スマホ技術者も知らないと損する「O2O」の基礎知識:Androidで使えるO2O技術まとめ解説(1)(4/5 ページ)
O2Oを4つのパターンで整理し、今注目される理由や事例、パーソナル情報との関連性、O2OクライアントとしてAndroidアプリを作成する際に必要な技術などを徹底解説します
【1】GPSの限界を超える「屋内・屋外測位」技術
Androidには地磁気センサや加速度センサなどさまざまなセンサが内蔵されていますが、O2O特に「集客」+「コンバージョン」ビジネスを考える場合、「位置情報」は極めて重要なセンサ情報の1つです。利用者から近い店舗をリコメンドしたり、利用者が訪れた店舗をチェックインしたり、という形で位置情報は活用されています。
また、迷路のような地下街や巨大な高層タワーなど、日本ほど屋内商業施設が発達した国は類を見ません。屋内での位置情報が利用できれば、O2Oビジネスで活用できる場面はたくさん出てくるでしょう。
ただし、O2Oビジネスとして位置情報を利用する場合、その利用可能な場所と精度、および利用に至るまでの設備投資が問題となってきます。
GPSの限界
Androidの位置情報は、米国の測位衛星を用いたGPS(Global Positioning System)を中心に、さまざまな精度向上策を付加して計測しています。民生用のGPSは、GPS衛星を何基補足できるかにもよりますが、誤差5〜10m程度の精度しか出ません。
そこに携帯電話基地局からの支援や近隣のWi-Fiアクセスポイントの情報などを付加することで、現在皆さんがお使いになっている「数m精度」の位置情報を得ているのです。
しかし、この精度の「位置情報」は、屋外のナビゲーションで用いる場合は良くても、O2Oビジネスで用いる場合には問題となる場合があります。GPS衛星が見えづらいビルの谷間では、なかなか計測結果が出ませんし、精度がバラつきます。
さらに屋内では、ほとんど当てにできません。ある店舗でチェックインしてみたら、隣の店舗のポイントが付いてしまったら困りますよね。
屋外の測位精度向上―「QZSS」準天頂衛星システム
GPSの補完と補強を行い、屋外での位置計測精度の向上と次世代の位置計測基盤となるべく整備されつつあるのが、「準天頂衛星システム」です。
2010年9月に打ち上げられた初号機「みちびき」をはじめ3機以上の衛星を「日本の真上を通る軌道 = 準天頂軌道」に打ち上げることで、都会のビルの谷間からでもいつでも確実に少なくとも1機は衛星をとらえられるようになります。
また準天頂衛星からGPSの補強信号を送ることで測位精度も格段に向上し、GPS+QZSSで1m程度の精度が出せると言われています。
このQZSSですが、残念ながらAndroidではまだ利用できません。Androidスマートフォンに内蔵されているGPSチップがQZSSの信号に対応していないためです。ただしQZSS対応のGPSチップは、すでに市場へ出回っているので、準備が整えば一気にQZSS対応Androidが出回ることでしょう。
屋内の測位精度向上―さまざまな技術が群雄割拠
一方屋内測位では、下記の例のようにさまざまな手法が実用化されています。それぞれ一長一短があり、「コレダ!」という決定版は出てきていないのが現状です。
屋内即位技術の例 | 概要 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
Wi-Fi AP | 屋内に設置された複数の無線LANアクセスポイントのビーコン情報を基に、位置を計測 | 無線LANアクセスポイントは既に設置されている商業施設も多く、機器設置のハードルが低い | 屋内にはノイズ発生源が多く、電波の周りこみや反射・吸収も起きやすいため、ピンポイントの精度が得にくい |
IMES | GPSと同じ電波形式でIMES送信機の位置情報が送信され、それを基に端末の位置を計測 | AndroidのGPSチップが対応すれば、屋外・屋内を問わずシームレスに現在位置を取得できる | Android側の対応が必要であり、IMES送信機も設置しなければならない |
超音波 | 人が感じられない超音波を発信し、それを基に位置を計測 | Androidのマイクが超音波を補足すれば、自動的に位置情報が得られる | 超音波を発する装置を設置しなければならない |
可視光 | LED電灯などを人が感じられない速度で点滅させて位置情報を発信し、それを基に位置を計測 | 電灯はどのような施設にもあるため設置がしやすく、目で見て分かるため、到達範囲を限定しやすい | 発信源を撮影する必要があるため、外から見える場所にカメラを付けなければならない |
センサ統合&自律航法 | 何らかの手段で出発点の位置を確定した後、加速度センサやジャイロセンサなどを組み合わせて現在位置を計算 | Android端末のセンサのみで現在位置が計算でき、追加で機器を設置する必要がない | 誤差が蓄積してしまうため、他の手段によるピンポイントな位置補正の併用が必要 |
