検索
連載

効率的にコミュニケーションする「問題解決力」を高める思考スキル(8)

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

相手の行動を促す「コミュニケーション術」

 皆さんは毎日、提案書や説明文、メールなどたくさんの文章を書いているでしょう。また、「クライアントと直接面談してヒアリングをする」「会議に参加して説明や意見を述べる」「電話で用件を伝える」「部下を指導する」といったことを繰り返していると思います。

 コミュニケーションは、コンサルタントやそれを目指す方に限らず、多くのビジネスパーソンにとって最も重要な仕事であるといっても過言ではありません。これまでの連載では課題分析や問題解決に焦点を当ててきましたが、今回は少し角度を変えて、コミュニケーションの技法について解説します。

 ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、一言でいえば「相手にこちらがしてほしいと思う行動を起こさせる」ことです。具体的には、クライアントに自分の提案を受け入れてもらったり、部下の仕事に対する姿勢を変えさせたり、同僚に自分が期待するとおりの支援をしてもらうことなどです。

 効果的なコミュニケーションは、以下に示すように4つのステップがあります(図1)

●「相手の行動」につながるコミュニケーションのステップ

図1 ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、「相手に自分が望む行動を起こさせる」こと。課題分析や問題解決と同じく、コミュニケーションにも効果的な手順がある
図1 ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、「相手に自分が望む行動を起こさせる」こと。課題分析や問題解決と同じく、コミュニケーションにも効果的な手順がある

 どうすればこの条件がそろうのか。(1)(2)(3)と(4)の2つに分けて考えてみましょう。(1)(2)(3)はコミュニケーションをする前提として配慮すべき事柄、(4)はコミュニケーションの中身に関する問題です。

己を知り、相手を知り、効果的に攻める

 最初にやるべきは、「自分の目的と立場を把握する」ことです。クリティカル・シンキングの基本でもありますが、最初に目的をしっかりと認識しておかなければ、何をやってもいい結果は生まれません。例えば、経営陣に対して提言したいことがあるときに、「自分が平社員なのか中堅なのか」、あるいは「経営の一角を占める立場にいるのか」によって、同じメッセージを伝えるにしても「伝え方」がまったく変わってきます。孫子の兵法にあるように、いざ事を起こす際には、「己を知る」ことがすべての出発点になります。

 次に、「誰に対して話をするのか」が決定的に重要です。「相手が行動を起こす」ためには、その人が行動を起こせる力と権限を持っていなければ始まりません。組織には必ずといっていいほど、その組織内で影響力を持つ人とそうでない人がいるものです。前者のような「キーパーソン」をいかに見つけるかが勝負の分かれ目になります。

 組織や職制上の立場を理解しておくのは当然ですが、役職が上だからといって必ずしもその人がキーパーソンだとは限りません。例えば、クライアントと初めて面談できる機会を得たら、まず相手の業務内容について質問しながら知識レベルや職務権限などをそれとなく探っていくといいでしょう。このときのコツは、「何をやったか、何をしているか」という「事実」を聞き、それに基づいて判断することです。

 攻略すべき相手が決まったら、いつ、どのようにコミュニケーションするかを考えなければいけません。細かい話になりますが、どのような手段、時間、場でコミュニケーションを取るかは重要です。忙しい相手に「じっくりお話を聞いてください」といっても無理があります。せっかく面談の機会を設けても、途中で電話などで呼び出され、会話が中断されては効果が半減します。相手が話に集中できる環境をいかにつくるかに気を配ってください。

 相手の思考とコミュニケーションの特徴をつかみ、それに合った方法を取りましょう。早く結論を知りたがりスピードを重視するタイプの人に、長い状況説明は不要です。

性格別にコミュニケーション手段を考える

 その一方で、理由やプロセスにこだわりを持ち、正確さを求めるタイプの人には、順序立てて情報を与え、相手の理解度を確認しながら1つずつ階段を上がるように話を進めていかなければなりません。

