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サービス開始まで1年に迫ったLTEって何?次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる(1)

次世代無線技術のLTEの仕組みを紹介する。NTTドコモ、イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDIの来年の無線技術はどうなる?

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 本連載では数回にわたり、サービス開始まで後1年余りに迫ったLTEについて、技術的な特徴を中心とした解説を行います。

 LTE(Long Term Evolution)とは現行の携帯電話の技術を発展させた次世代の無線技術のことであり、標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)においてリリース8として規定された通信規格のことを指します。日本ではNTTドコモが2010年12月にサービスの開始を計画しています。また、NTTドコモ以外の移動通信事業者(イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDI)も将来的にLTEを導入する意向を示しています(表1)。

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 第1回目の今回はLTEの概要として、以下の点について説明します。

  • 移動通信の技術ロードマップ
  • LTEの特徴
  • LTE導入の目的
  • 標準化動向

※1:総務省「3.9世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」の資料より

1. 1 移動通信の技術ロードマップ

 その理由はLTEが現行のW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)やCDMA2000といった第3世代(3G)の通信規格と、現在研究が進められているIMT-Advancedと呼ばれる第4世代(4G)の間に位置する規格であること、また、4Gへの移行をスムーズに行うために4Gに近い技術を採用していることにあります。

 ただし実際の通信速度は利用する技術の種類や周波数幅などにより異なり、移動通信技術のロードマップとして、各世代の通信規格や特徴をまとめたものを図1に示します。なお、日本で多くの携帯電話が対応しているHSPA(High Speed Packet Access)やEV-DO(Evolution Data Only(Optimized))といったMbps単位の速度を提供する技術も3Gと4Gの間に位置付けられますが、これらは第3.5世代(3.5G)と呼ばれています。

図1 移動通信技術ロードマップ
図1 移動通信技術ロードマップ

 LTEは3Gの技術を長期的に発展させ、効率よく4Gに移行することを考えて技術が規定されており、この図にもあるように、4G(IMT-Advanced)で想定されている無線技術が採用されています。一方で、3Gの発展という観点から、3Gと3.9Gネットワークの間で動作連携が可能となるように(例えばW-CDMA/HSPAとLTE間のパケット通信ハンドオーバーなど)技術検討が行われています。

 ただし、3G/3.5Gとの技術的な連続性が少ないことや、通信速度が飛躍的に向上することから、海外ではLTEそのものを4Gと呼んでいるメディアやオペレータもいます。

 また、HSPAの発展として、HSPA Evolution(HSPA+)およびDC-HSDPAと呼ばれる技術も規定されており、これらは既存のHSPAと技術面やネットワーク構成面で親和性が高いものとなっています。そのため、例えばイー・モバイルのようにLTE導入前にHSPA+を導入して、段階的に通信能力を向上させる戦略を取っているオペレータもあります。

 なお、世界的なマーケットサイズで見ると、現在でも2GのGSM(Global System for Mobile Communications)が主流であり、全世界の加入者の約80%を占めています(表2)。例えば経済成長著しいインドも現在は2Gを利用しており、3Gライセンスは今後交付予定となっています。

図2 世界の通信規格ごとの加入者数(※2)
図2 世界の通信規格ごとの加入者数(※2

※2:GSM World: Market Data Summary

1. 2 LTEの特徴

 LTEの特徴として、最も知られている点は「通信速度」であり、さまざまなメディアを通して「光ファイバ並みの通信速度を実現」等の表現を目にすることがよくあります。実際には通信速度以外にも3G/3.5Gと比較してさまざまな面で向上が図られており、表3にLTEの5つの大きな特徴についてW-CDMA/HSPAとの比較を示しながら、以下に5つの大きな特徴を説明します。

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通信速度の向上

 LTEの最大通信速度は下り326.4Mbps、上り86.4Mbpsと規定されています(※3)。単純計算をすると150 Mbytesのファイルを約4秒でダウンロードできる速度であり、LTEを利用するユーザーにとって、最も分かりやすい特徴だといえます。

