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企画:アットマーク・アイティ 営業企画局
制作:アットマーク・アイティ 編集局
掲載内容有効期限:2003月8月11日

 



いま見えてきた「基幹システム・オープン化」への道
【第5回】

@IT読者調査に見る
基幹システム・オープン化の実態と課題

 当シリーズ企画(“いま見えてきた「基幹システム・オープン化」への道”)では、これまでコンサルタントやシステムインテグレータ、ハードウェア/ソフトウェアベンダなどさまざまな立場の識者から、基幹システム・オープン化の動向を聞いてきた。では実際に基幹システムの構築/運用に携わる現場では、どのようにオープン化に取り組んでいるのだろうか? 今回は、@ITに集うITエキスパート読者を対象に実施したアンケート調査から、その状況をレポートしよう。

  大規模システムの脱汎用機意向くっきり

 初めに、@IT読者がかかわる基幹システムに、どのようなプラットフォームが使用されているのか確認しておこう(図1)。現在稼動中のプラットフォームを見ると、全体の約半数が「Windows」を使用しており、「汎用機」および「商用UNIX」がほぼ同率でそれを追う結果となった(青棒グラフ)。一方今後(5年後くらいの時点で)使用が予定/検討されているプラットフォームでは、Windowsがトップであることは変わらないものの、次点に「Linux」が挙げられている(黄棒グラフ)。現在使用率と今後の使用予定/検討率を比べると、唯一Linuxだけは今後の使用意向が現在使用率を上回っており、最も成長が期待されるプラットフォームであることが分かる。

図1 基幹システムのプラットフォーム使用状況(全体 N=478 複数回答)

 ところで一口に基幹システムといっても、その規模によってプラットフォームに大きな偏りがあると思われる。そこで図1の設問を、ユーザー数1000人以上の“大規模システム構築/管理者”の回答に絞って集計した結果が、図2だ。ご覧のとおり、大規模システムでは、基幹系における「汎用機」の使用率が現在も5割を超えている(青棒グラフ)。しかし今後の使用予定・検討率を見ると、その数字は17%まで大きく下がっており、大規模システムにおいても“脱汎用機”の意識が高いことが分かる(黄棒グラフ)。また図1の全体集計に比べると、この層では現在/今後とも「商用UNIX」の使用意向の高さが目立っている。以下、本稿では全体vs.大規模システムの差異を軸に、オープン化の状況を探っていこう。

図2 基幹システムのプラットフォーム使用状況(大規模システム n=131 複数回答)

  大規模システム・オープン化は現在進行形

 それでは基幹システムのオープン化はどの程度進んでいるのだろうか? 回答者全体および大規模システム関与者の回答を集計して比較したところ、「すでにオープン化を実施済み」との回答は両者ともほぼ同率(24−25%)だったが、「現在オープン化を進行中」を選んだのは全体の29%に対し、大規模システム層では40%に達している(図3)。図2で見たとおり、システム規模が大きくなるほどレガシー使用比率が高まるだけに、オープン化への取り組みは、大規模システム層において、より積極的に行われているようだ。

図3 基幹システムのオープン化の意向・進ちょく状況(全体 N=478/大規模システム n=131)

  基幹システム・オープン化の開発期間は、3年以内が目安

 基幹システムをオープン化するにあたって、開発にはどのくらいの時間がかけられるのだろうか? オープン化を実施済み/進行中または予定・検討中の読者に、その開発期間を尋ねたところ、全体では「6カ月〜1年」および「1年〜3年」との回答が、それぞれ3割強となった(図4 青線グラフ)。一方大規模システムでは、全体に比べて開発期間が長い傾向にはあるものの、回答の50%が「1年〜3年」に集中している(赤線グラフ)。ビジネス環境/技術動向の変化が激しい昨今、システム開発プロジェクトは全般的に短期化する傾向にあるが、基幹システムの領域においても、開発に3年以上かけられるような余裕はなくなっているようだ。

図4 基幹システムオープン化の開発期間(全体 N=402/大規模システム n=113)

  基幹システムをオープン化する目的は「TCO+変化への対応」

 ところで、そもそも基幹システムはなぜオープン化しなければならないのだろうか? 実際基幹システムの構築/管理にかかわる読者に、その理由を聞いたところ、デフレ経済下に相応しく「情報システムのTCOを削減するため」がトップに挙げられた(図5)。またコスト要因に続いては、「市場やビジネスの変化に柔軟に対応するシステム基盤を構築するため」「ビジネスプロセスの統合や標準化を行うため」といった項目が上位に挙げられている。経営環境変化への対応の遅れが企業活動にとって致命傷になる現在、その神経系統である基幹システムに迅速さや柔軟性が求められるのは、自然な流れだろう。今日において基幹システムを“オープン化”する意義は、プラットフォームの代替にとどまらず、企業自身を外部に開かれた存在に変えていくことにありそうだ。

