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AIで「コード多重債務者」の世界線へ――新卒エンジニアが実務でボコされて学んだ、4つの挫折と生存戦略技育祭2026【春】

学生時代に「エンジニアリング完全に理解した」と有頂天だった新卒エンジニアが、実務の過酷な壁に直面。AI任せのコードによる大量の指摘や「理解負債」など、プロの洗礼によってボコボコにされながらも這い上がった、泥臭くも再現性の高い「4つの生存戦略」をレポートする。

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 国内最大級の学生エンジニア向けカンファレンス「技育祭2026【春】」。その熱気あふれるステージに登壇したのは、「バイトル」などの求人メディアを展開するディップのCTO室 AI Embeddedユニットに所属する新卒1年目のエンジニア、吉岡拓真氏だ。

 「AIを使えるは勘違いだった。コードかけてもプロになれなかった僕の一年戦記」と題されたこのセッション。学生時代に「エンジニアリングを完全に理解した」と有頂天になっていた吉岡氏が、実務の壁にぶち当たり、「ボコボコにされながらもプロへと成長していった」リアルな軌跡が語られた。ジュニアエンジニア当事者目線だからこそ響く、泥臭くも再現性の高い「生存戦略」をレポートする。


技育祭2026講演中の様子

「完全に理解した」有頂天の学生時代から、一転して挫折へ

 小学校で「マインクラフト」を使った4ビット加算機を組み、中学・高校・大学とゲームプログラミングや個人開発に没頭していた吉岡氏。大学時代には「GitHub Copilot」をフル活用し、サクサクとプロダクトを作っていたという。当時を振り返り、吉岡氏は「気持ちとしては、まさに『エンジニアリング完全に理解した』という有頂天な状態。ダニング=クルーガー曲線の一番高い山(自信の絶頂)にいた」と語る。

 しかし、そんな自信は入社後に木っ端みじんに打ち砕かれることになる。吉岡氏が直面した4つの大きな挫折と、それを乗り越えた具体的なアクションは以下の通りだ。

4つの挫折と生存戦略

挫折1:ビジネス・開発の「話が分からない」

 吉岡氏は「入社当初、スクラムや開発哲学といった、コードを書くこと以外の専門用語が飛び交う環境にショックを受けた」と話す。年齢もバックグラウンドも異なる完成された大人のコミュニティーに飛び込むコミュニケーションの大変さにも直面した。

 この壁を乗り越えるために、吉岡氏はまず、とにかく臆せず質問することを徹底した。入ったばかりの新人は聞くことが仕事と割り切り、ガンガン先輩に頼った結果、先輩からも「前提が整理できるから意外と助かる」と感謝される好循環が生まれたという。

 並行して、技術書の斜め読みにも取り組んだ。オライリーなどの技術書を「なんとなくこんな話があるんだな」と斜め読みするだけでもプラスになり、先輩たちが何十冊も読んでいる現実を知ることで、読書や勉強からは逃げられないと覚悟を決めた。

 就活への教訓として、困ったときにすっと質問を聞いてくれる「人の優しさ、人に恵まれる環境」を会社選びの重要項目にすべきだと実感を込めて語った。

挫折2:PRレビューで合計200件超の指摘、ボコボコにされる

 初めて実装タスクを任され、AIと一緒に書いたコードで自信満々のプルリクエスト(PR)を提出したところ、コメント数が140件、60件、80件と大量の指摘を受け、マージされる頃には原形をとどめていなかったという。命名の考慮不足や型定義のミスなど、「動けばいい」が通用しないプロの世界を痛感することになった。

 ここで吉岡氏は、プロとアマチュアの違いをまとめる。学生の個人開発では、せいぜい「Amazon Web Services」(AWS)を使いすぎてクレカ破産しそうになる程度のリスクしか発生しない。一方で実務の開発は、ユーザー1000万人への影響、クライアント15万社からの損害賠償リスク、会社や社会からのバッシングなど、プレッシャーの次元が違う「別ゲー」だという。

 この重圧を乗り越えるために、吉岡氏は2つのアプローチを採った。1つ目は「エラーを起こしたら死ぬ覚悟」を持つことだ。デプロイ時に「エラーが起こらなければ100万円、起こったら即終了」と言われてボタンを押せるかどうかという思考実験を課すことで、セルフレビューの精度が劇的に上がった。2つ目は、巨人の肩に乗ることだ。先人が積み上げてきたベストプラクティスや技術書に従い、車輪の再発明を避けてクオリティーを保証する手法を身に付けた。

