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第6回 イーサネット(その1) - イーサネットの規格とCSMA/CDアクセス制御方式詳説 TCP/IPプロトコル(2/5 ページ)

TCP/IPにともに広く普及したイーサネット。そのイーサネットの規格と、基本的な通信モデルのCSMA/CDアクセス制御方式について解説。

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 1972年、米Xerox社の研究所であるPARC(Palo Alto Research Center)のロバート・メトカーフ(Robert Metcalfe)は、ハワイ大学のAlohaシステムのアイデアをもとにして、「Alto Aloha Network」を考案した。これは、Xerox社が開発中のパーソナル・コンピュータ「Alto」のためのネットワーク・システムで、複数のAltoやレーザープリンタなどを1本のケーブルで接続するものであった。このシステムをAlto以外のコンピュータにも対応できるように発展させたものを、1973年に「イーサネット(Ethernet)」と命名し、1976年のNCC(National Computer Conference)で発表した。イーサネットという名称は、19世紀に、光や熱、電波を伝える媒体として宇宙に充満していると考えられた仮想的な物質Ether(日本語のカナ表記では「エーテル」)にちなんでいる。この最初のイーサネットは「Experimental Ethernet」と呼ばれ、データ転送にAltoのシステム・クロックを利用していたため、転送速度は2.94Mbit/sであった。

イーサネットの標準化

 イーサネットの仕様には、最初に公開された「DIXイーサネット」と、後に標準化が行われた「IEEE 802.3」という2つがある。

■DIXイーサネット
  イーサネットを発表した当時はネットワークの黎明期であり、ネットワーク・システムの開発はさまざまな組織によって独自に行なわれていた。ネットワーク・システムにコンピュータを接続するためには、そのコンピュータに合わせたハードウェアやソフトウェアを用意しなければならないのだが、それぞれの組織が用意できるものには限りがあるし、まだ標準化なども行われていなかったため、1つのネットワーク・システムにさまざまな種類のコンピュータを接続することはできなかった。
 メトカーフは「ネットワークの価値は、接続されているノード数の二乗に比例して増加する」(メトカーフの法則)と考えており、ネットワーク・システムにはさまざまな機種が接続できるようになるべきだと考えていた。しかし、Xeroxだけで多くの機種用のイーサネット対応製品を開発するのは困難であり、イーサネットの技術をXeroxが独占していては、他のメーカーがイーサネット対応製品を開発してくれることは期待できない。そこで、DEC、Intel、Xeroxのコンソーシアムによってイーサネットの標準化作業が行われた。この規格は標準化を行った3社の頭文字をとり「DIXイーサネット」と呼ばれるもので、1980年に標準規格として公開された。その後もいくつかの改訂がなされ、最終的には1982年にDIXイーサネットVer.2.0の仕様が公開された。

■IEEE 802.3
  イーサネットを国際的な標準規格とするために、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)の802プロジェクトによって、イーサネットの標準化作業が進められた。IEEE 802プロジェクトは、1980年2月に開始されたLAN技術の国際標準策定を目的としたプロジェクトで、その開始年月から802と名づけられた。IEEE 802はOSI参照モデルに基づいて構成されており、IEEE 802.1ワーキンググループはネットワーク層から上位の層の規格「HILI(高位層インターフェイス)」について検討し、IEEE 802.2ワーキンググループはデータリンク層を2層に分けて、その上位層にあたる「LLC(論理リンク制御)」副層について検討を行った。そして、IEEE 802.3ワーキンググループがDIXイーサネットについて検討し、1983年にCSMA/CD方式のネットワークの規格として承認された。IEEE 802.3はデータリンク層の下位層にあたる「MAC(メディアアクセス制御)」副層以下の規格で、同じ層に位置する規格としてIEEE 802.4の「トークンパス」ネットワーク・システム、IEEE 802.5の「トークンリング」ネットワーク・システムなどがある。データリンク層をLLC副層とMAC副層の2つに分割しているのは、イーサネットやトークンリングといったさまざまなLAN技術の違いをデータリンク層だけで吸収し、上位のネットワーク層から独立させるためである。


OSI参照モデルとDIXイーサネットとIEEE 802の関係
IEEE 802ではデータリンク層を「LLC(Logical Link Control)副層」と「MAC(Medium Access Control)副層」に分けている。イーサネットはデータリンク層のMAC副層と物理層に位置する規格である。

 IEEE 802.3は、DIXイーサネット Ver.2.0に若干の変更を加えているが、下位互換性は保たれている。その後IEEE 802.3はさまざまな技術を取り入れ、さまざまなネットワーク媒体の利用や、転送速度の高速化、より大規模なネットワークへの対応などを可能としたシステムに発展している。

 最初のIEEE 802.3は10BASE5と呼ばれ、転送速度は10Mbit/sで、ネットワーク媒体としてThick Wire(直径が1/2インチ=約1.27cmの同軸ケーブル。黄色のケーブルが多かったので、イエロー・ケーブルなどと呼ばれていた)を利用する規格であった。1988年には取り扱いが容易な細いThin Wireと呼ばれる同軸ケーブルを媒体とした10BASE2規格が追加された。さらに、同軸ケーブルより安価で、配線の自由度が高いツイストペア・ケーブルを利用する10BASE-T規格が1990年に追加され、その敷設の容易さから急速に普及した。1993年には光ファイバを媒体とした10BASE-Fが追加された。それまでの規格ではLANの範囲は最大でも数百mまでであったが、10BASE-Fではこれを2Kmまで延長することができるようになった。

