「日本人もインド人もインドで学ぶ」――ゾーホーが実践するグローバル人材育成:海外から見た! ニッポン人エンジニア(7)(1/2 ページ)
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。
あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。
2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。
今回は、アメリカに本社、インドに大規模な開発拠点を持ってソフトウェア製品を開発・販売するゾーホージャパン 代表取締役の山下義人氏に話を聞いた。アメリカ、インド、中国、日本で展開するゾーホーグループの副社長も務める山下氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。
外国との連携は「人」とのつながりが第一
小平 本連載の前身「日本人エンジニアはいなくなる?」で、わたしは2003年から海外のITエンジニア動向を紹介してきました。その背景には、中国やインド、ベトナムなどの事情を知るたびに募る、わたし自身の「危機感」がありました。
山下さんは、海外のパッケージ製品を日本に提供する仕事に従事したり、シリコンバレーに駐在したりなど、昔から海外との接点を持っていたそうですね。山下さんにとって、日本人エンジニアを取り巻く環境について、昔はどのように考えていましたか。
山下氏 わたしも、人口減少やITエンジニア離れ、新興国の台頭などに危機意識がありました。そのため、前職の開発部長時代には、1995年時点で中国人SEの採用活動を行っていました。当時は中国まで出向いて面接を行い、5人ほど中国人を採用しました。それ以来、中国人メンバーたちとは公私ともにお付き合いをしています。2003年のゾーホー中国法人は、このメンバーの一部が中核となって設立しました。
小平 1990年代の中国へのアウトソーシングは、多くの失敗談を聞きます。山下さんは、これらの失敗談をどのように見ていますか。
山下氏 幸い、前職においては、中国へのアウトソーシングはうまくいっていました。当時、多くの日本企業が失敗した背景には、共通するものがあったと思います。つまり、「トップダウンでコスト削減の号令」→「現場の日本人社員は、中国人エンジニアと協働する準備が、マインドとスキル両面においてできていない」→「やらされている感が出てきて、いかに中国人SEの活用が難しいかという『ダメな理由』探しに終始する」というものです。
確かに、中国での展開はいろいろなリスクがあります。しかし、一番の問題は、やはり「人」同士の関係です。関係といっても、単なる「雇用者-被雇用者」という契約関係ではなく、1対1の人間関係を構築することが大事だと思います。
ゾーホージャパンは、中国だけでなくアメリカやインドと密接に連携をして仕事を進めています。仕事を進めるうえでは、国別に人材の質を測るのではなく、いかに優秀な人材を引き寄せるための処遇をするかが重要です。とはいっても、優秀な人材の採用に関しては、相当な工夫が必要です。
例えば、インド・チェンナイのゾーホー開発拠点では現在、約1300名が働いています。しかし、いわゆる通常のインド人エリート層は、なかなかベンチャー企業には来てくれません。なぜなら、IIT(インド工科大学)などを卒業するインド人エリートエンジニアは、いわば日本の新卒に近い「大手志向」を持っているからです。卒業後は、当然のようにタタ・グループやインフォシス・テクノロジーズなど、いわゆるIndian Giants(インドの巨人)に続々と就職していってしまいます。
インドで社内大学を設立——グローバル人材はここで育てる
山下氏 インドにおける大卒・優秀人材の採用の難しさに対応するために、当グループでは10年ほど前から「Zoho University」という社内大学を運営しています。ここで勉学を修めた学生のうち半数ほどを、ゾーホーが採用しています。Zoho Universityに入学するのは、「能力はあるが勉強を続けられないインド人高卒」です。大学といっていますが、ゾーホーは在籍者にわずかではありますが給与を支払っています。なぜなら、インドでは勉強を続けるお金がない人、家計を従えるために早くから働く若者の数が非常に多いからです。
Zoho Universityには、常時100名ほどが在籍しています。インドの私立高校は英語で授業をしますが、公立高校では現地語です。そのため、Zoho Universityでは、数学やプログラミングなどのエンジニアとして必要な教育と併せて、英語教育にも力を入れています。社内の公用語は、もちろん英語になっています。
小平 格差の大きなインドで、公立高校を卒業した学生が中心に入学しているのですね。彼らの学びや仕事に対するモチベーションはいかがでしょうか。
山下氏 モチベーションは非常に高いです。むしろ、「ハングリー」といった方が適切かもしれません。いまの日本社会では、生活に困ることはあまりないでしょう。しかし、インドでは状況はもっと切実です。インド人エンジニアが学ぶ理由は「妹に結婚式をさせてあげたい」「親に家を買ってあげたい」といった、素朴で強烈な「生きていくことに対する欲求」を背景にしているのです。Zoho Universityでは、在籍者に給与を支払っているので、彼らの家計を従える最低限の生活保障を行っていることになります。そのため、彼らは、家族からのプレッシャーを免れてきちんと学べるのです。
日本人新卒は、1年目で全員インド研修に行かせる
小平 ゾーホージャパンは日本でも優秀な人材を採用し、インドで研修を行っているそうですね。どのような人たちが入社して実際にインドに行っているのですか。
山下氏 当社では経験者採用・新卒採用を共に行っています。新卒採用は、今年で4期目です。すでに十数名採用しており、全員が1年目からインド研修に行っています。入社動機としては「外資系」「ITベンチャー企業」であること、そしてやはり「インドグローバル研修」の魅力が大きいようです。
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