 また、コミュニケーション手段の特性を考慮することも重要です。直接会って話をすれば、相手の心理状態などに気を配りながら最適なメッセージを投げることが(かなり高度ですが)可能です。相手のコミュニケーションスタイルを把握できるので、次回以降のコミュニケーションも、より効果的に行うことができます。

 ただ、時間を取ってもらうのが難しかったり、自分のスキルレベルによっては、思わぬ失言で相手に悪印象を与えたりするリスクが高まりますが、電子メールを使えば相手の時間を拘束せずに済み、かつじっくりと考えて練り上げたメッセージを伝えることができます。

 しかし、電子メールはメッセージをどう受け取られたのかが分かりにくく、そもそもまともに読んでもらえていないかもしれないというリスクもあります。そのほか、電話やFAX、スピーチ、プレゼンなど、多くのコミュニケーション手段をうまく使いこなすことで、目的を達成できる確率はかなり上がるはずです。もちろん、どんなコミュニケーション手段を好むかは、かなり個人差がありますので、それを把握するのも「相手を知る」重要なポイントです。

相手の心理状態に合わせる

 さて、ここからコミュニケーションの場面に入りますが、「何をいうか」という中身の説明をする前に考えねばならないことがあります。それは相手に「メッセージを受け止めてくれる心理状態」を持ってもらうことです。人間は感情を持った動物であり、それを無視したコミュニケーションは、内容がいかに正しく論理的であっても失敗してしまいます。相手が無意識に持つ心理的なバリアをいかに解除するかが課題となります。

 まずやるべきことは、こちらに興味を向けさせることです。そもそも興味がなければコミュニケーションしようという動機が生まれません。そのためには、「相手にとって意味のある情報」をできるだけ提供することです。相手の関心と理解度に応じて、適切かつ具体的な(本を読めば分かるようなものではない)情報を選択します。

 「あなたの存在を認めて受け入れる」という暗黙のメッセージを伝えることです。人間には誰しも、「自分の存在を認めてもらいたい、自分の感情や置かれている状況に配慮してもらいたい」という欲求があります。

 これにはまず相手の話を熱心に聞くことが出発点です。それもただ黙って聞いているのではなく、「なるほど」といった同意のサインや、「それはどういうことですか」「それでどうなったのですか」といった質問を適宜交え、「こちらが積極的にあなたの話を聞こうとしている」というメッセージを伝えていきます。

 また、質問をうまく使うのも効果的です。質問には「相手の考えを聞く」だけでなく「質問そのものが重要なメッセージを発信する」という側面があります。例えば、「ここまでで何かご質問はありますか」「これについてどう思われますか」といった質問を挟むことで、「一方的に話しているのではなく、同意のうえでコミュニケーションをしようとしている」ということを表現できるのです。

相手の「知りたい」ことに答える

 コンサルタントでも営業マンでもSEでも、クライアントと話をするときにはいいたいことや伝えたいことがたくさんあると思います。しかし、ストレートにそれを伝えることが「相手に行動を起こさせる」ことに直結するわけではありません。

 「相手の聞きたいこと」に対してダイレクトに答えることを心掛けるべきです。なぜなら、相手は「何らかの行動が必要かもしれない」という問題意識と、(十分ではないとしても)いくらかの情報や知識をすでに持っています。そのうえで何らかの疑問を抱えており、それを明らかにするために豊富な専門知識を持つ皆さんの話を聞こうとしているからです。

 こうした相手の状態を無視して「こちらがいいたいこと」を述べても、相手は「そんなことは分かっているから早く結論を聞きたい」「自分が知りたいのはそんなことではない」など、イライラしながら待たなければなりません。

 では、どうしたら「相手の疑問」を知ることができるのでしょうか。まずこれまでの相手とのやりとりから、相手の理解度や関心を推定します。そのうえで相手が「当然抱くであろう疑問」を論理的に考えるのです。

