グリーvs.DeNAの釣りゲー訴訟の争点をまとめてみた――「似ている/いない」の判断基準:元コンサル弁護士のIT業界・事件簿(3)(1/2 ページ)
元ITコンサルタントの弁護士が、「法律」という観点から、IT業界で起こるさまざまな事件について解説します。
釣りゲーム訴訟、グリーが逆転敗訴
2012年8月8日に知財高等裁判所は、著作権を侵害されたとしてグリーがディー・エヌ・エー(DeNA)に対して配信差し止めと損害賠償を求めた訴訟について、グリーの訴えを退ける判決を言い渡しました。
今回の訴訟は、DeNAがモバゲータウン(現Mobage)で提供していた携帯電話向け釣りゲーム「釣りゲータウン2」が、グリーが提供する「釣り★スタ」の著作権を侵害するとして、2009年9月にグリーが提訴したものです。
半年前は、状況がまったく違っていました。2012年2月23日には、東京地方裁判所がグリーの訴えを認め、ゲームの配信の差し止めと、2億円以上の損害賠償を命ずる判決が出ていました。ところが今回、特に事実関係が変わったわけでもないのに、結論はまったく逆となってしまいました。
今回は、この裁判を通じて、「ゲーム画面の著作権」について考察します。
「画面が似ている」――事件の概要
グリーは、2007年5月頃から、「釣り★スタ」という携帯電話向け釣りゲームの提供を開始し、DeNAも2009年2月頃から、「釣りゲータウン2」を始めました。メインとなる「魚の引き寄せ画面」は、次のような画面でした。
グリーは、左側の画面の著作権が侵害されたとして、DeNAのゲームの配信の差し止めや、9億円以上の損害賠償を求める訴えを提起しました。
その他、ゲームの画面遷移に関する著作権の問題や、不正競争防止法違反の争点もありましたが、ここでは割愛します。
「著作権侵害」とした、東京地裁の判断
冒頭でも述べたように、東京地裁は、DeNAによる著作権の侵害を認めました。その判断の要点は、魚の引き寄せ画面を描くポイントでした。
- 水面より上、下のどの部分をどの視点から描くか
- 水面下のみを描く場合に、魚の姿をどのように描くか
- 釣り糸に掛ったときから引き上げるまでの間、魚にどのような動きをさせるか
という点において、さまざまな選択肢が考えられると述べ、
- 三重の同心円を書き、
- 釣り針に掛った魚影を黒く描き、
- 魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくした
という点は「グリーの画面の本質的特徴」であり、かつ「DeNAの画面にも維持されている」ということから著作権を侵害する、と判断しました。
これに対し、DeNAは控訴しました。
「著作権侵害はない」とした、知財高裁の判断
ここで逆転劇が起こります。知財高裁では、同様の事実関係であったにもかかわらず、まったく逆の判断をしています。両者の画面の共通点について、
そもそも、釣りゲームにおいて、まず、水中のみを描くことや、水中の画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、(略)他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない
として、著作権侵害を認めませんでした。
何をどうしたら「著作権を侵害する」ことになるのか
このように、同じ事実関係であったにもかかわらず、一方の判決は「著作権を侵害する」とし、もう一方は「侵害しない」と判断しました。
そもそも、「著作権を侵害する」とは、どのような行為をいうのでしょうか?
大まかにいうと、「著作権」は、「複製権」「上映権」「貸与権」「翻案権」などのいろいろな権利が束になって集まったものであり、著作権者は、こうした権利を独占的に有しています。従って、他人が無断で、著作物の「複製」「貸与」などの行為を行えば、例外的に許される場合※を除き、著作権侵害となります。
本件では、著作権の中の一部である「翻案権」が問題となりました。
ポイントは「翻案」かどうか
「翻案」とは、どういう行為なのでしょうか。著作権法には「翻案」の定義はありませんが、最高裁2001年6月28日判決(江差追分事件)では、次のようにまとめられています。
1.既存の著作物に依拠し、かつ
2.その表現上の本質的な特徴を維持しつつ、
3.具体的表現に修正、増減、変更などを加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより、
4.これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう
これだけでは何のことだか分かりにくいのですが、まとめると
- 元の著作物の「本質的な特徴」を維持したまま
- 新たな創作的な表現を追加する行為
といえるでしょう。典型例としては、小説のドラマ化・映画化などが挙げられます。
しかし、この最高裁判決は、上記の部分に続いてこう述べています。
アイデア(略)など表現それ自体でない部分または表現上の創作性がない部分において既存の言語の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の翻案に当たらない
つまり、著作権法は、創作的な「表現」を保護する法律、すなわち「アイデア」を保護する法律であるから、表現に表れない「アイデア」が共通していたり、創作的でない部分が共通していたとしても、それは「翻案」ではない=著作権侵害にならない、ということです。
江差追分事件
ノンフィクション『北の波濤に唄う』の著者が、テレビ番組『ほっかいどうスペシャル・遥かなるユーラシアの歌声-江差追分のルーツを求めて』のプロローグが自著を翻案したものであるとし、NHKに対して損害賠償を請求した事件。東京地裁、東京高裁は著作権侵害を認めたが、2001年6月、最高裁は原告の訴えを退けた。
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