DevOpsの本当のカタチとは?:特集:DevOpsで変わる情シスの未来(1)
今やクラウド、ビッグデータに次ぐキーワードになったDevOps。だが、その意義や価値に対する理解はまだ浸透しているとはいえないようだ。なぜ今、DevOpsが必要なのか? その意義と実践のポイントを探る。
企業が生き残る鍵、「DevOps」とは何か?
「DevOps」という言葉が注目を集めている。一言でいえば「開発部門と運用部門が密接に連携しITサービスのリリースサイクルを速める」といった概念だ。昨今、セミナーやイベント、メディアなどでこの言葉が登場する機会が大幅に増えた。
というのも、近年は市場環境変化が速く、時間をかけて製品・サービスを企画・開発し、入念に作り込んでから世に出すウォーターフォール的な開発・提供スタイルでは変化についていけない時代になりつつある。これはそもそも変化が速いWebサービス分野の業態に限らない。BtoB、BtoCを問わず「顧客」が存在するおよそ全ての業態に当てはまる事象といえるだろう。
従って、安定的に収益を伸ばすためには、製品・サービスを迅速にリリースし、市場ニーズをくみ取りながら改善を重ねるアジャイルのアプローチが重要となる。その点、多くの製品・サービスをITシステムが支えている今、開発成果物のリリースサイクルを加速させるDevOpsは、まさしく今後の生き残りの鍵になる概念というわけだ。昨今、注目を集めている背景には、こうした認識の着実な浸透があるのではないだろうか。
ただ、その実践方法となると、この言葉はいまだ曖昧模糊としたイメージに包まれている。DevOpsの実践に当たっては、「スピードが求められる開発部門」「安定性が求められる運用部門」という相反するミッションを持つが故の“壁”をどう解消し、どうリリースサイクルを速めるかという大きな課題がある。この解決策について、開発・運用の現場層、管理層、ツールベンダなど、立場の異なる各プレーヤーがそれぞれの見解を持っている。
例えばChefやPuppetなどによる構成管理の自動化や、CI(継続的インテグレーション)ツールのJenkinsなどによるビルド、テストの自動化などを想起する向きもあれば、テスト環境と本番環境の違いによるソフトウェアの品質担保問題を考える向きもある。明確に切り分けられてきた開発部門と運用部門、それぞれの機能や権限が交錯することによるITガバナンスやセキュリティへの影響を懸念する声も少なくない。日本IBMや日本HP、CA technologiesなど各ツールベンダも、それぞれ異なる考え方に基づいて支援ツールを提供している。
自動化? 文化? コンプライアンス? DevOps実践の鍵とは何か
ただ、DevOpsの実践企業やベンダなどの話を聞いていると、「開発と運用が協力し合える評価制度や文化の醸成」「コミュニケーションロスの回避」「開発・テスト・運用環境の標準化」「リリースプロセスの標準化、自動化」といったDevOps実践の各要件が、おのずと整理された形で見えてくる。そして各プレーヤーとも、フォーカスポイントこそ異なるものの、実はこれら全てをDevOps実現に欠かせない要件と捉え、どう実践に落とし込むかを独自に考えていることが分かってくる。
以前、DevOpsを実践しているサイバーエージェントのアメーバ事業本部 デカグラフ部門 インフラセクション サービスインフラグループの桑野章弘氏を取材した。同氏はDevOps実践のポイントを次のように語った。
「弊社は市場に支持されるサービスを提供することによって収益を得ているわけですから、サービスに問題が起きた際、開発、運用部門が『僕らはここまでやったんだから知らないよ』といったところで何の意味もないんですね。会社としてサービスをきちんと運営するというミッションのために、開発と運用がお互いの業務を見ていく必要があるわけです。〜中略〜 つまりコンプライアンスやガバナンスも含めて考え、会社の文化としてDevOpsという体制を作っていけるかという問題ではないでしょうか。〜中略〜 作業自動化や各種ツールはDevOps に近づくための手段であり、その意義を理解してこそ有効に使うことができるのではないでしょうか」――
作業自動化、品質担保、コンプライアンス、文化など、DevOps実践のポイントは複数ある。ただ最も重要なのは「社業にひも付いた問題」という基本認識を持つことと、全社的な1つのゴールを見据えながら、各ポイントをどのように捉え、いかに自社の実態に即した形で実践に落とし込むかにあるといえるだろう。
では、一定の定義もマニュアルもない中で、一体どうすれば“自社なりのDevOps体制”を整備できるのだろうか? そしてDevOpsは開発・運用スタッフに何をもたらし、情報システムとビジネスをどう変えていくのだろうか?――本特集「DevOpsで変わる情シスの未来」では、この概念を基礎から見直すとともに、実践企業や開発・運用分野のキーマンなど、DevOpsトレンドの最前線を取材。企業や情報システム部門、開発・運用スタッフに対するインパクトを探りつつ、その意義から実践のポイントまでを掘り下げていく。急速に浸透し始めたDevOpsという言葉だが、あらためてそのリアルなカタチを見据えてみてはいかがだろうか。
関連特集:DevOpsで変わる情シスの未来
今やクラウド、ビッグデータに次ぐキーワードになったDevOps。だが前者2つが通過したようにDevOpsも言葉だけが先行している段階にあり、その意義や価値に対する理解はまだ浸透しているとはいえない。ではなぜ今、DevOpsが必要なのか? DevOpsは企業や開発・運用現場に何をもたらすものなのか?――本特集では国内DevOpsトレンドのキーマンにあらゆる角度からインタビュー。DevOpsの基礎から、企業や情シスへのインパクト、実践の課題と今後の可能性までを見渡し、その真のカタチを明らかにする。
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