やる気が出ないとき、「いまの自分はOK」から始めよう:心の健康を保つために(9)(1/2 ページ)
ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。
「やる気が出ない」の原因は
相談を受ける中で、最近多いなと感じるのは、「やる気が出ない」という内容です。具体的には、「朝、仕事のことを考えると気持ちがなえてしまい、起き上がれない」「営業でお客さんを回らなければならないのに、体が重く感じてついつい休憩してしまう」などです。
「そんなのみんなあるでしょ?」という声が聞こえてきそうですね。確かに、毎日「さあ、やるぞ!」と思える人はそれほど多くないでしょう。「しょうがない、まあやるか……」と重たい腰を上げることもあると思います。
しかし、前述のような気が重い状態が何日も続き、「なんとかしなくては……」と思っているのに動けないともなると、大きな問題です。気持ちが追いつめられ、焦りばかりが募り、できない自分を責め、毎日が苦痛になってしまいます。
今回は、「やる気」をどうコントロールするかについてお話しします。
専門医の受診が必要なケースも
やる気が出ないという状態には、いくつかの要因が考えられます。
カウンセリングでは、以下のような可能性も念頭に置きながら、お話を伺います。
・うつの症状
「何かをしようとする意欲がない」という意味であれば、うつの症状の1つである可能性があります。そういうときは、ほかに変化が起こっていないかを確認します。
「最近眠れますか?」「食欲はありますか?」「頭痛や肩こりなどはないですか?」などの質問をし、生活状況を聞きます。その結果、うつ症状であることが考えられる場合には、専門医の受診を勧めています。
・燃え尽き症候群
やる気が「なくなった」というニュアンスの場合には、「以前はあった」ということですから、「いつごろから?」「きっかけは?」などを尋ねます。「3カ月間終電帰りが続いた後、一段落したらこうなった」のような状況なら、燃え尽き症候群が考えられます。疲労困憊(こんぱい)状態ということです。
これは体(脳も体の一部です)の自然な反応といえるので、まずは休養を取ることで対応します。場合によっては、受診や服薬が必要なこともあります。
しかし中には、原因が特に思い当たらず、これらの身体的な変化もないケースがあります。
なぜか分からないけれど、やる気が出ないYさん
SE3年目のYさんは、「何かきっかけがあったわけではないのですが、仕事のやる気が出なくて困っています」と相談に来ました。かなり前から、面倒な会議がある日は朝から気持ちが落ち込み、出社するのがおっくうになっていたといいます。
会議で何が一番おっくうかを尋ねると、「発言しなければならないことです。問題の打開案とか……。何かいい発言や提案をしなければと思うと、重たい気持ちになってしまうんです」という返事でした。さらに話を聞くと、こうありたい自分(理想の自分)とそれができないと思っている自分(現実の自分)との間にギャップが生じ、そのギャップがYさんをつらい気持ちにしていると分かりました。
「いまの自分はNOT GOOD」。こう感じているとき、駄目な自分を見せたくなくて守りに入り、人とのコミュニケーションを閉じてしまうことがよくあります。すると孤独感や疎外感がますます募り、さらに自分が嫌になってしまいます。このような負のスパイラルは防がなければなりません。
やる気に影響する「自己効力感」
そもそも、やる気とはどこから生まれるものなのでしょうか。
カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感(self-efficacy)というものを提唱しました。自己効力感とは、「自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信」(『心理学辞典』有斐閣刊、p.330より)です。分かりやすくいえば、「自分はちゃんとやれる、やれている」感じのことです。
自己効力感は、次の2つの「期待」に区別することができます。
- 結果期待……「こうすればこうなる」という、知識としての期待……「こうすればこうなる」という、知識としての期待
- 効力期待……こうなるために必要な行動を自分はどの程度うまく実行できるかという期待……こうなるために必要な行動を自分はどの程度うまく実行できるかという期待
「やろう」とする努力や結果に影響するのは、“効力期待”だといわれています。「うまくできそうにない」と思えばやる気は出ないし、「少し難しそうだけれど、何とかなりそうだ」と思えばやる気が出て、行動に移すことができるというわけです。
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