「“ゆとり”って超ヤバイ!」――学校に行くのは週に1、2回だっていい:ゆとり世代が問う「好きなことをやって何が悪い!」(6)
2月17日、Life is Tech ! 主催「Edu×Tech Fes 2013 U-18」が開催された。そこで行われた「驚異のプレゼンテーション」をレポートする。
本連載では、Life is Tech ! が主催するイベント「Edu×Tech Fes 2013 U-18〜驚異のプレゼンテーション〜」をレポートする。Edu×Tech Fes 2013 U-18は、テクノロジーから教育を考え、教育からテクノロジーを考えるイベント。天才中高生が語るゾクゾクする3時間を、全7回の連載でお届けする。
最強のゆとり世代、VJ TKMi氏
「超今っぽい『VJ TKMi』こと、吉田拓巳と申します」
プレゼンテーションは、そんなひと言から始まった。1995年生まれの17歳 VJ TKMi氏は、アーティストであり起業家。彼の生まれた1995年は、ゆとり世代の中でも最初から最後までゆとり教育を受けた「最強のゆとり世代」とされている。
好きな食べものは、きゅうり。TKMi氏は、福岡を拠点に「VJ」としてアーティスト活動を行っている。
VJとは、ビジュアルジョッキー(Visual Jockey)の略。クラブなどで音楽をかけるDJ(ディスクジョッキー、Disk Jockey)の映像版を想像すると分かりやすいだろう。アーティストのライブなどに行くと、舞台のバックで映像がリアルタイムに変化しているのを見かけたことがあるのではないだろうか。それらの映像を操っているのがVJだ。
TKMi氏がVJになったきっかけは、小学4年生のとき。父の知人の結婚式2次会に行ったときのことだ。これまで、パソコンをあまり触ったことがなかった彼だが、2次会で流れたCG映像を見て「自分も映像制作をやってみたい!」と強く思ったという。その後、親に交渉してパソコンを買ってもらい、彼は映像の編集・制作を始めた。
インターネットを通じて徐々に自分の視野や世界観を広げていった彼は、「VJ」というジャンルに出会った。VJは、1、2時間のライブパフォーマンスを行うために、100〜200本ほどの映像素材をあらかじめパソコンに組み込み、それらをリアルタイムで混ぜ合わせたり、音に合わせてエフェクトを加えたりして、1つの演出としてパフォーマンスを行う。
VJを始めたTKMi氏は福岡にあるアップルストアに通い詰め、何か分からないことがあれば、ずうずうしいほど頻繁に「どうしたらいいのか」と聞きに行っていたそうだ。そんなある日、たまたまいた店長と映像の話で盛り上がり、「イベントをやってみよう」という話に発展。店長は彼とのイベントを実現するために本社と掛け合ってくれた。当時、TKMi氏は小学6年生。以来、アップルストア(福岡天神)でのレギュラーイベントを6年近く続けているという。初めは、お客さんが1人もいなかったが、今では毎回200〜300人が集まる。
TKMi氏は、アップルストア以外でもイベントを企画するようになった。例えば、昼間に開催する未成年のための学生クラブイベントや、エナジードリンク「Red Bull」の九州プロモーションなどにも映像パフォーマーとして積極的に関わっている。このような経験を通じて、「行動することの大切さを感じた」とTKMi氏は話す。
15歳のとき、新たなジャンルとして「起業」を選択
TKMi氏はもともと、前に出るタイプの人間ではなかった。しかし、15歳のときに彼は起業した。
「1つのジャンルにとらわれたくない」という想いがあった彼は、ITベンチャー企業を創業。仕事を1つの「ジャンル」として捉え、VJに続く新たなジャンルとして「起業」を選択した。株主の後押しもあり、当時15歳だった彼だが思い立ってから1カ月ほどで会社を設立。驚くべきことに、会社設立当時の彼は「会社を創業したが、特に何もやることは決まっていなかった」と話す。
こうしてTKMi氏は、取りあえず会社を作った。
