実録:私がフリーエンジニアになるまで:エンジニアの実録レポート
気が付けば、自らのプロジェクトよりも部下の面倒やトラブル対応に明け暮れる日々。あと数年で40歳なのに、このままでいいのかと自問した。その結果選んだのがフリーエンジニアへの道。が、場所は地方都市。果たして、筆者を待っていたのは?
中堅SEとして多忙な日々を過ごしていましたが、思うところがあり、昨年フリーランスのエンジニアになりました。
実際になってみて感じたことや、地方であることなど、話としてはやや拡散気味ですが、時系列的に会社員からフリーになるまでをまとめてみました。同様の思いを持つSEの方々に少しでも参考になればと思います。
不安で忙しい日々
私は地方都市で13年間SEをしてきました。変化の激しい技術を夢中で追いかけているうちに、いつの間にか、会社からは管理職として期待される年齢になっていました。
SE技術職で忙しいところに、管理職として部下の育成や会社のかじ取りを考える時間が加わり、自らのスキルアップを図る時間はほとんど残されていませんでした。
その当時を振り返ると……。出社してまず担当プロジェクトの進捗(しんちょく)会議です。メンバーから状況の報告を聞いて、問題があれば対策を練り指示が必要なところがあれば指示します。一段落したところで、今度は自分の担当している顧客から稼働しているシステムの修正依頼です。急ぎということなので、私の代わりにこの顧客の担当にしようと育てている新人君に任せるわけにもいかず、結局自分で修正することに……。片手間に新人君の育成計画を見ながら、午後からは営業と同行でユーザーのところへ、新規案件の見積もりのためユーザーインタビューを行います。
帰社すると、明日中に見積もりを作ってほしいとの営業の要求もあり、見積もりの作成です。そうこうするうちシステム部の部課長会議の時間になり、会社の状況、空き要員対策とこれからの案件について、など果てしなく続く議題……。会議が終わって自分の席につくと、お客さまからトラブルが発生とのクレームメール……日々こんな感じでした。
降りかかるJOBをさばいていく充実感は感じていたのですが、果たしてこれでいいのだろうか? という不安もまた感じていました。
悪魔のささやき
そんな折、以前の会社の先輩が私に悪魔のような甘いささやきを「いやーフリーはいいよ、気楽で自由だしそれにお金も……」。
「本当ですか? でも不安定ですよね、それにいつまでもフリーやっているわけにいかないでしょ、いい年して会社入ってないっておかしいですよ、退職金もないわけだし……。老後はどうするんですか老後は!!」
しかし、その先輩はそんな質問にも軽く笑うのみで余裕たっぷりでした。
「終身雇用の崩壊」。よく耳にする言葉ではありますが、まだそのときには実感はありませんでした。
しかし、その先輩と何回か話をしていくうちに、少しずつ考えが変わってきました。
不安定ということについて
よくよく考えてみれば一部上場した大企業でも倒産してしまうご時世です。フリーになったからといってそんなに心配することでもないのかもしれません(というより大企業だから安心できるとは限らない)。
今後について
たとえ会社員であったとしても、もはや能力のない人にいる場所はないのかもしれません。リストラや早期退職もあるし、それよりも会社で必要とされていないのにずっと在籍していることの方が耐えられないでしょう(少なくとも私は)。
自分のキャリアアップについて
会社で中間管理職として緊急のJOBばかりこなすより、もう少し先を見て、本当に自分のためになる仕事を選択したい……。そういう面では会社員よりフリーの方が仕事を選択できる可能性が高いような気がしました。
老後について
これからの年金制度が十分でないことは、目をそむけたいのですが事実のようですね。会社員であろうとなかろうと、なんらかの準備はしないといけないと思います。
フリーになったからといって問題が解決するわけではないと思います。でもすべて自分の責任で、自分の力を試していけるのは大きな魅力だと思いました。
フリーに向けて
頼れるのはやはり自分自身しかないことにあらためて気が付きました。
あと数年で40代……。そう思ったらおそらく自由に行動できるのはここ数年かもしれないと思うと、思い立ったら即行動の私。「会社を辞めてフリーになる!」と女房に告げると、「好きなようにしたら」とありがたい一言。
SEとしてフリーになるのは、ケースにもよりますが開業費用がそんなには必要ありません(私の場合はノートPCくらい)、そういう面ではそれほどリスキーではないと女房は判断したようです(うまくいかなかった場合の再就職難というリスクはありますが)。
フリーになるためのおそらく最難関のポイントをあっけなくクリアして次は会社です。「会社には何の不満もありません、フリーになって自分の力を試してみたいので退職させてください」という分かったような分からないような理由を上司に告げました。
本当のところをいうと会社に不満がなかったわけではありませんでした。でもどんな会社でも100%満足ということはないと思っています。
実際、素直でまじめな部下が多く、そんな仲間と苦労を共にできたことには満足しており、後ろ髪が引かれました(気に入らない会社や、嫌な人がいる会社なら、何のためらいもなかったのですが……)。仲間を裏切るような気持ちで随分と悩んだりしましたが、最後には自分の人生ですから、みんなもきっと分かってくれるだろう、と吹っ切りました。
