行動しながら考える。イバーラ博士の型破りな転身術:エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(8)(1/2 ページ)
本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。
今回は、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールINSEADの教授、ハーミニア・イバーラ氏が提唱する“ハーバード流”キャリアチェンジ術を紹介しましょう。なぜハーバード流なのかというと、イバーラ氏が、ISEADに移籍する前に、ハーバードビジネススクールの教官だったところからきているようです。
当理論は、米国に住む幅広い年齢層の社会人を対象とした面接調査に基づく実証的なものです。キャリアチェンジ術といわれていることでお分かりになると思いますが、転職や独立に役の立つ考え方です。基本思想は、「行動しながら考える」こと。この点は、前回「クランボルツ理論の『計画された偶然』」で紹介したクランボルツ氏の「計画された偶発性理論」と同じですね。
あなたには数多くの将来の自己像(セルフイメージ)がある
イバーラ氏は、転職や独立など、キャリアを変えることは、自分の「キャリア・アイデンティティ」を変える(修正する)ことだといいます。キャリア・アイデンティティとは、キャリアを通じた「自己像」(セルフイメージ)のことですが、具体的には以下の3つの質問に対して、あなたが答える内容が、あなたの自己像=キャリア・アイデンティティになります。
- 職業人の役割を果たす自分をどのように見ているか(評価しているか)
- 働く自分を人にどのように伝えるか(伝えたいか)
- 最終的には職業人生をどのように生きるか(生きたいか)
“現在”の自己像についてはある程度答えられると思います。しかし、これから起こすキャリアチェンジ後の“将来”の自己像には数多くの選択肢があり得ます。「ぜひこの仕事をしたい」と確信を持って選べる仕事は必ずしもないかもしれません。また、あなたには、まだ発見されていないさまざまな可能性が眠っているかもしれません。どの選択肢(転職先や仕事)を選ぶのが正しかったかは、結局のところ実際にやって確かめるほか分かりません。
従って、自分の将来の自己像、すなわち、「こうなりたい」という理想の自分や、就きたい仕事は、自分の内面を掘り下げ、じっくり考えてから行動して発見するのではなく、取りあえず思いついた将来の自己像をちょっと試してみるのです。もし「しっくりこないな……」と感じたら、別の自己像を描いて試すといった、トライ&エラーの行動を通じて「新しい自分」を発見していくのです。
従来のキャリア理論の基本的な考え方であった「計画して実行する」ではなく、「試して(自分の自己像が何かを)学ぶ」ことをイバーラ氏は提唱しています。前述したように、クランボルツ氏の「計画された偶発性理論」でも同様の主張がなされています。
キャリアチェンジに不可欠。自分の可能性を見つける過渡期
イバーラ氏の研究結果から、以前の仕事や職種、会社から、新しい仕事や職種、会社へと移行するプロセスは突然切り替わるものではなく、3年から5年かかると分かっています。そのプロセスの中には、もちろん転職や独立といった大きな転機が含まれますが、その転機に決断するまでには、自分は何をしたいのか、どうありたいのかについて思い悩む時期が必ずあります。また、新しいキャリアを踏み出した後は、それが自分にとってしっくりくるものかどうかを確認するプロセスがあります。
この過渡期は、「ニュートラルゾーン」と呼ばれます。古いキャリア・アイデンティティと新しいキャリア・アイデンティティとの狭間で心が揺れ動く中途半端な状態であるため、誰もがつらい思いをします。人は一瞬にして別の人格に変わることはできません。自分自身もまだ出会っていない「新しい自分」を少しずつ発見していくしかありません。また、どんなキャリアに路線変更するとしても、人にはそれぞれ、絶対に譲りたくない価値観や大切にしたいこと、変わらない性格があります。
キャリアチェンジの過渡期である「ニュートラルゾーン」は、自分の新しい可能性の発見と、変えたくない、あるいは変わらない自分の個性を理解し、古いキャリア・アイデンティティを新しいそれへと再構成していくための不可欠な時期なのです。
さて、イバーラ氏は、自著『ハーバード流キャリアチェンジ術』の中で、キャリアチェンジ術における9つの戦略をまとめています。次のページで、この9つの戦略をご紹介しておきましょう。なお、これらは、従来のキャリアチェンジとは対極にある斬新な考え方であるため、「型破りな戦略」という表現が使われています。
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