実際には各技術の特徴を生かし、利用シーンに従って技術を組み合わせることが必要となるでしょう。
例えば、利用者が来店したことさえ分かれば良いのであれば、店の入り口に超音波発信源を設置し、「ある利用者がドアの中に入った」ことをオンラインで取得できます。
また、利用者をあるルートに沿って誘導したいのであれば、利用者が確実に訪れるポイントでRFIDやIMESなどを利用してピンポイントに現在位置を確定させ、それ以外の場所はWi-Fi測位と自律航法を組み合わせて補間する、などですね。
屋外・屋内測位技術の活用ポイント
これらの屋外・屋内の測位技術を活用することで、「Android端末(≒人)が、とある限定空間内に来た・居る・居なくなった」というOfflineの状態をOnlineで把握できるようになります。
またオプトインした利用者であれば、利用者が明示的にAndroidを操作しなくとも、位置情報を自動的に収集するようにアプリを作ることもできます。この特性を活用して、屋外・屋内測位技術をO2Oビジネスに役立ててください。
【2】ユーザーを前向きな気持ちにさせる「近接通信」技術
上記の屋外・屋内測位技術が「現在位置を自動的に取得することで、利用者へサービスを配信し、利用者の意識と行動を誘導する」というPush型の仕組みを作りやすいのとは対照的に、「Androidをセンサや他のAndroidにタッチする」という利用者の能動的行為を引き出し、「押し付けられたモノではなく自分からサービスを利用しているのだ」という利用者の前向きな感覚を得やすいのが近接通信技術です。
近接通信技術は、RFIDタグを用いた流通管理や、FeliCaを用いたおサイフケータイ、住民基本台帳カードや運転免許証など、さまざまな分野で利用されています。これらの近接通信技術の「無線通信部分」を標準化したものが、NFC(Near Field Communication)です。
NFC規格の詳細は、以下の記事などを参照してください。
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
実は、現在国内で販売されているAndroidスマートフォンで、NFC規格の近接通信を扱うことのできるものは、「Galaxy S2」「Galaxy Nexus」などのサムソン製品の一部、および、NFC/FeliCa対応のAQUOS PHONEなど、まだまだ数少ないのが現状です。
しかしAndroid 4.0の目玉機能の1つである「Android Beam」はNFCをベースにしていますし、国内3大キャリアが2011年12月に共同で設立した「モバイル非接触ICサービス普及協議会」は、NFCも意識して近接通信サービスの普及促進を図っています。NFCに対応したAndroidスマートフォンも続々と発売されることでしょう。
AndroidのNFCで利用できる3つのモード
NFCには規格上3つのモードがあり、利用形態に従ってどれかのモードを選択することになります。ただしカードエミュレーションモードは実装が必須とされておらず、実際Android 4.0のリファレンス実装でもサポートされていないようです。
- 「カードエミュレーション」モード
SuicaやFeliCaのようなパッシブな非接触ICカードのフリをして、NFCデバイスへ情報を渡す - 「リーダー/ライター」モード
ポスターなどに仕込まれたICタグのようなパッシブなNFCタグの情報を、Androidスマートフォンが読み書きする - 「PtoP」モード
Androidスマートフォン同士、およびAndroidスマートフォンとNFC内蔵デバイスなどで双方向通信をする
「Android Beam」は、PtoPモードを活用してAndroidスマートフォン間で情報やファイルを共有する仕組みです。携帯電話の赤外線通信のように事前に双方でアプリを立ち上げておく必要もなく、ただ単にAndroidスマートフォンを接触させるだけで情報の送受信が行えます。まさに、NFCの機能を活用した仕組みといえるでしょう。
NFCの活用ポイント
NFCをO2Oで利用する場合、利用シーンに沿って上記のモードを上手く活用することがカギとなってきます。
例えば、店舗内に常設されたポスターにNFCタグを仕込み、ポスターにタッチすることで利用者がポイントを得るような場合、リーダー/ライターモードを活用すれば良いでしょう。
あるいは、利用者同士がOfflineで出会い、Androidスマートフォンを接触させてポイントを交換するような場合、PtoPモードが最適ですね。
NFCを上手く活用し、利用者に手間なくリッチな体験を提供できれば、O2Oサービスの競争力となること間違いなしです。
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