パッケージソフトウェアを取り巻く環境変化や、SQL Serverの機能やサービスの発展により、パッケージソフトウェアで「Microsoft SQL Server」を利用する例が増えてきている。その1つが、SCSKのB2C事業者向け統合顧客基盤「eMplex」。数百万人の会員にポイント管理などのサービスを提供するCRM用DBとして、大手小売企業でも数多くの採用実績を誇る製品だ。2018年の早い時期に、Microsoft Azure上での稼働も可能になる予定だ。
2017年10月2日(米国時間)、Microsoftのデータベース(DB)プラットフォーム「Microsoft SQL Server 2017」のGA(Generally Available:一般向け提供開始)が発表され、正式リリースとなった。SQL Server 2017はWindows Serverだけでなく、Linux OSおよびLinux用Dockerコンテナにも正式に対応したSQL Serverの最新バージョンだ。
こうしたMicrosoftの動きを受け、多くのソフトウェアベンダーが自社製品のSQL Serverへの対応を加速させている。SCSKもまた、SQL Serverへの積極的な対応作業を進めているソフトウェアベンダーの1社である。
「弊社の『eMplex』は、開発当初から複数のSQL DBを利用可能な仕組みを実装していました。ですから、SQL Serverに移行する際も、SQL Server用のSQLのセットを用意し、検証するという比較的シンプルな作業で対応は済みました」
SCSKでB2C(Business to Consumer:企業対個人)事業者向け統合顧客基盤「eMplex(エンプレックス)」の開発に携わる久保学氏(流通システム第三事業本部 流通・CRMサービス部 マネージャ)は、SQL Serverへの対応作業をこう振り返る。
eMplexは統合CRMシステム(Customer Relationship Management:CRM)として提供されていたが、2016年に本体機能を心臓部である顧客データベースのみに絞り込み、“統合顧客基盤専用製品”として提供を開始した。eコマース(EC)/Webマーケティング/分析などの各機能は自由に連携できる“アタッチメント”方式にしてあることが、構成面での大きな特徴になっている(図1)。
また、同社の井亀信彦氏(流通システム第三事業本部 営業部 マネージャ)は「弊社の製品/サービスや弊社で取り扱っている関連製品だけでなく、他社の製品/サービスとの連携も容易です」と説明する。
他社の製品/サービスとも容易に連携できるということは、eMplexのCRM基盤としての能力が優れているからに他ならない(図2)。「導入されている企業の業種は、小売業やサービス業、年間の売上規模では数百億円以上の企業が多いです。延べ400を超える企業にご活用いただいております」と、井亀氏。最終的なエンドユーザーとなる消費者は、1社当たり数十万人から数百万人に及ぶ。
また、消費者のポイント利用を管理する必要があることから、処理はリアルタイム方式。同社で製品企画を指揮する西谷友宏氏(流通システム第三事業本部 流通・CRMサービス部 副部長)は、「この領域での競合相手はほとんど存在しません」と胸を張る。
他の製品やサービスとの連携に強みを持つeMplexは、主にシステムインテグレーション(SI)の形態で提供されている。「従来のようなプログラム開発型のSIではありませんが、お客さまの業務内容をヒアリングしてデータの流れを整理し、必要な機能を満たす製品やサービスと組み合わせたソリューションとし納品しています」と西谷氏。付加サービスとして、セキュリティや顧客管理のノウハウ、それらの活用支援サービスの提供も行っているという。
このような特徴を持つeMplexが、これまでSQL Serverをサポートしてこなかったのはなぜか――。
その理由を、久保氏は「eMplexの稼働OSにLinuxを採用していたからです」と説明する。これまでのeMplexのサポート対象は「Oracle Database」と「PostgreSQL」のみ。基幹系業務システム並みの性能と信頼性が求められる用途であることから、導入実績の大半はOracle Databaseだったという。
こうした状況に変化が訪れたのは、2016年夏のことだったという。「『Microsoft Dynamics』ベースの業務システムを構築しているチームが同じ部署内にあり、そのチームから紹介されるかたちで、日本マイクロソフトの方々と顔合わせすることになりました」と、西谷氏。言うまでもなく、SQL Server 2016が発売された直後のタイミングである。
実は、その少し前からセキュリティ強化は、顧客からの要望により同社における検討課題の1つになっていた、と西谷氏は明かす。特に2016年に統合顧客管理基盤として「eMplex」を発展させるに当たり、高度なセキュリティ機能の標準搭載の顧客からの要望は非常に強かった。
しかし、既存データベースでその要望を満たそうとすると、オプション費用で莫大なコストがかかるため、顧客には実質受け入れ不可能な提案になっていた。また、既存データベースは仮想化環境上でのライセンス課金問題があり、この問題を他のデータベースに対応することにより解決を望む顧客の声は非常に大きかった。
そのような状況下で、2016年3月に新しいSQL Server 2016が発表され、それには高度なセキュリティ機能である「Always Encrypted(常時暗号化)」が標準機能としてオプションなしで搭載されていた。これは正に“個人情報の塊”であるeMplexのセキュリティ機能強化につながると同時に、現行データベースの課金問題を解決する糸口であった。