図5 基幹システムのオープン化理由/きっかけ(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

〜読者のコメントより〜

  • 運用なども含めたライフサイクルコストについての顧客の考え方が、非常にシビアになってきている
  • 時代の要請であり、合併その他の予測できない事態にも対応可能な形態はオープン化であると思う
  • (既存システムでは)業務の標準化、経営判断の材料となりにくい
  • 企業は情報を戦略の中心におき、情報を活用することで自社の独自性を高める方向に進みつつあると思う。こうなると、ホスト系のようにクローズドなシステム構成ではなく、あらゆるデータを連携して企業価値を高めるための情報に変えるような環境が一般になると思う

  大規模システムに見られる「既存資産は維持」傾向

 さてここからは、基幹システムをオープン化する際の方法や内容について、いくつかの側面から検証していこう。

 まずオープン化に当たってホストコンピュータやプログラムなどの“既存資産”をどう扱うのか聞いた結果が、図6だ。オープン化意向のある読者に3つの選択肢(「既存資産は撤廃し、基幹システムを全面的にオープン化」「既存資産をオープン・システム上に移植」「既存資産は維持したまま、オープン系業務システムと連携」)を提示したところ、全体的に大きな差異は見られなかった(青棒グラフ)。しかし大規模システム関与者の回答を見ると、「既存資産は維持してオープン系システムと連携」の選択者が5割を超え、「全面オープン化」や「移植」を大きく上回る結果となった(黄棒グラフ)。

図6 基幹システムオープン化時の既存資産の取扱い(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

 また読者からは、

  • 基幹系は独自の作りこみが多いので、システムの移行になかなか踏み切れないと思う
  • 既存資産が多く、また購入済みのハードウェアも高価であるため全面的に撤廃する可能性が低い

との声も聞かれた。本シリーズ第2回で紹介したように、サン/HPなどのオープン系ベンダは現在さまざまなメインフレーム代替プランを提案しているが、実際に既存資産を撤廃/移植するには、いまだ多くのハードルが存在するようだ。

  オープン化で実現する内容は、「まずはクライアント層のWeb化から」

 次に基幹システムのオープン化で実現する内容を尋ねたところ、全体の75%が「入力画面などクライアント層のWeb化」を挙げており、現在最も一般的なオープン化の形態であることが分かる(図7)。これならば図6で見たような“既存資産維持ニーズ”の強い大規模システムにおいても、オープン化の第1段階として取り組みやすいものと思われる。

図7 基幹システムオープン化の実現内容(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

〜読者のコメントより〜

  • 現在の基幹部分の資産はそのまま残し、エントリおよび検索関係のみ切り替えるのが安全であり、投資も少なくてすみます

 しかしその反面、「基幹系とCRMなどの社内システム連携」や「EDI/BtoBなどの企業間システム連携」といった項目の実施/検討率は、オープン化意向者の20〜40%程度にとどまっている。先述したオープン化の目的(「変化対応のシステム基盤構築」や「ビジネスプロセスの統合や標準化」)を実現するためには、こうした社内外のシステム連携が必要なだけに、さらなるオープン化の進展が求められるだろう。

  オープン基幹システム時代のアプリケーション構築手法は?

 では基幹システムをオープン系で構築する際、読者はアプリケーションをどのように開発するのだろうか? スクラッチ開発からパッケージ導入まで4つの選択肢を提示したところ、全体的にもっとも支持されたのは「商用のミドルウェアやツールを組み合わせて構築」する手法だった(図8)。商用製品への支持は、特に大規模システム関与者では66%に達している。近年オープンソースのミドルウェア製品も、機能的に商用製品に迫るといわれてはいるが、さすがに基幹系で特に大規模なシステムとなると大量トランザクションを処理するために、商用製品クラスの性能/信頼性が求められるようだ。

図8 基幹システムオープン化に用いるアプリケーション構築手法(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

 さて「商用ミドルウェアやツールを組み合わせる」といった場合、2つのパターンが考えられる。主に大手のソフトウェアメーカーが提供する関連製品を一括導入する“One Stop Solution”型と、複数メーカーから個別に製品を選択する“Best of Breed”型だ。そこで、図8で商用製品による組み合わせ開発を選択した読者がどちらのパターンを希望するのか聞いた結果、該当者の65%が“Best of Breed”型を選択した(図9)。オープン基幹システムを構成するさまざまなミドルウェア/ツールには、各分野ごとに強みを持つメーカーが存在している。実際にシステムを構築する際は、“One Stop Solution”による利便性よりも、“Best of Breed”による最適構成を望むエンジニアが多いようだ。

図9 商用製品利用時に望ましい導入形態(商用製品利用意向者 n=199)

  オープン基幹システムの開発生産性向上策は?

