聞いていた話と違います!:退職活動やってはいけないこんなこと(5)(1/2 ページ)
転職を志し、選考過程を経て内定を獲得した後は、現在勤めている会社を円満に退職しなければならない。それが「退職活動」だ。本連載では、毎回退職活動にまつわる危険な事例を取り上げて解説する。連載内容を活用してトラブルを回避し、円満退社を目指してほしい。転職に対する不安を少しでも減らすことができればと思う。
「転職活動は自己実現の1つの方法」。そんな思いで転職する方は非常に多く、ホワイトカラーの転職者は年々増加する傾向にあります。ところが実際に転職してみると、予想していた仕事内容と違う、イメージしていた環境ではない……ということも多々あるのです。今回は転職活動に潜む恐ろしいギャップについて、実際のケースを基にお話しします。
生産管理のプロになりたい
柏原さん(仮名)は20代後半のITエンジニアです。IT系の専門学校を卒業し、あるシステム開発会社に就職しました。8年間のキャリアの中で、柏原さんは主に製造業向けの生産管理システムの開発に携わってきました。
会社の受注状況の関係で流通業やサービス業などの顧客を担当したこともありましたが、ほとんど製造業関係の仕事を担当しており、このまま生産管理の業務知識を深めていきたいという希望を持っていたそうです。
ところがある日、柏原さんは上長に呼ばれて異動の内示を受けました。会社があるERPソフトベンダと導入パートナー契約を結び、社内で立ち上げメンバーの人選をしていたところ、柏原さんに白羽の矢が立ったそうなのです。
上長は新規プロジェクトが会社の将来を占う重要な仕事であることや、コンサルティング業務が必要なERPプロジェクトにおいて、顧客と良好なコミュニケーションを築いてきた柏原さんの実績が買われたことを話しました。柏原さんも尊敬する上長の指示なので渋々従うことにしました。
3カ月ほど就業したそうですが、やはり思い描くキャリアビジョンとのギャップを感じ、会社に退職届を出したそうです。
面接官に説得されて
転職活動を始めた柏原さんはIT関連の求人誌を見て、製造業向けの仕事のできる複数の会社へ履歴書を送りました。折からの好景気に伴い、企業の求人ニーズは高く、応募した企業のほとんどで書類選考を通過したそうです。
転職先を決める前に退職してしまった柏原さんは、ブランクを長くしたくないという理由もあり、1日に複数の会社の採用面接を受けるなど精力的に転職活動をしました。身に付けてきた技術は高く評価され、持ち前の明るさもあって転職活動は順調に進みました。
ある企業の面接を受けたときのことです。1次面接官から「ぜひ一緒に働きましょう」と熱っぽく誘われ、そのまま人事部長とも面接をして、即日内定をもらうことができました。柏原さんは新卒以来の採用内定通知に心が躍り、その日は眠れませんでした。初めての転職で自分が評価されるのかという心配から解放されて、有頂天になったそうです。
明くる日その会社から連絡があり、もう一度来社してほしいといわれました。会社に赴くと1次面接官と人事部長がそろっており、ほかの候補者との兼ね合いもあるので早期に入社の決断をしてほしいといわれたのです。柏原さんはほかの会社の選考も半ばでしたが、面接官の熱意ある説得がうれしく、早く仕事がしたい気持ちも手伝って入社承諾書に署名したそうです。
製造業向けの部隊のはずが
ところが入社してみると、独り善がりに膨れ上がっていた期待が徐々に崩れていきました。配属されたのはなんとERPソリューション部。この会社では国産のパッケージソフトをいくつか扱っており、中堅企業向けの案件の受注が好調で、直近の中途採用者はほとんどがこの部署に配属されているとのことでした。柏原さんは、生産管理システムの経験を深めてスペシャリストになりたいという、転職の動機であるメインテーマを失った形になってしまいました。
会社の業績も芳しくありませんでした。傾きかけた会社が起死回生の策として、利益率の高いERPビジネスに注力しているという感じだったようです。採用内定通知の年収提示額には会社が目標とする業績を達成したときに支払われる賞与が標準値として記載されており、柏原さんも納得のうえで入社を決意したのですが、残念ながら現実はその金額よりもだいぶ少なくなってしまうとのことでした。
年収が少なくなるのはまだしも、思うようなキャリアを見込めないのは柏原さんにとって到底受け入れられないことでした。それでは転職した意義さえありません。悩んだ揚げ句、柏原さんは再度転職活動を始めることにしたそうです。早期転職は不利になるのではないかと、最初の転職活動とは種類の違う不安を胸に抱えて……。
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