 相手が持っている情報が少なければ、まず、「それは何なのか?(What)」ということに答えなければなりません。コミュニケーションの最初の段階では特にそうです。話が進むに従って、聞き手の頭の中に「なぜそれが重要なのか、なぜそれがよいのか?(Why)」と、「具体的にはどうするのか?(How)」という2つの疑問がわいてきます。その疑問に対し、タイムリーかつダイレクトに答えることが、相手の行動につながるのです。

 話の進め方としてよくあるのは、長々と状況説明があり、その後に1つ1つのポイントを細かく説明し最後に結論を述べるやり方です。この方法では、相手が話の途中で、そもそも何の話をしているのかが分からなくなってしまったり、細かいところに気を取られて、重要度の低いところで議論が紛糾してしまったりします。

 これは相手の理解度が低いせいではなく、人間の頭の処理能力からいって当然のことなのです。この人間の能力の限界を前提とすると、次のような説明方法を取るのが望ましいやり方であることが分かります。

コミュニケーションのポイント

  • まず「何について話すのか」という主題を簡潔な状況説明とともに明確にする
  • 相手が最も疑問に思っていることを「答え」として結論で提示
  • その結論に至る根拠、論理の流れを3点ほどに絞って最初に説明する

           

※以上を踏まえたうえで、「個別の部分」を詳しく説明する


「ピラミッド・ストラクチャー」で主張をまとめる

 こうした話し方は、先の(1)〜(3)をしっかり押さえたうえで行えば、極めて相手の理解を助けることになります。権限が大きい(つまり忙しい)人間に対してはなおさら有効です。もし話が途中で終わっても要点は伝わります。たとえ、こちらの結論に相手が同意しなくても、「なぜその結論に至ったのか」というプロセスが明確になります。そのため、細かい部分に議論が集中することを避け、より重要なポイントについて本質的な議論が可能となります。

 そうしたことを念頭に、相手に伝えるべき「考え・主張」を構造化してメッセージを作るといいでしょう。その効果的な手法には、「ピラミッド・ストラクチャー」というものがあります(図2)

●ピラミッド・ストラクチャーの手法(例)

図2 ピラミッド・ストラクチャーは、相手に伝えたい「考え・主張」を構造化して説明する際に効果的なツールだ
図2 ピラミッド・ストラクチャーは、相手に伝えたい「考え・主張」を構造化して説明する際に効果的なツールだ

 これは、いくつかの情報・主張から演繹的・帰納的にいえることをその上位のメッセージとして抽出し、その集合体として主張全体をピラミッド型の構造になるよう構築する方法です。結論である1番上のメッセージから見ると、それぞれ1段下のメッセージがその理由や根拠(図2参照)や具体例を説明するものになります。これは元マッキンゼー社のコンサルタントのバーバラ・ミント氏が定式化したもので、高度な論理構築と明確なコミュニケーションが必須であるコンサルティングの世界で広く用いられている方法です。

 このメッセージの構築方法は、話し言葉はもちろん、ビジネス文書の作成においてもまったく同じように活用できます。非常に有効なツールなので、関連書籍やクリティカル・シンキングの講座などでぜひマスターしてみてください。

 以上、コミュニケーションにおいて重要なことを駆け足に解説しましたが、実際には相当高度なスキルと豊富な経験が必要とされます。完ペキなコミュニケーションというものはあり得ません。常に重要なポイントを意識しながらビジネスの場で実践を繰り返し、少しずつブラッシュアップしてみてください。

筆者紹介

芳地 一也

(株)グロービス・マネジメント・バンク、コンサルタント。グロービス・マネジメント・スクールおよび企業内研修においてクリティカル・シンキングの講師も務める。東京大学文学部心理学科卒業後、(株)リクルートを経て現職。グロービスは経営(マネジメント)領域に特化し、ビジネススクール、人材紹介、企業研修、出版、ベンチャーキャピタルの5事業を展開。経営に関するヒト・チエ・カネのビジネスインフラを提供することで、日本のビジネスの「創造と変革」を目指している会社。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る