「私たちが目指したのは“セキュリティを担保したDB”を“適正な価格で提供する”ことでした」と、西谷氏。日本マイクロソフトとのやりとりを通じて、「Microsoftは本気でOracle Databaseからのリプレースを推し進めている」(西谷氏)との確信を得たことにも励まされるかたちで、eMplex開発チームは対応DBにSQL Serverを追加するための技術的な検討をスタートさせた。
もっとも、「実際にやってみたところ、それほどの苦労はありませんでした」と久保氏は語る。当初からOracle DatabaseとPostgreSQLをサポートしていたeMplexは、DB仕様に依存する部分を“外出し”にした構造になっていたため、SQL Serverに対応するに当たって、本体側のコードに手直しを加える必要がなかったのだ。
また、DB全体を自動暗号化するためのAlways Encrypted機能に対応するのも容易だったという。「SQL Serverの設定の1つとして指定するだけでしたので、アプリケーション側での対応はシンプルで済みました」(久保氏)からである。
さらに日本マイクロソフトから十分な技術支援を受けられたことも、SQL Serverへの移行を容易なものとするのに大きな助けになったという。
「特に便利だったのは、Oracle DatabaseからSQL Serverにコンバージョンするためのツール『Microsoft SQL Server Migration Assistant for Oracle(SSMA for Oracle)』でした」(久保氏)
移行作業を開始する前に勉強会を行ってもらえたことや、ソフトウェアの開発過程で生じた疑問に対して電話や電子メールで迅速に回答してもらえたことも、開発の工数と期間を抑えるのに貢献したとのことだ。
SQL Server対応のeMplexのパフォーマンスは、既存のOracle Database版と同等以上とのこと。最終の確認テストは2017年9月末に完了した。西谷氏は、「大々的な発表はしませんが、2017年内にはSQL Server対応版の提供を始めるつもりです」としている。
営業面でも、SCSKはSQL Server対応のeMplexに大きな期待を寄せている。「Microsoftの名前を知らない人は世の中にいないはずです。高い技術力とブランド力によって、eMplexへの引き合いが増えると見込んでいます」と、井亀氏。西谷氏は、「安心感とサポート力がMicrosoftの最大の魅力。技術面はもちろん、マーケティングやセールス面でも協業をさらに深めていきたいと思います」と語る。
2017年内にもスタートするSQL Server対応版eMplexに続いて、2018年の早い時期にはMicrosoft Azure対応も始まる予定だ。eMplexは既に他のメガクラウドでも稼働しており、SQL Server対応のeMplexをMicrosoft Azure上でも利用できるようにすることは、今回の移行作業が始まったときからの既定路線でもあったのだ。
「当面は、IaaS(Infrastructure as a Service)上でeMplexを稼働させる形態を考えています」と、西谷氏。Microsoft Azureで提供されている機械学習(Machine Learning:ML)や人工知能(Artificial Intelligence:AI)関連サービスと連携することで、優良顧客を的確に判定したり、離脱しそうな利用者をあぶりだしたり、といった活用も考えているという。
なお、Microsoftの「クラウド ソリューション プロバイダー(CSP)」リセラーでもあるSCSKは、自社の製品/サービスとMicrosoft Azureを組み合わせたソリューションの準備も進めている。その1つが、同社のクラウドサービス「USiZE」とMicrosoft Azureとの組み合わせだ。
2004年にプライベート(専有)クラウドとしてスタートしたUSiZEでは、2015年にMicrosoft Azureとの連携を「パブリッククラウドモデル」の1つに追加。西谷氏は「一部競合する部分もありますが、基本的には“相互補完関係”にあると考えています」とした上で、「IaaSとしてはパブリッククラウドのMicrosoft Azureを利用しますが、マネジメントやサポートの部分はUSiZEを使いたい、というお客さまもおられます」と付け加える。
SQL Server 2016で多くの新機能がサポートされ、さらにSP1(サービスパック1)では全てのエディションで主要なエンタープライズ機能の使用が可能になり、最新のSQL Server 2017ではLinux版/Dockerコンテナ版を含めてリリースされるなど、SQL Serverの進化のスピードは非常に速い。
「目まぐるしい勢いで発展するSQL ServerおよびAzureの機能を活用することにより、ソフトウェアパッケージの価値をさらに高めていけると考えています」(久保氏)
ついに、Linux版/Dockerコンテナ版も含めて正式にリリースされたSQL Server 2017。OSの垣根を取り払い、アプリ開発者に新たな選択肢を提供するMicrosoft最新のデータプラットフォームは、さらに多くの魅力的なソフトウェアを産み出していくにちがいない。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年11月22日