挫折3:AIに振り回され、「理解負債」の多重債務者に

 コードの品質基準が上がると、AIによるエラー握りつぶしや不要コメントの乱発、手のひら返しといった悪い挙動が気になるようになった。AIの出力を「なんか動いた」で放置することは、エンジニア周辺で言われる「理解負債」を抱えることだと気付いたという。理解できないコードは、さらに理解できないコードを生み出す。放置すれば、漫画『カイジ』のような多重債務者の世界線、つまり地下労働や希望の船の選択肢しか残らなくなってしまう。

 この状況から抜け出すために、吉岡氏は徹底的にAIを疑い抜くマインドを持った。「親を殺された」くらいの強い気持ちでAIの“うそ”(ハルシネーション)を疑い、計画を立てさせたり(プランモード)、設計書をマークダウンで教えて照らし合わせたりしてロジックで詰め切る工夫を凝らした。

 AIを「レビュー側」に回すスマートなやり方も導入した。AIにコードを書かせるのではなく、レビュー(「GitHub Actions」連携など)に活用する形に変えたことで、AIがうそをついても無視すればいいだけになり、ノーリスクで恩恵だけを得られる「最高のハック」を確立したという。

挫折4:他チームに仕様を「説明できない」

 フロントエンドチームや企画ディレクションチームから「これってどういう仕様?」「これ実現できる?」と聞かれた際、全くうまく答えられずショックを受けたという。「コードを書けるレベル」と「説明できるレベル」は全く別物と学んだ瞬間だった。

 指示された必要なタスクをこなせば満点だったアマチュアやインターン時代とは異なり、プロのエンジニアの仕事は「なぜこの実装なのか」を示す証明問題であり、説明することの比重が非常に大きい。

 これに対応するために、吉岡氏はPREP(Point、Reason、Example、Point)法の徹底に努めた。「一生かけて結論から説明する」という強い意志で会話を矯正したことで、説明のレベルがグッと引き上げられた。

 もう一つの工夫は、AIのシンキングタイムの有効活用だ。AIがコードを出力している“ぼーっとしがちな時間”を使い、「As-Is(現状)とTo-Be(将来の姿)」の整理や、アーキテクチャの見直し時間に充てたことで、「チーム外のメンバーからの質問にもガンガン答えられる状態を達成した」。

まとめ:1年前の自分に伝えたい4つの教訓

 数々の挫折を乗り越え、今では複雑な実装も一発でLGTM(いいね)をもらえるようになった吉岡氏。彼がセッションの最後に「1年前の自分へ贈る言葉」としてまとめた4つの教訓がある。

 1つ目は、技術書を斜め読みでいいから今のうちから触れておくことだ。どうせ後から読むことになるので、早めの貯金が功を奏する。2つ目は「なんとなく動いた」を絶対に許さない責任感、すなわちバグらせない覚悟を持つことだ。3つ目は自分をボクサーだと見立ててAIと徹底的に殴り合い、AIをもっと疑うこと。4つ目は、筋トレと同じように毎日やり続けて説明力を上げることだ。「これらを1年前の自分へ伝えたい」と語った。

【質疑応答】リアルなジュニアの勉強術&記憶術

 セッション後半では、学生からのリアルな質問に吉岡氏が回答した。

 日頃の情報収集の場所についての質問に対し、吉岡氏は「一番お薦めなのはX(旧Twitter)だ」と答えた。技術ブログを熱心に書いている人や有名なエンジニアをどんどんフォローし、ゲームの情報収集をするのと全く同じ感覚でタイムラインを眺めるだけで、周りのエンジニアが読んでいる情報が自然と入るようになり、非常に成長できるという。

 技術書が頭に入りにくいという悩みに対しては、「感情を動かすこと」と「線で覚えること」の大切さを説いた。技術書を単体で読もうとすると難しくて挫折しがちだが、周りの人が話している技術トピックやSNSで見掛けた内容と、「あ、これ本に書いてあったやつだ!」とシナプスをつなげていく感覚を持つことで、一括して記憶に定着するようになると具体的なアドバイスを送った。

おわりに:若手が活躍する会社のエビデンス

 就活サイトなどでよく目にする「若手が活躍できる環境」というフレーズに対し、吉岡氏は「どの会社も同じように書くからこそ、事実に照らし合わせてエビデンス(証拠)を見に行くべきだ」とシャープに切り込む。その点、ディップにおける新卒が活躍している一番の証拠は、今、新卒1年目の自分がこの大舞台(技育祭)の壇上に立って喋っているという事実そのものだと力強く証明した。

 AI時代だからこそ、コードが書ける先にある「プロとしての責任感」や「人間ならではの説明力」が求められる。そんな実務のリアルと、それを乗り越えるための熱いエールが詰まった刺激的なセッションだった。

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