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@IT > SPSS Data Mining Day 2006 イベントレポート後編 |
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SPSSユーザーからの事例発表は、まず株式会社ベネッセコーポレーション(以下、「ベネッセ」)の児童教育カンパニー、牛島大介氏、小矢野真也氏の両氏によって行われた。 両氏の所属する小学講座事業部は、小学生対象の通信教育である「進研ゼミ小学講座」(以下、「小学講座」)を展開している。現在、同講座の会員数(小学校1〜6年生合計)は161万人に達しているという。
同社では、地域エリア/家族単位のデータベースと個人の履歴すべてを記録したデータベースを保有し、消費者行動と顧客情報に基づくマーケティング活動を行っている。この活動では「新規顧客獲得」→「活用促進」→「退会防止」→「商品改訂」→「オプション販売」→「友人紹介」→「新規顧客獲得」というサイクルを繰り返している。 その中でも、特に重視していることは「教材の活用促進」および「退会防止」だという。会員が退会する理由としては「子どもが教材を活用しない」「他の学習法へ変える(塾や教室へのシフト)」など、さまざまな理由が存在している。これに対し、継続受講のための基本的な施策として次の4つを掲げている。
例えば、社会的絆における「赤ペン先生の担任制」とは、添削を行う赤ペン先生が同じ会員を継続して担当するものである(担任制でない場合、回答毎に赤ペン先生が変わる)。この担任制は、現在、会員の60〜80%が利用しているという。
また、カスタマイゼーションによる絆において展開される「継続受講プログラム」は、会員の属性情報(受講期間、支払形態、赤ペン提出有無)、および行動変化情報(赤ペン提出パターン)といった個人の履歴から、退会可能性のアラームをキャッチし、適切な手を打つものである。 多角的な施策によって顧客との関係性を強めた結果、確かに継続率は向上するのだが、それには限界があったという。
そもそも、小学講座は年間を通じて継続することで学力を高めていくことができる教材として設計されている。ところが、会員側にこの「年間商品」としての認識が弱く、むしろ「月次商品」という認識が強かったため、月毎に継続率が低下していくという問題があった。
その一方で、担当部門、担当者個人でさまざまな継続受講のための施策が行われていたため、効果を図ることが困難だったという。そこで、各部門の施策が相乗効果を生むような全体的なシナジー設計が必要とされていた。
こうした状況を踏まえてベネッセでは、CRM戦略に基づく新たな学習システムを構築したという。この学習システムでは、各会員の学力やニーズを踏まえた「カウンセリング」から始まり「プラン(学習計画)」→「学習」→「指導」→「成果」と進んで、再び「プラン(学習計画の見直し)」に戻るというように一連の学習サイクルを描いている。 つまり、教材の活用状況だけでなく、学習の効果を実感させ、月次商品から年間商品という認識に誘導するための仕組みであり、年間商品としてのマーケティングメッセージを盛り込んだものだ。ベネッセではこれを「全体ナビゲーション」と呼んでいるという。 この全体ナビゲーションに基づく個別のナビゲーションとして、現在開発中なのが「Webナビゲーション」だ。この「Webナビゲーション」は、紙メディアの活用を中心とした既存のシステムではカバーできない、学習サイクルを回すために必要な機能を会員に提供するものだ。ベネッセのデータベースにアクセスすることで受講中の小学講座の学習状況だけでなく、宿題や市販ドリル、塾などを含めた家庭全体の学習スケジュールを管理できるよう設計されているとのだそうだ。これにより、家庭における学習が円滑に進められるよう支援していくという。
オプション講座・教材の提案のために、SPSSのClementineを利用して会員情報に基づく顧客のセグメンテーションを行っているそうだ。
電話のオペレーターを介して、教材の活用が不安定になっている「活用不安定層」の問題意識(教材がたまってしまった、教材の使い方がわからないなど)を聞き出すなど、各家庭の子どもの学習状況に応じた電話でのコミュニケーションを最適化することなどにも、データマイニングを活用しているそうだ。 最後に、牛島氏は「今後も継続率をさらに高めていくため、小学講座は年間商品であるという認識を向上させ、個々の会員ニーズに合った教材の提供、CRM戦略の進化、会員セグメントの強化、セグメントと施策の最適化、セグメント別施策の自動化などを進めていきます」と、これからの展望を述べ、プレゼンテーションを終えた。