「今思い付いたアイデアを将来の夢として、『半年後にやります』『いつかやります』と宣言する人は多い。しかし、自分が『将来やりたい』と思うことは、そもそも今の自分の価値観の上にあるものである。やろうと思えば、すぐにできるはず」とTKMi氏は言う。「何かを発想したら、企画書も書かずに勢いでまずは形にしちゃう。それを、ぼくの会社では実践している」(同氏)。
10代のネット疑似選挙「ティーンズオピニオン」
そんな彼が開発した代表的なプロダクトが、「ティーンズオピニオン」だ。
10代のネット疑似選挙「ティーンズオピニオン」は、昨年の衆院選のときに立ち上げた。コンセプトは、「選挙権のない10代の僕らが、ネット上で疑似選挙をやったらどうなるか」。
このアイデアが浮かんだのは、衆院選の公示日(2012年12月4日)のこと。ふとひらめいたアイデアをTwitterに投稿すると、フォロワーの数人から「次の参院選からやるのですか?」というリプライが飛んで来た。しかし、TKMi氏は「やるなら今だ」と行動を起こし、プロジェクトメンバーを10時間ほどで集めた。メンバーは、Twitterでの公募と、知り合いのエンジニア。チームメンバーは全部で7名ほどだったが、熱意と勢いによってわずか5日間で形にしたという。ティーンズオピニオンには、14歳から92歳までと幅広い年代が集まり、政治についての議論が交わされた。
10代によるネット疑似選挙投票結果は以下のとおり。世間で行われた選挙とは異なる結果となった。また、今の政治や国に対する10代の意見がたくさん寄せられた。
「不可能そうなことをやるから、応援してくれる人がいる。ティーンズオピニオンは、時間的制約やリスクがあるものをあえて実現したからこそ、周りの人が注目し、応援してくれたんだと思う。だから、アイデアが浮かんだらすぐに、公開してプロジェクトを進めていく。人間が初めて月に行ったときだってそうだったんだと思う。『絶対ムリじゃん!』ということを皆で『やっちゃおう!』と盛り上がったからこそ、月に行けちゃったのではないか。ぼくは、そういう感覚でモノ作りをしている」(TKMi氏)。
ひとこと言いたい、「“ゆとり”って超ヤバイ!」
「ぼくの活動の軸のすべてには、『根拠のない自信と勢い』がある。人間は、何かを始めようとすると、知らないうちに根拠のない壁をたくさん作ってしまう。例えば、画家になりたいという人が、『私は絵が描けないから』『私にはセンスがないから』というのは、完全に根拠がない壁。だから、ぼくは何かを始めるとき、頭を麻痺させるくらいのスピードでものごとを立ち上げる。根拠のない自信と勢いで、取りあえず何かを作り、何かを発信する」(TKMi氏)。
TKMi氏は現在、通信制の高校に通っている。学校には、週に1、2回くらいしか行っていない。そんな彼が、最後にどうしても伝えたかった言葉がこれだ。
――「“ゆとり”って超ヤバイ」――
世間的には、「ゆとり世代は失敗だ」「ダメだ」とよく言われる。しかし、TKMi氏はこう考えている。「ゆとり教育は、今の時代にすごくマッチした教育方法。ひと昔前のように、『良い大学に入り、大企業に就職すれば一生安泰(あんたい)』という時代はとっくに終わっている。今は、もっとそれぞれが自分の個性を出して、自分を主張して生活をしなければならない。勉強ももちろん大切だが、勉強の時間が少し減っても、その空いた時間を自分の好きなことや興味があるものに費やすことは、すごく良いことなのではないか」(同氏)。
「仕事をしているときに、やりがいを感じることはありますか?」――会場からの質問に対し、最強のゆとり世代 VJ TKMi氏はこう答える。「そもそも今ぼくがやっていることは、自分がめちゃくちゃやりたいと思ってやっている。だから、その仕事をやっていること自体が生きがいであり、それをやれていること自体が幸せ、みたいな感じなんです」
ゆとり教育は、本当の意味での「生きる力」を育てようとしていた教育だったのかもしれない。筆者は、TKMi氏を見ていてそう感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.