ということで、多少の心残りと共に13年にわたる会社でのSE人生は終わり、晴れてフリーになりました。
会社を退職するとき、友好的な円満退社が大切だと思います。何せ地方ですから、世間はとっても狭いです。悪いうわさはあっという間に広がります。
実際にフリーになって
会社を辞める。それはまだ普通の人にとっては一大事のようです。いろいろな人から「人間関係?」とか「何があったの?」「いじめがあったのか?」(私、37歳にもなるんですけど)など……。最後には「大丈夫、私がなんとかするから気にしないのよ」と義母のありがたい一言まで、リストラされたんじゃないんですけど私……。
地方だからかどうなのか、退職に関しては周囲の反応はおおむねこのようなものでした。
ただ、以前のお客さまで外資系の人たちからは「Congratulations!」とメールを頂きました。そうですよ、いまから新しい人生の始まりなんですから。
フリーになることには不思議なほど不安はありませんでした。先輩がいろいろな面でサポートしてくださったのが大きかったです。しかし地方において果たしてフリーとしてやっていけるのかという疑問はありました。
そうはいっても私の場合は、ある程度今後の仕事が見えていました。これからフリーになろうと思う方は、まずフリーになった場合ある程度仕事を受注できるめどがあるか(そういうコネクションがあるか)どうかを考える必要があると思います。
心(と懐)に余裕がないと、よくない条件の仕事でもせざるを得なくなることになりかねません。まずは、しっかりと準備が整っているか判断した方がよいと思います。
フリーの形態
ここで少しフリーの形態を考えてみましょう。
個人事業主――個人事業の届け出をして個人事業主としてやっている
会社(個人)――ほぼ個人でやっているが、法人化する
個人事業主と会社(個人)の違いは、所得の分散ができるかどうか、という点です。そういった方面にはあまり詳しくないのですが、会社(個人)にすると、会社から給与をもらう形にでき、給与所得控除が受けられます。所得がある程度高くなると(それはそれでうれしいことですが)、会社(個人)にした方が節税効果が高くなる場合もあります。ただ所得がうまく分散できない場合には個人事業主の方がいい場合もあります(法人にすると、登記の費用も必要だし決算書などを作成する手間もばかになりません)。これは、ケースバイケースで一概にいえません。フリーになるときに、親切な税理士さんを見つけて、アドバイスを受けるのがいいと思います。
私の場合は、最初は様子見で個人事業主(青色)で、その後法人化を検討していこうと思っています(現在税理士さんと相談中です)。
ただ、申告は青色申告がお勧めです。SEという商売は経費があまりかからないと思いますので、少しでも控除が有利になるように、白よりは青の方がいいと思います。
事務所を借りたり、誰かを雇用したりということについては、私の場合なるべく最初は経費を掛けないという方針でいきました。よほど長期にわたり確定的な仕事でもない限り、最初はあまりお金(経費)を掛けずに進めた方が余裕をもってできると思います。ただでさえ初めてのことをかなりのプレッシャーの下でしなければいけません(固定経費は仕事の有無に関係なく掛かりますので)。
仕事の選択
フリーになる以上、どのような仕事を取ってくるかなど、すべての面を自分で判断しなければなりません。金銭的に、技術的に、営業的にいろいろなことを勘案して仕事を選べるのがフリーのだいご味です。
しかし、そこでしっかりしたビジョンが必要になってきます。私は自分自身での営業活動は当面行わない、ということを決めていました。営業に動いたら、その間はお金になりません。フリーを勧めてくれた先輩は豊富なコネクションがあり、フリーとはいえ、役割を決めて行動を共にしようといってくださったので、当面は先輩のコネクションで仕事を受注することができました。
しかし、最初の1カ月は先輩のお手伝いで、次の月から本格的な案件に入る予定の確実といわれていた案件がずるずると遅れていき(よくあることです)、気が付けばその案件は消滅してしまいました……。いまの時代、契約書にハンコがつかれるまで確実ということはない、ということのようですね。実感しました。
このように、当初の予定は若干狂いましたが、取りあえず仕事を探すためにあちこちに当たり、場合によっては職務経歴書などを送ったりしました。もちろん、送り先はまた先輩のコネがあるところです。しかし、なかなか条件が合いませんでした。
私の保有スキルは言語でいえば、Java、C、Visual Basic、PL/I、PHPなど。DBも設計からOracle、SQL Server、DB/2、UniSQL、PostgreSQLなど。J2EEを利用したWebサイトの開発や、CADの開発も経験しています。もちろん、プロジェクト管理などもひととおり経験しており、自分自身オールラウンダーなどと思っていたんですが、何でもできるということは、何にもできないと同じことだと分かりました(どれも平均的なレベルでは)。この分野に関してはお前しかいない!