 オープン基幹システムを構築する上で、図4で見た“開発期間の短期化”は大きな課題であると思われる。そこでオープン基幹システムの開発生産性を向上するために、読者が今後利用したいと思うもの尋ねたところ、全体の過半数が「オープン基幹システム構築用のアプリケーション・フレームワーク」および「ミドルウェアやツールなど、複数製品の連携/稼動を検証した実装モデル」への利用意向を示した(図10)。「基幹システム構築用のフレームワーク」は、J2EEによるシステム開発の普及と共に、多くのベンダが開発/市販するようになった。一方「検証済み実装モデル」は、特に大規模システム関与者層での利用意向が高い(図10 黄棒グラフ)が、これは同層の商用製品利用率の高さ(図8)に加え、“Best of Breed”型製品選択(図9)の検証工数を削減できる点が支持されたものだろう。

図10 今後利用したいオープン基幹システムの開発生産性向上策(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

  “完全なるオープン化は実現しない”?

 さてここまでオープン化の状況や方法を調べてきたわけだが、基幹システムはこのまま完全オープン化に向かうのだろうか? 読者自身の意見を聞いた結果、「今後、基幹システムは完全にオープン化される」との回答は全体の24%にとどまり、大部分(72%)は「部分的なオープン化は進むが、完全にオープン化されることはない」と考えていることが分かった(図11)。

図11 基幹システムオープン化の進展に関する意見(全体 N=478)

 では“完全なるオープン化”を妨げるのは、どんな要因なのだろうか? 最後に、基幹システム・オープン化の課題について考えてみたい。

  基幹システム・オープン化の課題とは?

 図12は、既存資産移植やデータ連携〜帳票出力/セキュリティに至るまで、オープン化のフローに沿って、読者のかかわる基幹システムの課題/問題点を尋ねた結果だ。複数回答で挙げられた内容を見ると、「既存ホストとオープンシステム間のデータ変換/連携/統合」「オープンシステム内の各種ソフト/ハードの統合運用管理」「アクセスコントロール/改ざん防止など、基幹データのセキュリティ管理」「オープン環境の帳票設計工数削減/ホストデータを使った、オープン環境からの帳票出力」といった幅広い領域で、読者が課題意識を抱えていることが分かる。

図12 基幹システムオープン化についての課題/問題点(全体 N=402/大規模システム n=113 複数回答)

〜読者のコメントから〜

  • 異システム間でバラバラのフォーマット/様式を持つため、連携ごとに個別開発を進めなくてはいけない
  • リアルタイム性の高い情報の汎用機−オープン間連携について頭を悩ませている
  • サポートが複数に分かれるため、故障原因の切り分けが難しくなる
  • Web化は強固なシステムになりにくく運用に負担がかかるが、それだけのスキルのある人材を確保するのは困難
  • 汎用機であればセキュリティ管理はシステム管理の一環で実施できたが、オープン系では個別に多くの対策を打たねばならず煩雑
  • 定型帳票をホスト出力→Web化しようとしているが、バッチ処理で出力するような大量帳票もWebで出力したいので、調整に苦労している
  • 外字をどうするかが検討課題になっている。専用の機構を作りこまなければならないようだ

 読者からは上記項目以外にも、オープンシステムの処理能力に関する不安や、オープン化の最大動機であるTCO削減効果について疑問視する声さえ聞かれた(“ハードの導入コストが安いといわれているが、基幹業務に耐えうるだけの物を用意するとなると、決して安くはない”など)。

 このような課題意識を目の当たりにすると、確かに完全なるオープン化は困難であると思われてくる。しかしそうした障害にぶつかるたびに、XMLデータ交換や帳票ツール、HAクラスタリング、オートノミック(自律)コンピューティングといった、オープン技術の進化がもたらされているのも事実だ。“基幹システム・オープン化への道”とは、こうした技術の検証を重ねることで、われわれ自身が一歩づつ舗装していくべきものなのかもしれない。“閉ざされた変化のない世界”に戻ることは、もうできないのだから。

調査概要

  • 調査方法:基幹システムにかかわる@IT読者を対象としたWebアンケート
  • 調査期間:2003年5月27日〜6月6日
  • 有効回答件数:478件

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