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第156回 Intelは1番の能力を持つファブをどう生かすのか?頭脳放談

このところ影が薄くなりつつあるIntel。しかしそのIntelには、ダントツの1番のものがある。新しいCEOとなったブライアン・クルザニッチ氏が率いていた製造部門である。さて、Intelはこの1番をどう生かしていくのか。

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 かなり昔にも一度引用させていただいたことがあった気がするのだが、例の「2番じゃダメなんですか」という言葉がある。発言した御本人の意思を超えて、印象深い言葉は生き残る。いまだにスパコン・ネタのニュースがあると登場する。言ったご本人はもうやめてくれというところだろう。そのうえ、その時々で異なった意味付けやら、解釈がなされていくのだからたまらない。最近では否定的な意味でとらえられる割合が多いあの一言だが、それで歴史に残る政治家となった? のだから、ある意味すごいことである。そしてここでもまた、尻馬に乗って使いまわすこのようなコラムもある。引用させていただいている立場からはその発言に感謝しないといけないかもしれない。

 感謝の言葉はさておき、あのとき「1番」にこだわってあの発言を批判した多くの人々の主張は、「研究開発なんぞ、2番を目指してできるわけない」という1点に集約できるだろう。1番を目指すから、誰もやったことのない新たな工夫が生まれる、というわけである。使う側からしても、1番速いコンピュータを使えば、「そうじゃないほかの人が計算できない現象が計算できる」「見えてくる」「新発見がある」というわけだ。確かにそのとおりではある。2番でよいなどと思えば、先行技術の使い回しかパクリで足りる。まさに二番煎じでよいわけで、新しいものはまず出てこない。新たな一歩は1番のものからしか出てこないというわけだ。一方、1番、1番と言いつつ、この複雑な世の中でたった1個の数字で議論をしていてもよいの? という意見もあったはずだ。このコラムはどちらかというとそっち系だな。その意味するところは、同じ1番でも、応用が利くというか、つぶしの利く1番もあれば、一瞬の額面の数字だけの1番もある、ということだ。それ以上は書かないでおこう。

 いったん、ちょっと話題を変える。Intelを引退したポール・オッテリーニ(元CEO)氏が、インタビューで「iPhoneにIntelのチップが搭載される話があった」、と語って新聞などを賑わせていた。それが実現していたら、Intelのいまの「どうもぱっとしない」状況は変わっていたかもしれない。いまや主戦場となったモバイル分野でも主役を続けられていた可能性もある。

 Appleの話を断ってしまったのは、ひとえにiPhoneの大成功を予見できなかったということに尽きるだろう。後のスマホの市場状況が分かっていたら、目先の損得など棚上げでやっていたに違いない。そういうその時点では小さな決断でも、後々、世界を変えるようなターニング・ポイントを掴めなくなっているのも、Intelがいまや普通の会社になっている証左だろう。昔、IBMがパソコンに参入するときに、それを受注するためにあっという間に8086を8088に改造したIntelである(プリフェッチ・キューを1段潰しただけだから、大した改造? 改悪? ではなかったが)。

 あの時、IBMは大企業とはいえ、パソコンなどというおもちゃのような事業が今のような市場に成長するとは思われていなかった時代だった。そのIBMがようやくまともな16bit OS(OS/2)を作ったのだから32bit機などまだ要らないといっていたときに、32bitの80386を売り出し、あろうことか大旦那IBMより先にIBMの商売ガタキになるはずの互換機のCompaq Computerに売ってしまったIntelでもある。その時はCompaq Computerが巨大な互換機市場をリードするなどとは思われていなかったはずだ(その後、Compaq ComputerはHewlett-Packardに買われてしまったが)。

 しかし、そのIntelには、いまだにダントツの1番がある。それは、Intelの持つ最先端のファブ(半導体製造工場)であり、そこで作ることができる最先端のトランジスタである。Intelの後に続くのは台湾のTSMC、韓国のSamsung Electronics、GLOBALFOUNDRIES(AMDのファブを分社化して発足した会社)といったところだが、Intelのファブは、頭ひとつ抜け出ている。そこで作られるトランジスタは最高だ。確か2013年3月にAlteraのFPGAをインテルのファブで製造するというファウンドリの話が出ていたが、AlteraにしたらライバルXilinxに差をつけることができるインフラを手に入れた思いだろう。

 昨年あたり、小さなベンチャーの冒険的なデバイスをIntelのファブで製造するという話が出たときは、投資先のベンチャーに対するインキュベーション的なサポートかとも思われた(「頭脳放談 第144回 Intelが最先端工場で他社製品の製造を請け負う」参照のこと)。しかし、今回のFPGA大手Alteraの話を聞けば、Intelにして、そのダントツの1番をちゃんとお金にして回収していく道を複数持たねばならないと決意した証拠だ。いままでは、1番のファブで、1番のトランジスタを使うのは自分だけでよかったのだから。iPhoneを断ってしまった話がいまになって悔やまれるわけだ。断っていなければ、いっちゃ悪いがAlteraなどにファブを使わせてやる必要などなかったはずだ。

 最後になってようやく本題である。新しいAtomベースのアーキテクチャのSoC群「Silvermont」が登場してくる(Intelのニュースリリース「インテル、低消費電力、高性能 マイクロアーキテクチャー「Silvermont」を発表」)。当然、最先端のファブの1番のトランジスタを使う。それが悪いものではあるはずがないのだけれど、「どうか?」とあえて「?」を付けておく。トランジスタの性能は1番だが、Atom自体の商売は1番ではないだろう。研究開発では1番のものは1番だが、こと商売に限っては1番のものが1番になるわけではない。それどころか、1番手を観察し、勘所をつかんだ2番手が美味しいところを持っていくというのはよくある話である。Atomがそういう上手な立ち回りを見せるのか、それともしばらくしたら、株主あたりから「2番じゃダメなんですか」などと質問を投げかけられることになるのかは知らない。経営者も変わったことだし……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサを中心とした開発を行っている。


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