AWSはいま、何を考えているか:クラウドHot Topics(2)(2/2 ページ)
今世紀最大のIT潮流といっても過言ではないと思われる「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」。本連載では、最新の展開を含めて、クラウドをさまざまな側面から分析する。
「テクニカルでない」人たちに使われたい
―― 過去1年に出した機能やサービスのなかで一番意義深いと考えていることを1つ挙げるとすればどれか。
地理的拡大は一番影響が大きかった。当社のビジネスとサービスを、まったくこれまでとは異なる人々に向けて、開くことができたからだ。遅延の問題があったために、これまでは(AWSを使ってもらうことが)考えられなかったような人々だ。2010年4月のシンガポール、そして今夜の日本のサービス開始は非常に重要だ。
また、過去1年に始めたサービスのいくつかは、AWSをこれまでよりはるかに使いやすくした。このことはエンタープライズ顧客にとって特に重要だ。ディープな開発者のような技術知識を持たない人や、当社のサービスを詳しく調べる時間のない人に対応できた。例としてはAWS Management Consoleの充実、Elastic Beanstalk、CloudFormationなどがある。また、エンタープライズ顧客は、企業の複数部門における利用を一括して請求する機能や、アイデンティティ/アクセス管理が重要だと考えるだろう。
あと2つある。
Amazon EC2では、かなり多くのHPC(High Performance Computing)ワークロードが処理されてきた。しかし、EC2でHPCのパフォーマンスを最適化する取り組みはこれまでまったくできていなかった。そこで昨年、GPUを使ったCluster Computeを提供開始した。これがかなり大きなHPC関連のビジネスにつながったし、HPC顧客の満足度が向上した。
データベースでは、クラウド上のMySQLといえるAmazon RDSを提供開始した。最初は単一のAvailability Zoneで提供を始めた。しかし、本格利用されるデータベースでは、複数のAvailability Zoneで稼働することで冗長性を高めたいというニーズが強かった。このため、複数のAvailability ZoneにAmazon RDSを展開することは非常に重要だった。Amazon RDSへのRead Replica機能の投入は、さらに多くの本格利用データベースのAWSでの稼働を可能にした。
この質問は、私の2人の子供のどこが一番好きかを挙げろと聞かれているようなものだ。何時間でも話し続けることができる。
―― 開発者以外の人々に対して、AWSはどこまでアピールしようとしているのか。開発者以外の人々を引きつけるようなサービスや機能を積極的に提供しようという意思はどこまであるのか。
大いにある。過去1年に当社が提供したことの多くは、よりテクニカルでない人々にAWSを使ってもらうことを目的としたものだ。Management Console、Beanstalk、CloudFormationはこれを目的としている。同様な取り組みはまだまだ続く。このことには非常に興味を持っている。
大切なのは多様な抽象度を提供すること
―― その取り組みにより、レイヤが徐々に上がって、SaaSの方向に近づいていくということなのか。
過去5年間のAWSの歴史において、当社は若干上のスタックに上がってきたといえる。Amazon EC2やS3はインフラストラクチャ・レベルの構成要素だ。その上に、次のレイヤとしてモニタリングや負荷分散、アップスケーリング、電子メールサービス、RDSを提供してきた。今後も継続して、当社の中核的な構成要素の上に重ねるようなサービスを加えていく。Beanstalk、CloudFormation、各種のSDK、IDEのプラグインなど、こうした活動は過去数年間、展開してきた。
しかし、SaaSアプリケーションを近い将来に当社は提供するだろうか? おそらくしないだろう。当社が注力している分野ではないからだ。ただし、もし顧客が、ある機能を死ぬほど求めていて、当社のエコシステムを構成するパートナーがだれもそれを提供する余裕や興味がないというのであれば、考えないということはない。しかし、非常に多数のSaaSベンダがAWSを使ってくれており、当社はこれをうれしく思っている。
IaaS、PaaS、SaaSといった分類がなされるが、その境界は容易に曖昧化する。非常に長い間、人々は当社をIaaSと呼んできだ。しかし、「RDSは何だかPaaSっぽい」とか、「Elastic BeanstalkでPaaSに進出するのか」などといわれるようになった。われわれは、こうした境界は非常に曖昧なものだと感じている。
