OfficeのUI改善の歴史から紐解く “ユーザーエクペリエンス” 〜 @IT リッチクライアント カンファレンスIV イベントレポート 〜 |
2008年9月19日、@IT編集部主催のセミナー「@IT リッチクライアント カンファレンスIV〜そのWebアプリ使いやすいですか〜」が東京・目黒で開催された。本稿では、マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 デベロッパービジネス本部 エバンジェリスト 川西裕幸氏によるセッション「ビジネスWebアプリにおけるユーザーエクスペリエンス戦略」の模様をレポートする。
ユーザーエクペリエンスとは、 機能・ユーザビリティ・楽しさ |
川西氏は、まず「ユーザーエクペリエンス(以下、UX)とは何か」というところから説明した。「UXとは何か」を説明するうえで欠かせないのは「ユーザビリティ」との比較だろう。ユーザビリティはISOなどで標準の定義が決まっているが、UXは明確に決まっていない。「UXは機能・ユーザビリティ・楽しさから成り立つ」(川西氏)というように、UXはユーザビリティを含める広い概念としてとらえられることが多い。
マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 デベロッパービジネス本部 エバンジェリスト 川西裕幸氏 |
「例えば、自動車のような成熟したマーケットでは、『機能だけでは不十分』というのは当たり前のことだ。消費者用だと“楽しさ”が重視され、業務用ではユーザビリティが重視されるなど違いはあるが、どちらかが欠けているとユーザーに使ってもらえない。機能・ユーザビリティ・楽しさを併せたUXを備えてないと、競争力・差別化は生み出せない」(川西氏)
また一般的には、UXはいわゆる消費者向けのWebサイトに適用されてこそ効果が高いと思われがちだ。しかし、川西氏は「UXは実は業務アプリケーションにこそ、高いROI(Return On Investment、投資収益率)をもたらし、効率性と安全性という高い価値を付加する」と主張する。効率性とは、以下の3つのコストの削減につながる。アプリケーションを使うための導入コスト、実際に作業を行う時間のコスト、アプリケーションを使うときに分からないことがあった場合にヘルプなどに頼るサポートコストだ。安全性は誤発注や誤入力、記録が消えてしまうなどの事故を削減するというものである。
Wordの進化に見るUIの改善 |
では、具体的にマイクロソフトはどのようにUXに取り組んできたのか。川西氏はMicrosoft Word(以下、Word)を例にその成功と失敗を紹介した。Wordはバージョン1.0から95、そして2003に至るまでユーザーの要望に応えて機能のメニュー、そしてツールバーやタスクペインを増やし続けてきた(図1)。
図1 バージョンごとに追加されたWordの機能(川西氏の講演資料より引用) |
その結果、Wordを含めOfficeはツールバーをすべて表示できなくなってしまった。しかも、ユーザーからの機能の要求は現在も増え続けている。ツールバーを使わずに、どうやって機能を使えるようにするのかがOffice開発チームの課題になってきたのだ。
川西氏はまず失敗例として、Office 2000での適応型メニューやいかだ型ツールバーを紹介した。これらは使われる優先順位によってメニューの位置が変わるというものだが、ユーザーは位置が変わることにフラストレーションを覚えることが多いので、結局は機能をオフにされるのだという。また、メニューの中に“小窓”が置きにくいことを反省し、小窓の塊を1個のペインとして表示するようにしたOffice XPのタスクペイン機能も紹介された。この機能は多くのユーザーに使われ、成功例として紹介されたが、1回に1つのタスクペインしか表示できないという欠点もあったとのことだった。
それでは、最新版のOffice 2007ではどのようなUI改善が行われたのか。川西氏はまず、Office 2007から採用された「Fittsの法則」について説明した。Fittsの法則は航空機の研究者がコックピットの操作性を数値化するために導き出した数式で、簡単にいうと、開始点からターゲットとするボタンまでの距離は短ければ良く、ターゲットとするもの大きさは大きければ大きいほど良いというものだ。
この法則を採用した結果、Office 2007ではメニューのボタンをより大きくし(図2)、編集したい文字列などを右クリックしたすぐ近くに、ミニツールバーを表示できるようにした。
図2 Office 2007はボタンがより大きい(川西氏の講演資料より引用) |
さらに、川西氏をして「メニュー表示を減らすうえで一番役に立つ」といわしめたのが、「コンテキストタブ」機能だ。これは、文章を書くとき、グラフを作るとき、絵を描くときなどいろいろな目標に応じて、メニューバーを必要なメニューに切り替えるというものだ。
Office開発チームの結論として、川西氏は次のように述べた。「ユーザーが求めるのは、より多くの機能と、より少ない表示だ。Office開発チームの仕事は、現実的な実用性とデザインの可能性との間のバランスを取ること。UXは製品の一部ではなく、製品がUXの一部なのだ」
UXを取り入れるためには どうすればいいのか? |
それでは、このようなUXを自社の製品に実装する、または考慮するにはどういった戦略が必要なのか。講演の締めくくりに川西氏は次のように提案した。
「ユーザーエクペリエンスを構成するユーザビリティは数値化が可能だ。Fittsの法則を適用したり、測定する要件も決めることができ、ROIが予測可能である。また、楽しさについては数値化は未成熟だが、ユーザー調査やペルソナ手法が有効だ。これらのデータを基に、個人的ではなく戦略的・組織的にUXに取り組む必要がある。そのためには、UX専門家を含めたチームでアーキテクチャにUXを組み込む必要がある。また、早期にユーザーのフィードバックを得るようにする“イテレーション型”開発を行う必要もあるだろう。そのためには、例えば“紙”のプロトタイプがかなり有効でOffice開発チームも行っているので、試してみてはいかがだろうか」
提供:マイクロソフト株式会社
企画:アイティメディア 営業本部
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2008年11月6日
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・Microsoft Office |
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