 1995年には、それまで10Mbit/sであった転送速度を100Mbit/sに引き上げたFast Ethernet規格を標準化した100BASE-T規格が追加され、1997年にはツイストペア・ケーブルや光ファイバで帯域幅を2倍にする「全二重(full-duplex)」伝送技術が規格に追加された。さらに1998年には、1Gbit/s(1000Mbit/s)の転送速度を光ファイバで達成したGigabit Ethernet規格を1000BASE-Xとして追加し、翌1999年にはツイストペア・ケーブルで1Gbit/sの転送速度を可能にした1000BASE-T規格が追加されている。

 現在はさらに高速な10Gbit/sの規格化作業も進んでおり、2000年9月にドラフトの初版が完成している。

事項
1972年 Alto Aloha Network
・Altoやレーザープリンタなどを相互接続するために考案された
・転送速度はAltoのシステム・クロックを利用していたため2.94Mbit/s
1973年 イーサネット
・Alto以外のコンピュータにも対応
・電磁波を伝える仮想的な物質「Ether」にちなんで改名
1976年 Experimental Ethernet
・NCC(National Computer Conference)で発表
1980年 DIXイーサネット Ver.1.0
・DEC、Intel、Xeroxの3社のコンソーシアムによる標準規格
・Thick Wire(太いワイヤ)を使用する規格
・転送速度を10Mbit/sに高速化
1982年 DIXイーサネット Ver.2.0
1983年 IEEE 802.3(10BASE5)
・IEEE 802プロジェクトによる標準規格(DIXイーサネット Ver.2.0とほぼ同等)
1988年 IEEE 802.3a(10BASE2)
・Thin Wire(細いワイヤ)を使用する規格
1990年 IEEE 802.3i(10BASE-T)
・ツイストペア・ケーブルを使用する規格
1993年 IEEE 802.3j(10BASE-F)
・光ファイバを使用する規格
1995年 IEEE 802.3u(100BASE-T)
・転送速度が100Mbit/sのFast Ethernetを標準化
1997年 IEEE 802.3x
・全二重通信
1998年 IEEE 802.3z(1000BASE-X)
・転送速度が1Gbit/sのGigabit Ethernetを標準化
1999年 IEEE 802.3ab(1000BASE-T)
・ツイストペア・ケーブルを使用する転送速度が1Gbit/sの規格
2000年 IEEE 802.3aeドラフト
・転送速度が10Gbit/sの10 Gigabit Ethernetの標準化作業中
イーサネットの歴史
当初、約3Mbpsの速度であったイーサネットも技術の進歩に伴い、Gbitクラスにまで高速化されている。

 IEEE 802.3にはイーサネットという名前は使われていないが、一般的にIEEE 802.3はイーサネットと呼ばれており、現在正式なイーサネットの標準は国際標準であるIEEE 802.3である。

省略表記について

 IEEE 802.3では、ネットワーク媒体や転送速度が異なるいくつかの規格が存在する。これらを区別するために省略表記を用いる。省略表記は、

    「転送速度」+「変調方式」+「媒体の情報」

というルールで付けられている。「転送速度」はMbit/sを単位とした数値、「変調方式」はBASE(Baseband。1つの伝送路で1チャネルの信号だけを伝送する方式)またはBROAD(Broadband。1つの伝送路で同時に複数チャネルの信号を伝送する方式)、「媒体の情報」は約100mを単位としたセグメント長または媒体の種類をあらわす記号である。

転送速度:転送速度をMbit/s単位で表す
表記 転送速度
1 1Mbit/s
10 10Mbit/s
100 100Mbit/s
1000 1000Mbit/s
変調方式:変調方式を表す
表記 変調方式
BASE Baseband(ベースバンド)
BROAD Broadband(ブロードバンド)
媒体の情報:最大セグメント長を約100m単位で表記するか、媒体の種類を表す
表記 媒体情報
5 500m
2 185m
T Twisted Pair(ツイストペア・ケーブル)
F Fiber(光ファイバ)
IEEE 802.3の規格の表記方法
IEEE 802.3では、転送速度や変調方式、媒体の種類(もしくは最大セグメント長)に基づいて名前が付けられている。例えばイーサネットが普及するきっかけとなった、直径1/2インチの同軸ケーブルを用いる規格の名称は10BASE5といい(DIXイーサネット仕様とほぼ同じ)、これは転送速度は10Mbit/s、変調方式はベースバンド方式、最大セグメント長は500mであった。ほとんど普及していないが、1BASE5(AT&Tが中心になって開発したStarLANをベースにしたもの。電話設備で使われるシールドなしのツイストペア・ケーブルと、ハブを使ったスター型のトポロジーを採用している)や、10BROAD36(CATVシステムやそのケーブルを利用した、周波数多重型のイーサネット)などもある。

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