SI企業が集まってノウハウ共有なんて本当にできるの? PGECの活動から:Database Watch(2013年9月版)(1/2 ページ)
OSSの精神でノウハウ共有なんて、可能? そんな不安から始まったPGEC。現在の状況を聞いた。
企業におけるPostgreSQL利用のノウハウ共有などを目的として設立されたPostgreSQL Enterprise Consortium(以下PGEC、リンク)。いま2年目の活動計画を確定しようとしているところです。あらためてこれまでの経緯から来年度の見通し、また参加企業にもたらされるメリットなどを話していただきました。
協業して情報開示することでお互いに支えられる
日本におけるPostgreSQLユーザー活動といえば、まずは「日本PostgreSQLユーザ会」(JPUG、リンク)が有名です。現在PGECに活動する人のなかにはJPUGからコミュニティ活動に関わってきた人もいます。例えば富士通 プラットフォーム技術本部 プロダクトソリューション技術統括部 OSS技術センター 野山孝太郎さんはある製品がきっかけでJPUGに参加するようになったそうです。その製品とは富士通とSRA OSSと協力した「PowerGres Plus」。こちらはPostgreSQLを企業で安心して使えるように信頼性とセキュリティを強化した製品です。
PostgreSQLの情報収集するにはコミュニティは有効です。とはいえ「ユーザ会」では基本的には個人単位で参加することになります。業務上の理由があるとはいえ「ユーザ会に個人で参加するまでは」とためらう人にとってPGECはいい場となるようです。野山氏は「エンタープライズコンソーシアムだと企業単位で参加する形となるため、(仕事でPostgreSQLに関わる人は)参加しやすくなったと思います」と話しています。オープンソースというコミュニティという有志が育てるソフトウェアですから、これを企業で利用するとき、個人と企業の立場の使い分けというのはなかなか難しいのかもしれません。
企業がPGECに参加するメリットとして考えるとどうでしょう。現状では総じて「企業間で情報を共有したほうがビジネス的にメリットが大きい」という共通認識が参加企業にあるように見えます。
例えば、富士通の関連企業では商用データベースからPostgreSQLへのデータベース移行サービスを提供しています。似たような事情を抱えているIT企業は少なくありません。こうした企業における共通の悩みは「自社リソースだけで検証や作業をするとなると限界がある」です。それならば共存共栄。「PGECを通じて協力し情報を共有できたほうがいい」と富士通の山本氏は話していました。ほかの参加者もおよそ「共通のゴールを持つならノウハウは共有できたほうがいい」と考えているようです。昨年のPGECではOracle DatabaseからPostgreSQLへの移行を検証したWGがありました。参加企業から高い期待と関心があり、次年度も継続することになっています。
PostgreSQLの機能「ストリーミングレプリケーション」もこれに近い背景が基になっています。もともとはNTTが独自に開発して提供する機能でした。しかし自社で所有するとなると、PostgreSQLのバージョンアップに対応するなど保守とノウハウ継承を続けなくてはなりません。そこでNTTからPostgreSQLが本体の機能に盛り込むようにコミュニティに提案し、結果的には本体機能に組み込まれました。
かつてPostgreSQLコアチームの間では「レプリケーション機能はサードベンダにまかせるべきだ」という考えが長らく支持されていました。本体機能が肥大化しすぎてしまうのを防ぐためです。しかし「やはり本体に搭載したほうがいいのでは」という声も増えてきたところ、ちょうどNTTがストリーミングレプリケーションを提案し、その内容が好評だったこともあり、これまでの方針を転換して本体に盛り込まれることになりました。なお、この機能を開発してPostgreSQLのコミュニティに提供したのがNTT OSSセンタ(当時)の藤井雅雄氏です。ベースとなるものはあったものの、スクラッチから作り直しました。最近、PostgreSQLのコミッターとなったそうです。
情報を共有することにメリットがあるのは承知しつつも、PGEC設立準備段階では模索もあったようです。無理もありません。どの企業もそれぞれのビジネスを抱え、なかには競合ベンダとも同席することになるのですから。野山氏は当時を振り返り「腹の探り合いでした」と話していました。
確かにビジネスが絡むとどうしても企業秘密と情報開示の線引きは難しいところです。しかし、オープンにすることのメリットはあります。JPUGでもおなじみのSRA OSSの石井達夫氏は「企業のノウハウは表に出すことで顧客だけではなく他社にもより理解してもらえるようになります。コラボレーションにつながることもるため、こうした活動は貢献で出す労力だけではなく返ってくるもの(メリット)も多いのです」と話していました。
加えて、まだ企業での利用が普及段階にあることも後押しになっているという意見もあります。アシストの高瀬氏は「これから市場を広げていこうとする段階なので、皆がそれぞれの後ろ盾になるように情報をオープンにしているところなのでしょう。裾野を広げれば要求も高まるでしょうし、そこで質を上げるようにしていけば相乗効果もうまれます」とのこと。
言い換えれば社内外への説得に使える信頼性のある情報がほしいということです。NTT OSSセンタ 邊見氏は「社内利用にしても顧客に提供するにしても、まだオープンソースに懐疑的な人もいます。そういうときにPGECやその活動成果を見せれば『これだけ多くの会社が評価しています』『いまではみんな普通に利用しています』と言えば説得力がうまれます」と話していました。みんなで一緒に情報開示すれば、みんなでみんなを支えることにもつながるというわけです。
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