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IT業界の「ビジネスの仕組み」は多種多様情報系学生のためのIT業界入門(1)(2/2 ページ)

就職活動を行ううえで欠かせない「業界研究」。学生にとっては非常に分かりづらいIT業界について、新人社員の行貝くん、色主さんと一緒に学んでいこう。(注)記事中のグラフは、マウス操作を行うためにFlash Playerを使用しています。実行にはFlash Playerが必要です。Flash Playerのダウンロードページはこちら。

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冠里さん

 「業界」とは一般に、「提供する価値=業態」によって、商品を生み出すことで利益を上げる「製造業」、商品を流通・販売することで利益を上げる「流通業」、サービスを提供することで利益を上げる「サービス業」の3つに分けられます。

 IT業界が興味深いのは、「サービス業」色の強い企業と、「製造業」色の強い企業が混在している点です。ちなみに、日本では受託システム開発の売り上げがほかと比べて高くなっています。

情報サービス業の業態と売り上げによる分類
図2 情報サービス業の業態と売り上げによる分類
行貝くん

 なるほど、うちのような受託システム開発の会社は、どちらかというと「サービス業」。一方、さまざまな流通網を使ってビジネスソフトやゲームを製造・販売するソフトウェア開発の会社は「製造業」に似た業態なのですね。

色主さん

 「インターネットサービス」はなぜ、サービス業と製造業の中間に位置しているんですか?

冠里さん

 それは、「対象とする顧客」で分類してみるとよく分かります。「顧客」による分類では一般に、個人顧客を対象とする「BtoC」、企業顧客を対象とする「BtoB」、個人と企業の両方を対象とする「BtoBtoC」という3つの軸を使います。

 この分類を使うと、例えば「自動車メーカー」や「鉄道業」は「BtoC=個人顧客向け」、「半導体メーカー」や「印刷業」は「BtoB=企業顧客向け」となります。では、IT業界はどれに当たると思いますか?

行貝くん

 う〜ん。ゲームソフトはBtoCだし、受託システム開発はBtoB、情報提供サービス業は……あれ?

冠里さん

 そう、IT業界の場合、業界内に、BtoC、BtoB、BtoBtoCの企業が共存しているのです。

受託システム開発 ソフトウェア開発 アウトソーシングサービス インターネットサービス
BtoC ゲームソフト開発 ソフトウェアサービス
BtoB システム開発全般/上流&PM請負/ネットワーク&インフラ 基幹系・開発系/ソフト開発 システム運用管理/計算事務処理&データ入力受託/人材派遣 ソフトウェアサービス
BtoBtoC ビジネスソフト開発 ソフトウェアサービス/ポータル&CGM&モール/モバイル
表1 情報サービス業の顧客と業態による分類
色主さん

 つまり、受託システム開発会社はBtoBのサービス業、ゲームソフト開発会社はBtoCの製造業、インターネットサービス会社の多くはBtoBtoCのサービス業と、さまざまな業態で、さまざまな顧客に対してビジネスを行っているわけですね。

冠里さん

 そういうことです。通常、BtoBの企業が顧客企業の要望に基づいて仕様を決めていくのに対して、BtoCやBtoBtoCの企業の場合、顧客の要望を調査しながらも、仕様は自らが決めていくことになります。その意味で、「インターネットサービス」は同じサービス業でも、製造業に近いわけです。そして、こうした業態や顧客の違いがその企業の文化を決めているのです。

色主さん

 ほかにも、企業の文化を決める要素はありますか?

冠里さん

 あります。その企業の「母体」ですね。

行貝くん

 え、何ですか、それ?

冠里さん

 母体とはその企業の「母体組織≒親会社」のことで、メーカー系、独立系、ユーザー系、外資系、コンサル系などに分けられます。以前、それぞれの特徴をまとめたものがあるので、あとで目を通しておいてください(参考:「IT業界は、母体5つと業態6つで分類できる」「IT業界、独立系は多数、メーカー系は4群だけ」)。

行貝くん

 なるほど、富士通やNECはメーカー系、インテックやオービックは独立系、ラックやネットワンはネットワーク&インフラ系なのか。面白いな。

冠里さん

 ただし新人の皆さんの場合、企業ごとの特徴の前に、まずは業界の特徴を理解しておいてほしいので、今回は詳しく触れません。次に理解してもらいたいのは……。

色主さん

 「対価を得る手段=課金モデル」ですね。

冠里さん

 そうです。これは、インターネットの登場で大きく変わりました。インターネット登場以前、IT業界の課金モデルは「人的サービス課金」と「パッケージ課金」のいずれかでした。しかしインターネットの常時接続が当たり前となり、通信速度が上がったことで、グーグルのような「サービス課金」モデルの企業が現れたのです。なお、顧客と業態による区分に課金モデルを加えると、表2のようになります。

受託システム開発 ソフトウェア開発 アウトソーシングサービス インターネットサービス
BtoC パッケージ課金 システムサービス課金/パッケージ課金
BtoB 人的サービス課金 パッケージ課金 人的サービス課金 システムサービス課金/人的サービス課金
BtoBtoC パッケージ課金 システムサービス課金/人的サービス課金/パッケージ課金
表2 情報サービス業の課金モデルと顧客による分類
冠里さん

 受託システム開発やアウトソーシングは通常、「人月」と呼ばれる開発者1人当たりの月次コストの積み上げによる人的サービス課金、ソフトウェア開発はパッケージソフトの販売によるパッケージ課金が主流です。まあ、人月モデルについては様々な問題点が指摘されているのですが……。

行貝くん

 インターネットサービスには、さまざまな課金モデルが存在するみたいですけど、これはどうしてですか?

冠里さん

 例えば「モバゲータウン」や「GREE」などは、個人向けの基本的なサービスは無料で提供する一方で企業に対して有料の広告配信サービスを提供し、さらには個人がサービスで利用するデコレーションパーツを有料で販売しています。これはある意味、パッケージ課金です。このように、一般にサービス単価が低いインターネットサービスでは、無料サービスで個人を集客し、法人や個人に対するパッケージ/サービス提供の課金モデルを組み合わせることで、利益を上げていくことが求められるのです。

行貝くん

 確かにグーグルを見ていると、こんな便利なサービスを全部無料で提供したら、ほかの事業者はどうやってビジネスをするのだろうと思いますよね。

冠里さん

 グーグルは、個人に対しては無料で検索サービスを提供する一方で、企業に対しては検索連動の広告表示サービスを有料で提供することによって世界的な企業へと成長しました。現在は、企業向けの情報管理環境・システム構築環境の有料サービスに本格的に進出することで、人的サービス型の企業やパッケージ型の企業のビジネスモデルを脅かしつつあります。今後10年で、IT業界のビジネスモデルはさらに大きく変わるかもしれません。その意味で、IT業界の提供するサービスとそのビジネスモデルを理解しておくことは、非常に重要なのですよ。

色主さん
行貝くん

 分かりました!


著者紹介

イノウ

さまざまな業界や会社のことを、Webと書籍の連動で「分かりやすく」解説することを目指しています。さまざまな業界の企業を業態やキーワードごとに検索可能なWebサイト「業界地図 2012」を近日オープン予定。



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