 ただし実際の通信速度は利用する技術の種類や周波数幅などにより異なり、日本でのLTE導入当初のユーザー1人当たり最大通信速度は50Mbps以下になると見込まれています(詳細は次回以降に解説予定) 。

遅延時間の短縮

 遅延時間は、通信開始時のネットワークとのコネクション確立に掛かる「接続遅延」と、通信中にネットワーク内のデータ伝送に掛かる「伝送遅延」の2つに分けることができます。LTEでは接続遅延は100msec、伝送遅延は5msec(無線ネットワーク内の片道)と、目標値が定められています。

 現在はコネクション確立に数秒かかっており、インターネットアクセス時などに携帯電話のボタンを押してから画面に表示が出るまで待たされている感じを受ける方も多いと思います。LTEではこの時間が非常に短くなることで、常時接続のように携帯電話からインターネット利用ができるようになると期待されています。

周波数利用効率の向上

 周波数利用効率とは、1つの基地局で収容できる通信のキャパシティ(同時通信量の合計)をいかに増やすことができるかを意味しており、通信事業者の設備投資コストに大きく関連する要素になります。LTEではHSPAと比較して、下り3倍以上、上り2倍以上の周波数利用効率の向上を目指しています。

 3倍の周波数利用効率とは、ユーザーの通信量がHSPAと比べて3倍に増えた場合も、同じ周波数幅・同じセクタで、いままでと同じ数のユーザーを収容できることを意味しています。この周波数利用効率の比較には、「bps/Hz/sector」(1セクタにおける1Hz当たりの通信速度)等が評価指標として用いられています。

周波数帯域幅の柔軟性

 LTEでは利用する周波数帯域幅を1.4MHz、 3MHz、 5MHz、 10MHz、 15MHz、 20MHzの中から柔軟に選択して利用できるようになっており、この周波数幅が大きくなるほど通信速度が高速になります。そのため、例えばLTE導入時は5MHz幅でサービスを開始し、同じ基地局装置のまま徐々に周波数幅を広げて、通信を高速化していくことができます。

 これにより、通信事業者は自社のLTE導入方針や制約条件に合わせた運用が可能となります。実際、NTTドコモがLTEで利用予定の1.5GHz帯の15MHz幅は東名阪では当初5MHz幅しか利用できず、将来周波数幅を拡張する必要があります。

パケット方式のみを提供

 3Gネットワークにおいては、音声通話用の回線交換方式(CS: Circuit Switched)とデータ通信用のパケット方式(PS: Packet Switched)の両方を提供する必要がありましたが、LTEではパケット方式のみが提供されることになります。そのため、これまで回線交換方式で提供していた音声通話は、VoIP(Voice over IP)によりパケット方式上で実現できるように規格が策定されています。

 ただし、音声通話を既存の3Gネットワークを利用し、データ通信はLTEを使用するようなインターワーキング(相互連携)の方式も同時に策定されていて、LTE導入時からVoIPを提供するかどうかは、通信事業者の方針に任されることになります。

※3HSPA to LTE-Advanced, Rysavy Research / 3G Americas, September 2009

1. 3 LTE導入の目的

 通信事業者がLTEを導入する目的は大きく「通信コストの削減」と「新たな付加価値の提供」の2つが挙げられます。

 まず「通信コストの削減」についてですが、「通信コスト」とはユーザーデータを通信するために掛かっている投資費用を意味し、「ビット当たりコスト」ともいわれます。通信事業者が利益を上げるためには、この通信コスト以上に収入を得る必要がありますが、定額制の導入やオペレータ間の価格競争によりパケット通信の収入そのものは頭打ちになってきています。さらにHSPA/EV-DOによる通信速度の向上やマルチメディアコンテンツの充実により、トラフィック量は指数的な伸びを見せており(グラフ1)、従来の通信品質を保ち続けるためには大規模な基地局投資が必要な状況となっています。