ぐらいの圧倒的なセールスポイントがないと顧客に訴える力はいまひとつです。
営業に回っていたら仕事ができないし、やはり黙っていても声をかけてもらえるぐらいのセールスポイントがあればと痛感しました。結局、その後、先輩のコネクションで東京の仕事を受注できました。まったく先輩さまさまです。昨年末にはお歳暮を贈っておきました。
地方でフリーは成り立つか
フリーで仕事を探すときにどうしてもネックなのが地方であることです。中央の案件は確かにあります。地方の仕事がなくなってくると、昔の仲間、会社などはやはり中央へ出掛けて行きます……その関係で中央の案件情報などが伝わってきます。ここで気になるのは経費です。
例えば私の地元から東京へ常駐するとしたら、毎週末地元へ帰る交通費と東京での滞在費(ホテル代)などで、月25万〜35万円ぐらいは必要です。
通常プログラマレベルで中央常駐は経費的に難しいでしょう。SEでも何かセールスポイントがないと、この経費を事実上上乗せした金額での契約は難しいと思います。
プロジェクトリーダー/マネージャだと、実績・実力があればこのぐらいの経費は十分上乗せさせて契約することができます。何しろ、システム開発の成否を握るのはこのリーダークラスですから。もちろん、だからといってプログラマが重要でないということではありません。実際に中央から派遣依頼でくる案件は、こうしたリーダーやマネージャを求めるものが多いようです。
地方と中央のレベル差はあるか
少し話題から外れるかもしれませんが、地方と中央のSEのレベル差はあるのでしょうか? 以前会社員時代、東京で研修に参加していました。内容はWebサービスでした。いまほどWebサービスは一般的でなく、実際開発案件は日本でもそれほどなかった時期でした(実際に動いていたのは1社ぐらいでしょうか?)。その研修参加者は4名でしたが、研修の途中ぐらいから、1人の方がかなり高度な質問を講師にされて、すごいなと思っていたら、私を除く残り2名の受講生が、講師に代わってその質問に答えてしまいました……。やはり中央の方は進んでいると実感しました(私が不勉強だっただけでしょうか?)。
いまはかつてに比べてネットワーク環境ははるかに整備されてきたので、SEのレベル差は小さくなってきているのかもしれませんが、皆さんはどのように思われますか?
いずれにしても先進的な案件はやはり地方は少ないので、そういう面での経験差はあるような気がします。
さて、話は戻って今度は逆に地方であるために有利な部分です。中央の方である程度実績があり、地方への展開を狙っているベンダ、ソフトハウスなどが地方へ展開するとき、今度は企業側に需要があるようです。それは、いくらインターネット時代とはいえ、企業にとって、何かあればすぐかけつけてくれる距離にエンジニアがいてほしいというニーズがあるからです(システムのライフサイクルからいくと、開発後の保守などはやはり地元のソフトハウスに、ということになるのでしょうか)。
地方でフリーをする以上、場所のこだわりがあると難しいかもしれません(もっとも、それぞれの価値観次第ですが)。やはり案件は中央に豊富なので軸足を地元にして、地元の案件がなくなってきたら中央の方へ、地元で案件が発生すればまた地元へ、身軽に動ける人がフリーに向いているような気がします。
会社に比べ、フリーエンジニアはやはり小回りが利くのが強みです。中央の技術を地方へ、情報格差というのがもしあるのであれば、それを解消するのに少しでも役立てればすてきだと思います。
フリーエンジニアに必要なこと
最後に、私が考えるフリーエンジニアに必要とされるものを挙げておきます。
コネクション
これが一番大切だと思います。人材派遣会社とかを利用するのも手ですが、どうしても契約金額は下がります。地方では特に地元と中央それぞれにコネクションがあれば理想的ですね。
プロジェクトリーダー/マネージャ能力
このクラスは慢性的に人材不足のように思われます。どちらも経験が必要とされるところがあるので、会社にとっても社員を育成するにもかなりの時間とコストが必要とされます。会社としても育成した人材が流出するリスクなどがあるので、最初から外部から調達する方針にしているところもあるようです。この能力を磨くには、経験が必要だと思います。小さなプロジェクトでも、リーダーとして経験を積むのがいいかもしれません。
強力なセールスポイント(となる得意分野)
強力であればあるほど、セールスポイントが営業をしてくれます。つまり、そのセールスポイントによって、契約が取れることがままあるのです。
税理士と懇意になる
私の場合、高校の同級生が税理士事務所を開業していて何かと相談に乗ってれるのでラッキーでした。税理士はやはりプロです、税金に関する知識はとうていかないません。自分でやるよりお願いする方が結果的には時間的にも金額的にも有益だと思います。
私自身は、特にフリーという形にこだわりを持っているわけではなく、会社員に戻ることもあるかもしれませんし、会社を興してもいいな、とも思っています。自分の価値観に照らし合わせて、仕事の形態のメリット/デメリットを考えながら、みんなで楽しく仕事できる環境をつくっていければと思っています。
著者紹介
野口和裕
自動車部品の生産管理からシステム開発に携わり、IT業界歴ははや13年になる。座右の銘は「成功は失敗の彼方にある」で、最近興味を持っているのは、コーチング関係だという。3度の飯はお好み焼きでOKという広島人。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.