2番目のユーザー事例は、アサヒビール株式会社 お客様生活文化研究所の渡辺誉昌氏により発表が行われた。お客様生活文化研究所は、アサヒビールグループが掲げているビジョン“アサヒビールグループは「食」と「健康」に関する事業を通して、新しい時代における人々の楽しく・心豊かな生活文化の創造に挑戦する”を達成するために設立された。同研究所の主な活動は、次の2つである。
今回の渡辺氏の発表では、明治学院大学教授、清水聰氏との共同研究である「ビール系アルコール飲料のブランド選択プロセス」解明の取り組みについてご紹介いただいたが、そもそも、こうした調査研究に取り組んだ背景には、近年さまざまな種類のアルコール飲料が登場して、市場が多様化していることがある。 このため、各種アルコール飲料に対する消費者の期待価値を分析してみると、ビールに類似した特徴を持つカテゴリー、すなわちビール、発泡酒、チューハイ・サワーに求める「止渇・爽快」という期待価値は、この3者間でほとんど差がなくなってきていることが分かっている。またビールがよく飲用されるシーンである「平日の夕食時」「休前日の夕食時」において、発泡酒、チューハイ・サワーもまた、よく飲まれている。
そうした市場環境の中で、「お客様がなぜ、そのブランドを購入しているのかを詳細に理解できれば売れる・差別性のある商品開発に役立つのでははないか」という問題意識が芽生えたという。そこで「ブランド選択」について、情報処理型包括モデルを参考に仮説を立てた。 例えば、図1において、A氏は「ビールを飲んで元気になりたい」という「期待価値」と「CMのイメージがかなり大事」という「注目点」を踏まえて、「キレがいいのが最高ね!」「飲みやすいし手軽だし」といった「態度(ブランドイメージ)」が形成され、「スーパードライ」を選択するという結果に結びついている。B氏では、「ビールにはリラックスを求める(期待価値)」「製法に凝っている商品がいいな(注目点)」を踏まえて、「金色のパッケージが気に入っている」「ネーミングに惹かれてる」といった態度が形成され「本生」が選択されているという一連の購買行動が考えられる。
2003年12月、明治学院大学経済学部 清水聰教授をアドバイザーに迎え、仮説として立てた「ブランド選択プロセス」を検証するため、20〜50歳代の男女計837名を対象にインターネット定量調査が行われた。調査設計にあたっては、ブランドのイメージと味イメージを同一質問内に混在させることで質とイメージを同じ次元で比較させると共に、回答者の負荷軽減のため、同社のスーパードライを含めた8ブランドに限定するなどの工夫を凝らしたそうだ。 インターネット調査で回収された消費者データをデータマイニングした結果、期待価値、購入時重視点、ブランドイメージの3つの項目のつながりの強さは次のようになった。図2において、太い線でつながれたルートが購買につながりやすいルートである。項目間の関係性の強弱を見ることによって、ブランドごとの購入選択プロセスが浮き彫りになっている。
この分析は、市場を俯瞰して、自社ブランドと他社ブランドという大きなくくりでの「ブランド選択プロセス」を把握することもできるが、渡辺氏は「自社と他社で異なる購入プロセスを見ていくことによって、当社のコミュニケーション戦略の立案に役立てることができます」という。 さらに、選択のプロセスは、ビール類との関与度によって変わっているのではないかと考え、関与度に関する調査項目の該当数の多い・少ないと、項目の内容(話題・広告が気になる、製造過程へのこだわりがある、ビール好きかどうかなど)の組み合わせで、8つの消費者グループ(セグメント)を抽出している。
そして、この各グループ別にブランド選択プロセスを見ていくことによって、消費者の特徴の違いによって、ブランド選択プロセスにも違いが生じることが明らかになっている。さらに、消費者がビールと発泡酒を併飲している傾向があることを踏まえ、「ビールメインのユーザー」「ビールと発泡酒と半々」「発泡酒メインユーザー」といった飲み方の違いで消費者をセグメントし、各消費者セグメントでどのブランド同士が競合関係にあるかという分析をMDS分析によって把握している。 渡辺氏は最後に「データマイニングを行うことによって消費者への理解が深まっていると感じています。今後はブランドの強さに関する研究などにも取り組んでいきたいと考えています」と述べて講演を締めくくった。
提供:エス・ピー・エス・エス株式会社 企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2006年7月28日 |
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