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「1円で株式会社」は得か? 損か?フリーエンジニアの「知れば得する」確定申告講座(3)(1/2 ページ)

確定申告直前にお送りする「知れば得する」確定申告講座。フリーとして活躍するITエンジニア向けに、確定申告で賢く節税するコツをまとめた。

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 個人事業主としてスタートしたフリーエンジニアが次に悩むのは、法人化(法人成り)をするかどうかだろう。昔と違って、資本金が1円でも株式会社が設立できる時代である(実際に1円で設立できるわけではないが、ハードルが低くなったのは確かだ)。

 確定申告という面から見て、法人化は得か損か。前々回「税務署に疑われない『必要経費』の区分」、前回「青色、白色、どっちがお得? 確定申告の選択肢」に引き続き、公認会計士の深作智行氏に聞いた。

法人化のメリットは?

 深作氏が株式会社設立(法人化)のメリットとして挙げるのは、次のような点だ。

(1)「自分は会社のオーナーだ。社長だ」というミエを張れる

(2)外部との取引上、法人形態でないと仕事ができないことが多い。法人化によってこれをクリアできる

(3)相対的に金融機関からの融資を受けやすくなる

(4)どこまでが事業(必要経費になる)でどこまでがプライベート(必要経費にならない)かが明確になる(考えようによってはデメリットともいえる)

 この中でフリーエンジニアとして最大のメリットは(2)だろう。企業、特に大企業の仕事を受託する場合、受託先が法人であることが規定されていることが少なくないからだ。法人化によって、個人では請けられない仕事も請けられるようになるので、仕事の幅が広がってくる。

 逆にいえば、(2)が当てはまらない限り、法人化するかどうかは考慮を要するところだ。個人事業主が法人化する、すなわち「会社の所有(株主)と経営(取締役)が一致している同族会社」となると、必ずしもメリットばかりではなくなってくる。

法人化のデメリット

 法人化のデメリットとして、深作氏は次のような点を挙げる。

(1)設立時の費用がかかる

 資本金は確かに1円でも株式会社が設立できるようになったが、実際には1円では株式会社はできない。定款の印紙で4万円、定款認証で5万円ほど、設立登記の登録免許税が最低15万円、司法書士などに任せればその報酬が必要になる。

(2)社会保険に強制加入となる

 法人はたとえ1人であっても、政府管掌などの社会保険に加入しなければならない。

(3)維持費がかかる

 どんなに赤字でも、毎年住民税均等割が最低7万円かかる。この均等割は資本金などの額と従業員数によって変わってくる。ほかに、役員改選や代表者の住所変更などがあれば登記費用がかかってくる。

(4)交際費に制限がかかる

 法人になると、青色申告ではOKだった交際費のうち、一定額が税務上の費用にならない。これは「損金不算入」といわれる。ちまたで会議費か交際費かで税務署との認識が分かれたと騒がれているのはこのことだ。

法人化の損得勘定

 個人事業主と法人の決定的な違い、それは、「利益ないし所得の帰属」(深作氏)だ。

 個人事業主は、個人の名前または事業所、ブランドをもって収入を得る。この収入はまさしく個人に帰属する収入であり、そこから事業にかかった経費を差し引いた値が事業所得である。ここに所得税が課せられる。

 一方、法人となると、相手との取引の主体は個人ではなく法人になる。つまり収入も費用もすべて法人に帰属する。もちろん利益も法人のものだ。法人の利益(所得)には所得税ではなく法人税が課される。法人から自分が利益をもらうためには、取締役になって給与(役員報酬)をもらうか、株主として配当をもらうかしかない。

 法人化するということは、自分の会社のサラリーパーソンになるということなのだ。法人税とは別に、自分の会社からもらった役員報酬は給与所得、配当金は配当所得となり、その個人所得に対して所得税が課税される形になる。

 では、個人と法人、いったいどちらが得なのだろうか?

 結論から先にいえば、税金という点から見れば「どちらともいえないが、法人にした方が税額をコントロールできる自由度が広がる」ということになる。

 この問いに対して、「所得金額と税率」で比較する論者が多いが、深作氏は「そんなに簡単な話ではない」という。確かに、所得金額と税率の関係でいえば、個人の所得税の税率は5〜40%だが、法人税・事業税・住民税の税率は所得金額にかかわらず、現行法では実効税率ベースで40%程度に固定されている(ただし資本金が1億円以下の法人なら、法人税では所得金額が800万円までの額は税率が30%ではなく22%となったり、事業税では段階的に低い税率が適用されたりする)。

 これだけ見ると、所得金額が少ない場合には個人の方が有利とも思えるが、「それは正しくない」(深作氏)。というのは、法人は役員報酬という形で「オーナー=役員」に給与を支払うから、その役員報酬を費用にして法人税を圧縮させることができるのだ。しかも、役員報酬は個人にとって給与所得となるが、実際に所得税の対象となるのは、役員報酬(給与収入)から国が決めた必要経費(給与所得控除額)を差し引いた額である。一方で、法人税の計算では、原則として、役員報酬の全額が費用(損金)として処理できるのだ。

 自分がオーナーの会社なら役員報酬は自分で決められる、つまり自分の所得税はコントロールできる。役員報酬を少なくすれば法人に所得が残るから、その分法人に多めの法人税がかかる。一方、個人の所得税は減る。逆に役員報酬を高くすれば、個人の所得税は増えるが、法人の所得は少なくなるから法人税の負担が減る。場合によっては法人の決算が赤字になる可能性もある。

 つまり、法人であれば役員報酬(それから家族に対する給与など)とそれに対する所得税、役員報酬による法人税の節税額、決算書の状況(役員報酬を払い過ぎで赤字にならないか)などを総合的に勘案して決定することができる。税金を自分でコントロールできるというのは、この「勘案できる」という点にある。

 ただし、これには重大な例外がある。

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