グラフ1 モバイル通信のトラフィック増加
グラフ1 モバイル通信のトラフィック増加

 収入が頭打ちである以上、通信事業者が収益を確保するためには、この増加する投資やそれに伴う運用費を抑えることが必須であり、そのためには同じ条件でより多くのトラフィックを処理することのできる、すなわち周波数利用効率のよい技術が必要となります。そのため通信事業者は周波数利用効率が大きく向上したLTEを導入し、通信コストを削減することを目指しています。

 一方で通信事業者は激しい競争環境の中で加入者を維持し、さらに頭打ちとなった通信料金に変わる新たな収益を生み出す必要があります。そのため、LTE導入により新たな付加価値を提供し、自社の魅力向上および収益向上を図ることも重要な目的となっています。

 前章で説明したLTEの高速通信・低遅延によるインターネットサイトや音楽・動画等のマルチメディアコンテンツへの快適なアクセスは、ユーザーにとって魅力的な付加価値といえます。LTEではさらに、その特徴をベースとしつつ、既存モバイルサービスの延長線上にとどまらない新たなサービスが創出されることを期待されており、例えばNTTドコモは「新たな成長を目指したドコモの変革とチャレンジ」の中で、端末とネットワークがコラボレーションする新サービスを検討していることを発表しています。

1. 4 標準化動向

 LTEは移動通信技術の標準化団体である3GPPで仕様が策定されており、その中のリリース8というフェーズで検討が行われ、2009年3月に仕様が凍結されました。3GPPはGSMやW-CDMAの標準規格を定める標準化団体であるため、LTEはW-CDMAの発展として位置付けられています。

 LTEという言葉は一般的に3.9Gのネットワークすべてを指して使われることがありますが、3GPP内ではE-UTRAN(Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network)と呼ばれており、厳密には無線ネットワークの標準規格を指しています。そしてLTEに対応するコアネットワークの規格はSAE(System Architecture Evolution)またはEPC(Evolved Packet Core)という名称で規定されており、それぞれ異なるグループ(TSG: Technical Specification Group)で詳細仕様が策定されています。

 また、すでに検討が開始されている次フェーズのリリース9においても、LTEのさまざまな機能の高度化が議論されており、2009年末〜2010年前半での仕様凍結が目指されています。表4にLTE関連としてリリース8で凍結された仕様とリリース9で議論中の仕様を示します。

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 なお、KDDIが採用しているCDMA2000の標準規格は、3GPP2という別の標準化団体で規定されており、3GPP2においても次世代規格としてLTEとほぼ同等の性能を提供するUMB(Ultra Mobile Broadband)が仕様策定されていました。しかしCDMA2000オペレータであるKDDIやVerizon(北米)のLTE採用および主要チップベンダであるQualcommのUMB開発断念により、実質的にUMBの商用化は中止となっています。

 今後の連載では、今回説明したLTEの特徴の基となる各技術について詳細に解説をするとともに、通信業界のグローバル動向も含めて以下のような内容でLTEの説明をしていきたいと考えております。

  • LTEのネットワーク構成
  • LTEを実現する無線技術
  • LTEに対応するコアネットワーク技術
  • 他通信規格との比較
  • 世界のLTE導入動向

今回の全体的な参考資料

第938回(2009/1/21)電波管理審議会 会長会見資料 諮問第3号説明資料

著者紹介

ノキア シーメンス ネットワークス株式会社 事業戦略 統括

小久保卓

2001年から株式会社NTTドコモでネットワーク装置開発を担当。その後、経営企画部にてサービス導入戦略やLTE導入戦略策定に従事し、

2009年にノキア シーメンス ネットワークス入社。現在は日本における事業戦略、事業計画全般を担当。

2001年京都大学情報学研究科修了。



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