与/賞与の評価基準が不透明で、何が評価されているのか分からない

これらはITエンジニアのみならず、低成長時代の会社・団体勤務者が感じる一般的な不満とも考えられる。一方「自分の将来」や「能力/適性」については、

  1. “激しい環境変化”の中、


    • 業界全体が成熟しておらず、上流も下流も刻々と変わる
    • 技術の変化や会社の経営方針の変化が激しいので、将来どう生き抜いていけるのか非常に不透明

  2. “エンジニアの職業寿命”は短く、


    • 日に日に進歩するテクノロジにいつまでついて行けるだろうか
    • 会社が求めるのはプロジェクトマネジメント能力。できれば技術寄りの仕事をしていたい、しかしスーパープログラマ的能力があるわけでもないので、その道を進むのは厳しいことは分かっている
    • 現場でいまのままの職にいたいのだが、年を負うごとにマネジメントに進めといわれること。技術職上にキャリアパスがない

  3. “今後のキャリアプラン”が描けない


    • 40歳ぐらいになったときに、自分はどんなスキルを身に付けて、どんな道に進もうとしているか、またはどんな岐路に立っているのか想像がつかない。もちろん面白い側面もあるものの、単にキャリアプランが描けないだけではないかという不安がある

といった不安感が、多くの読者から寄せられた。こちらは勤務先要因とは異なり、先端技術を扱うITエンジニア特有の職業的不安といえるだろう。

今後も歩みたい職業人生は技術職

 では読者は今後どのような職業人生を歩みたいと思っているのだろうか。ざっくりと4つの選択肢を示し、択一で答えてもらった。

  1. プログラミング/データベース管理など、特定技術分野の専門性を極める
  2. 業務分析など、より上流工程の業務にシフトする
  3. マネージャ/管理職業務にシフトする
  4. 異業種やほかの職種にシフトする
図3 今後歩みたい職業人生 (N=467)

 図3を見ると、「上流工程業務にシフトする」または「専門性を極める」との回答が、合わせて全体の63%に達しており、回答者のおよそ3人に2人はITエンジニアであり続けることを希望している。図1で見た職業選好度の高さが、技術職へのこだわりとなって表れているようだ。

職業目標のために実施していることは技術スキルの向上

 次に上記職業目標のために、読者が現在実行しているアクションを聞いたところ、全体の75%が「IT技術スキルの学習」、同52%が「IT関連の資格取得」を挙げており、ITエンジニアの技術スキル向上意欲の高さが、改めて明らかになった(図4)。

図4 職業目標のために実行しているアクション (複数回答 N=467)

 具体的な技術スキルの学習方法としては、身近な書籍/雑誌/Webサイトなどによる自習に加えて、

  • いままでやってきたシステムの問題の洗い出し、フレームワーク化、ライブラリ化をして自分の資産にする
  • 社内インフラなど、多少の無理は利く環境で、オーバースペックであっても最新技術を導入する

といった実践的/体験的手法を併用している読者も多いようだ。またIT関連資格に関しても、取得を目標とするだけではなく、その学習過程を通じて得られる知識・スキルを重視する志向も見られた。

  • 資格の取得を1つの目安とし、確実に技術スキルを上げていっている
  • 特に資格を取ると決めているわけではないが、オラクルマスターやMCSEなどの参考書を買って独学している

広い視野に立ったスキル/キャリア計画が必要

 ここまで見てきたとおり、技術スキル習得にかける読者の情熱は強い。それはITエンジニアという職業への愛着や誇りを示すと同時に、将来の不安の大きさを表しているようにも思われる。最後に最も象徴的なコメントを引用しておこう。

  • 漠然と「このままで良いのか? 私がボッーとしている間に、他人はすごいスキルを身に付けているのでは?」と思うことがあります。今後もこの仕事で食べていけるだけのスキルが欲しい! でも、「これを身に付ければ、必ず食べていける」というスキルを見つけ出す方が難しいですね……

ITが進歩を続ける限り、“必ず食べていける”技術が確立される日は、今後も来ないだろう。変化の激しい今日において、特定技術スキルを追求するだけでは、かえってITエンジニアとしての寿命を縮める結果につながりかねない。

 ここで思い出したいのが、冒頭で見た“エンジニアになって良かったと思う瞬間”だ。最終的に顧客から評価/感謝を獲得するために必要なスキルは、決してテクニカルなものだけではないはずだ。ITエンジニアとして充実した職業人生を送るためにも、より広い視野に立ったスキル/キャリア計画が望まれるだろう。

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調査概要
調査方法 @IT自分戦略研究所からリンクしたWebアンケート
調査期間 2004年11月22日〜12月14日
有効回答数 467件



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