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第78回 グラフィックス・ベンダが狙う次の戦場頭脳放談

ATIはAMDに買収され、NVIDIAはPortalPlayerを買収するなど、グラフィックスベンダーの向かう先には何があるのか。次の戦場はどこ?

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 2006年11月初め、NVIDIAがPortalPlayerを買収するという話を聞いた。買う側のNVIDIAはグラフィックス・チップ(GPU)で「おなじみ」のあのNVIDIAであるが、それに比べると買われる側のPortalPlayerの知名度は若干低いかもしれない。そこで一応説明しておくと、「Apple ComputerのiPod向けSoC(System On a Chip)を作っている会社」というのが一番手っ取り早い。つまりiPodが一番よい製品例なのである。ARM7をコアにして、AAC(Advanced Audio Coding)などのオーディオ・コーデックや小さなLCDへの表示をサポートするSoCが、PortalPlayerの代表的な製品である。ただし、iPod向けには強力な競合が現れてきており、うかうかしていると「作っていた会社」という過去形にもなりかねない、という注釈付きだ。

 買われる側のPortalPlayerは1999年創立なので、まだ7年ほどの歴史の浅い会社だが、実質的にはiPodの成功をテコにしてメジャーになったファブレス半導体ベンダである。各種のSoCを作っているが、Apple Computerへの依存度が相当高い。iPodのおかげで大成功を収めているPortalPlayerだが、ここに来て逆風も吹き始めている。2006年4月にフラッシュメモリを採用したiPod nanoについては、Samsung ElectronicsのSoCが採用されてしまったのだ。ハードディスク・モデルは、引き続きPortalPlayerのままということだが、売り上げへの影響は避けられないだろう。

 その上、ありがちな話だが創業者で現在の最高経営責任者(CEO)であるガリー・ジョンソン(Gary Johnson)氏も、2006年末でCEOを辞職する意向であるというニュースも流れた。PortalPlayerもこれまでかとも思われたのだが、今回、NVIDIAから買収を受けることで、落ち込む前に一応の活路を見出した形である。

 多分、大旦那のApple Computerにしたら、フラッシュメモリの供給先でもあるSamsung Electronicsをコスト削減のために活用するとともに、ハイエンド・モデルでは依然PortalPlayerの開発力も利用して、うまく競争させて使うつもりなのだろう。

 買う側のNVIDIAの意図は、ニュースリリースで明らかにされているように、携帯型音楽プレイヤーやPDA、ポータブル・ゲーム機、電話などの小型機器において両社の技術を統合してシェアを確保しようというものだ(NVIDIAのニュースリリース「NVIDIA to Acquire PortalPlayer」)。「グラフィックス」会社ということで、NVIDIA対ATI Technologiesといった従来型の構図ではPortalPlayerの買収はあまり捕捉できないように思われる。これはPortalPlayerの得意とする携帯機器を中心とした組み込み応用をNVIDIAが今後本格的に攻略していくための買収と理解するべきだろう。

グラフィックス・ベンダの生き残り方

 PC向けグラフィックス・チップの会社もかつては掃いて捨てるほどあったが、いまではほとんどが淘汰され、NVIDIAとATI Technologiesの2強にほぼ集約されてしまった。その過程で落ちこぼれた会社の中で、非PC分野で活路を見出し、生き残りを図った会社も多い。汎用のPC向けでなく、ワークステーションや医療用途など特殊化を果たして生き残りを図ったわけだ。そして、残れた会社もあり、消えた会社もある。その中で生き残っているものの1社にImagination Technologies(IMG)がある。

 IMGといってもピンと来ないかもしれないが、「PowerVR」の会社というと思い当たる人も多いかもしれない。PowerVRは、PC向けグラフィックス・チップとしては、ごく低いシェアしか取れなかったはずだ。それよりもゲーム機用のグラフィックス・チップ(セガのDreamcastが採用)としての方がまだ有名かもしれない。しかし、現在注目すべきなのは、グラフィックス・チップとしてではなくて、半導体IP(Intellectual Property:設計資産)としてのPowerVRである。現在、携帯電話機向けアプリケーション・プロセッサに内蔵するグラフィックスIPとして採用が増えているのだ。

 画面があれば、2D/3Dともにグラフィックス・デバイスの出番はある。ましてや高度化の著しい携帯電話であるから、PC同様の需要が存在する。IPなので裏に隠れていて、はっきりした統計数字に現れてこないが、アプリケーション・プロセッサを開発・販売している日米欧の大手半導体ベンダのほとんどがPowerVRのIPを購入しているとみられる。このことから、携帯電話機向けのグラフィックスIPとしては、かなり高いシェアを持っているものと推測される。もしかするとPC向けのグラフィックス・チップよりも、数だけなら多いかもしれない。

 そんな生き残り方もあるのだ。NVIDIAも、すでに手を付けている家電製品や携帯機器といった組み込み市場向けのグラフィックス・チップの供給を主柱の1つにしたいのだろう。ただし売り上げの絶対額の小さなIP売りではなく、あくまでチップ売りビジネスで、というスタンスだ。そうすると常にシングルチップ化が望まれる組み込み市場からすれば、グラフィックス機能単一でのチップ売りということはあり得ず、こまごました機能まで集積してSoCという形態にまとめて販売することが必須となる。すると、この手の技術に非常に長けているPortalPlayerが生きてくる。今回の買収は、非常に納得できる組み合わせなのだ。

NVIDIAとATIの次の戦場はPCのサブパネル?

 他方、AMDに買収されたATI Technologiesの方は、いまや潜在的にはプロセッサをはるかに上回る浮動小数点演算能力を備えるに至ったグラフィックス・チップを、プロセッサとより密に結合するという方向へと向かうかもしれない。ピークの演算能力だけを比べれば、実はグラフィックス・チップの方がプロセッサよりはるかに巨大な能力を持っている。ただし、これは局所的に使われ、プロセッサの演算機能のように表面に出てこなかった。しかし、ゲームやCAD系のグラフィックス・アプリケーションだけではなく、オフィス系などのアプリケーションでもグラフィックス・チップの能力に大きく依存するようになってきており、これをもっと表に出して活用することは、必然ともいえる流れかもしれない。

 ちょっと異なる2方向へ進みだしたように見えるグラフィックス・チップ大手の2社であるが、引き続き対決しなければならないことは今後も変わらないだろう。例えば、Windows VistaがサポートするノートPC向けのサブパネル表示である。いまのところ大したアプリケーションもなく、それほど注目を集めているようには見えない。だが、PC本体のプロセッサが休んでいるときにも動いていて、ユーザーとの間でインターフェイスできるサブシステムが内蔵されるというのは、PCが非PCの市場に浸透する上で大きな一歩であるように思える。

 このサブシステム向けのサービスが、PC本体から切り出されてほかの家電や携帯機器の市場に入り込む、というシナリオも十分あり得るのではないかと思う。当然、PortalPlayerはサブパネル向けのSoCを狙っているし、買収するNVIDIAはPortalPlayerの動きに乗るのか、それとももっと大きな構図で仕切り直すのかは分からないが、その後に続いてくるだろう。片やATI TechnologiesとAMD連合の方は、PC向けチップセットの延長の観点からそこにやってくるかもしれない。PC向けグラフィックスとは、少々趣が異なる小さな画面の上での再び対決があるのかもしれない。今後の動きが楽しみだ。

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筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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