シスコにとってSDNとIoEの最終的な目的は同じ:2014年度事業戦略で明らかになったこと
シスコにとってSDNとInternet of Everythingの最終的な目的は同じだ。どちらもアプリケーションとの連動を通じて、ユーザー組織のビジネスに貢献すること。同社が10月8日に行った新年度事業戦略説明における最大のメッセージはこれだ。
シスコシステムズの日本法人は、10月8日に開催した同社2014年度の事業戦略説明会で、昨年度の取り組みを継続していくことを説明した。だが一方で、顧客のビジネス上の価値を前面に押し出した提案を、さらに具体的なものにする取り組みを示した。
代表執行役員社長の平井康文氏が示した下記の事業戦略に関するスライドは、多くの部分が昨年度と共通しているが、明確な違いがある。昨年度はシスコとしてのビジネスのやり方、あるいは顧客やパートナーに対する働きかけ方に関する項目が並んでいた部分の多くが、「クラウド」「Cisco ONE/SDN」「Internet of Everything(IoE)」といった技術テーマに入れ替わった(ちなみにIoEは、Internet of Thingsを拡大したシスコの用語。人と人、人とモノのつながりも含む)。これは、「顧客のビジネス価値につながるITを提供する」というシスコの従来からの事業的な取り組みと、社内的な製品・技術面での進化、そして市場の変化が同期しつつあることを反映していると解釈できる。
今回の事業戦略説明会で、米シスコシステムズCEOの社長兼COOのゲイリー・ムーア(Gary Moore)氏は、次のように話した。
「私たちはいま、Internet of Everythingの時代に入ろうとしている。人々、データ、プロセス、そしてモノをつなぎ、さらに大きな価値を得られるようになる。これはシスコがこれまで見てきた中で、もっとも大きな市場機会だ。当社が現在対象としている市場は、40億ドルのIT市場の一部だ。一方、Internet of Everythingは14.4兆ドルの市場機会をひらく。すべてのモノがつながり、そのデータをマイニングして使い、追跡できるようになることは、企業の差別化や価値向上という点で、莫大な機会を生み出す。(中略)ネットワークをベースとしたITへの移行は急速に進行している。その中心にシスコは位置している」。
ムーア氏を代弁してさらに続けるなら、「だからといって、シスコはつなげるための機器を売るだけが自社の役割とは考えていない。つながることからますます大きな価値を生み出せる時代に入りつつあるからこそ、『インフラ製品を提供するのに加えて、それをユーザー組織にとっての価値向上に直接使える仕組みを提供する』というこれまでのシスコの取り組みをさらに強化していける」ということになる。
だからこそ、「クラウド」「Cisco ONE/SDN」「IoE」といったキーワードがシスコにとって重要になってくる。これらはすべて、IPネットワーキングをベースとしながらも、ユーザー組織がビジネス観点でこれを生かすことを指向した言葉だからだ。
「シスコが提供しているサーバ機は、ただのサーバ機ではなく、ネットワークと融合したサーバ機だ」(平井氏)。さらに同社は、ネットワーク機器やサーバ機といったハードウェアだけでなく、その上のミドルウェアを中心とするソフトウェアに力を入れている。実際、米シスコが過去12カ月間に買収した19社の大半がソフトウェアだと平井氏はいう。シスコにとってのソフトウェアの大きな役割は、ハードウェアをユーザー組織のビジネスに近づけ、シスコが提供する製品やサービスの価値を高めることだ。
SDNとIoEはアプリケーションへの統合APIに向けた活動
シスコがSDNで出遅れたことは自他ともに認める事実だが、いまやSDNは同社の製品・サービスの価値を高めるために不可欠な要素になろうとしている。
シスコ流のSDNの定義は、「ネットワークをプログラマブルにすること」。その目的は、ネットワークの利用設定の抽象化・自動化に加え、ビジネスアプリケーションとの連動・融合にある。シスコは「Medianet」をはじめとするさまざまな業種別ソリューションで、これまでもビジネスに貢献する、あるいは業務プロセスを改善するネットワークの使い方を提案してきたが、SDNはネットワークとアプリケーションを直接結び付ける接点になる。
「よくいわれているSDNだけでは、アプリケーションから見てアプリケーションは引き続き遠い位置にある。SDNが目指すべき姿とは、アプリケーションとネットワークが一体として機能するような環境を届けること」だと、ネットワーク アーキテクチャ事業統括を担当する専務執行役員の木下剛氏は話した。
シスコのいうIoEも、最終的な目的はSDNと同じだ。あらゆる人と人、人とモノ、モノとモノを結び付けるというだけでなく、結び付けることによって得られるデータや通信チャンネルをビジネスや公益活動に直接生かせるようにすること、つまりアプリケーションから直接使いやすいものにしていくことがポイントになる。
Internet of Everythingに関しては、無線LAN基地局が取得した端末の位置情報をアプリケーションに提供するAPIを、シスコはすでに提供しており、実際に国内でも使われ始めているという。だが、シスコが目指しているのはあらゆるネットワーク/データ指向アプリケーションで使える統合的なAPI群。「1つのプログラムを書けば、ネットワーク、ストレージ、コンピュート(すなわちサーバ)のすべてがオーケストレーションされる世界が理想。そのために、データセンター、キャリア、キャンパスのどのプラットフォーム上でも統一したAPIを届けるのがわれわれの使命だと考えている」(木下氏)。
そのための同社の取り組みがCisco ONEであり、最終的にはシスコ以外の製品を含めてあらゆる機器をカバーするとともに、「SDN用」「IoT(IoE)用」など特定の用途に限定されない、アプリケーションのための単一のAPI群を提供するという。
シスコは通信事業者がこうしたAPIを使い、付加価値サービスを提供するためのハードウェアプラットフォームである「Cisco Network Convergence System(NCS)」を9月に発表、事業戦略発表会の場でこれを紹介した。つまりハードウェア側の準備は一通りそろったわけで、次の段階である上記の統合APIは、2014会計年度内に提供すると木下氏は話した。
コラボレーション、ワークスタイル変革では啓蒙を続ける
シスコのもう1つの事業の柱であるコラボレーション関連では、昨年度に同社のビデオ会議製品が広島銀行の全本支店に導入されたほか、2桁の地銀で採用されたと平井氏は説明した。SMBC日興証券は、同社のプレゼンス管理ソフトウェア「Cisco Jabber」を全社的に導入したという。柔軟な働き方の実現では、テレワークの活用に関する啓蒙活動を行っているが、このテーマで重要なのは文化や価値観の共有、日常の勤務管理などの人間的な側面であるため、シスコのノウハウの一部をユーザー企業に提供するなどの取り組みを進めていると平井氏は話した。
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