―― つまり、AWSがIaaSと呼ばれようが、PaaSと呼ばれようがどうでもいい、ということか。
どうでもいい。Elastic Beanstalkを提供開始したとき、「AWSはPaaSに進出したのか」と書かれた。しかし答えはノーだ。顧客が欲しがっているものを提供する。
Amazon EC2やS3、RDSなど個々の構成要素を直接触りたい人はたくさんいる。こうした人たちは、アプリケーション構築のために高度な制御を必要とするからだ。
一方、構成要素の1つ1つについて詳しく調べる時間がない人たちもたくさんいる。こうした人たちは、高度な制御など必要ないという。即座にアプリケーションを立ち上げることが重要で、インフラ構成に関連するプログラミング的な作業に足をひっぱられたくないと考えている。Elastic Beanstalkは、こうした人たちに向けたサービスだ。
当社のElastic Beanstalkは、他のベンダが提供しているようなものとは異なる。多数の人たちが、まずElastic BeanstalkでAWSを使い始め、そのうちに「データベースを入れ替えてみたい」とか、「ストレージを替えてみたい」「オートスケールの設定を変えたい」「制御をある程度、自分の手に取り戻したい」と考えるようになるかもしれない。Elastic Beanstalkでは、いわば顧客はボンネットを開けて、アプリケーションのすべての構成要素を制御できる。これはかなり(他のPaaSとは)違う。これは、「できるだけ顧客自身が制御できるようにする。親であるかのように、何をどう使うかを指図しない」という当社の基本的な考え方からきている。
これは、PaaSかIaaSかという問題ではない。多様な抽象度、あるいはインターフェイスを、異なる関心を持ったさまざまな人々にどう提供するかということだ。
―― AWSに以前から親しんでいる人はいいが、最近AWSに触れた人は、異なる価格体系を持った多数のサービスが提供されているため、複雑だと感じることも多いのではないか。この状況の改善策はあるのか。
先ほど触れたが、AWSサービスについて詳しく調べる時間のない人に対しては、Elastic Beanstalk、CloudFormationによって、AWSを使い始めやすくしたと思っている。サービスごとに別個の価格体系があるという件は、顧客と活発に議論したトピックだ。「何をどう使うかを制御するのは顧客だという考え」に基づいている。料金も、使っただけ払ってもらうということだ。パッケージやバンドルを押し付けるようなことはしない。リソース利用に応じた料金についてはガラス張りでありたいと思っている。
実際に、ある企業から、「数億円払うと、これだけのEC2、ストレージ、データベースをくれるという形のほうが簡単でいい」といわれたことがある。しかし、エンタープライズ顧客との過去の経験からいうと、各企業に適したバンドルやパッケージをつくるのは非常に難しい。企業ごとにワークロードがまったく異なるからだ。一企業の社内でも、部門によってワークロードやアプリケーションは異なる。最初はパッケージを求める顧客も、設定利用量を超えた場合はどうするかなどいろいろ検討した結果、やはり従量課金に戻ってしまう。だれも、必要以上に支払いたくはないからだ。一方で、利用量に基づく料金をシミュレーションするツールは提供している。
すべてのコンピューティングはクラウドに移行する
―― あるブログのポストは、「異なるユースケース、異なるニーズ、異なる予算を持った顧客に対応するため、AWS以外に複数のクラウド提供者が存在することが重要だ」と述べている。AWSはあらゆるユースケースやニーズに応えられると思うか。
当社は明確に、顧客が動かしたいと考えるすべてのアプリケーションに対応することを目指している。これは当社の長期的な「志向」だといえる。意図的に、特定のアプリケーションやユースケースを除外することはない。
―― では、このブログポストに記されているように、世の中には複数のクラウドサービス提供者が存在することが望ましいと考えるか。
クラウドサービスを提供する事業者が複数存在し続けることには、疑問の余地がない。10年後、20年後には、自前のデータセンターを持つ企業はほとんどなくなり、データセンターを持つ場合でも、非常に小規模なものになるだろう。すべてのコンピューティングはクラウドに移行する。私はそう信じている。すべてのコンピューティングがクラウドに移行するなら、1社でそのすべてのコンピューティング能力を提供できるわけがない。当社はその市場で、成功し続け、リードし続けることを信念としている。
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