スルー防止も? BLEがもたらすビジネスチャンス:ものになるモノ、ならないモノ(53)(1/2 ページ)
最近、Bluetooth Low Energy(BLE)に関するニュースを目にする機会が多くなった。この新しいスキームを利用した、さまざまなサービスの可能性について考えてみたい。
最近、Bluetooth Low Energy(BLE)に関するニュースを目にする機会が多くなった。AppleがiOS7のフレームワークにおいて、BLEを利用して位置情報の取得や端末特定を行い、個別の情報をやりとりする仕組みを実装したことがきっかけで、この新しいスキームを利用した、さまざまなサービスの可能性が取り沙汰されているからだろう。Appleは、プログラミングガイドの中でこの技術を総称して「iBeacons」と呼んでいる。
メジャーリーグは、2014年シーズンから球場に「iBeacons」を導入し、座席や施設案内、割引クーポンの配布などを予定しているというし、estimoteというベンチャー企業が「Estimote Beacon」というiBeaconsに対応したデバイスを発表、実際の利用シーンを想定したシミュレーション動画が話題になった。
ちなみに、iBeaconsとは別技術だが、PayPalは「PayPal Beacon」というBLEベースの非接触の決済技術を開発している。
これらの話題からも分かるように、BLEを活用したiBeaconsやPayPal Beaconがここに来て注目されているのは、「デバイスとデバイスを無線でつなぐ」というBluetoothではおなじみの利用方法ではなく、「みんなが持っているスマホで使えるわけだから、それに向けてインフラ的なシカケを提供して儲けてやろう」と考える人が表舞台に出てきたということだろう。
というわけで今回は、話題のBLEについて、どのような無線技術なのかを再確認すると同時に、近い将来、お店や町中でBLEインフラをベースにした便利なサービスが飛び交う時代が到来し、設置店舗とベンダは売り上げ増でウハウハ、そしてユーザーは便利になって大満足と、三者が皆ハッピーになるのかどうかを考えてみたい。
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iPhone 4S以降なら利用可能、Androidは4.3から対応
Bluetoothについては、今さら説明の必要はないだろう。免許なしで自由に使うことのできる2.4GHz帯の電波を利用した近距離無線技術であり、ワイヤレスのマウス、キーボード、イヤフォン、自動車などのハンズフリー機能など、デバイス同士を接続する技術として普及し対応デバイスは身の回りに多い。
Bluetoothのバージョン1.0が策定されたのが1999年。それからバージョンアップを重ね、2009年末に公開されたバージョン4.0が最新版だ。
この4.0から、大幅な省電力化を実現するBLEに対応したことで、パソコン周辺機器やヘッドセットが中心だったBluetoothの世界に、従来とは異なる性質のデバイスが登場するようになった。例えば、フィットネス系のセンサーなどはその典型だ。
BLEの登場以後、Bluetooth界隈の人は、従来のBluetoothを「クラシック」と呼んで明確に区別している。実際、クラシックとBLEとの間には互換性はない。そういった意味でもBLEは、Bluetooth技術が新たなステージに入ったことを意味する。
ただ、クラシックが消えてなくなるのかというとそんなことはなく、適材適所で共存する。「4.0」を搭載したデバイスは、BLEやクラシックへの対応の有無を明確にする目的で、次の愛称が定められている。
名称 | 内容 |
---|---|
【Bluetooth SMART】 | BLEでのみ通信可能で、クラシックとの通信はできない。 |
【Bluetooth SMART READY】 | BLEとクラシックの両方の通信に対応。 |
スマートフォンの対応状況を見てみると、iPhone 4S(iOS5以上)以降、Samsung Galaxy Nexus、Galaxy SIII、Galaxy S4などがBluetooth SMART READYに対応している。ただしAndroidの場合、OSレベルでのネイティブ対応はAndroid 4.3以降となる。
実質10Kbps程度と超低速だがボタン電池1個で約1年
クラシックとBLEの技術的な違いを、ワイヤレステクノロジー代表取締役の森山正吾氏に聞いた。ワイヤレステクノロジーは、その前身であるワイヤレスソリューションセンターの時代からBluetooth開発のスペシャリストとして知られている会社だ。
BLEがBLEたる理由は実に単純で、データ転送速度を犠牲にすることで、エネルギーの消耗を抑えている。利用方法や使用するBluetoothチップにもよるが、これが、コイン電池で約1〜3年持つという省電力性の理由だ。
スペック上は最大通信速度が1Mbpsと謳われているが、「実質10kbps程度と圧倒的に遅い」(森山氏)そうだ。Bluetoothは、79のチャンネルを常に切り替えながら通信することで干渉を防いでいるが、「BLEはその数を減らし、特定の3チャンネルだけをスキャンしていれば接続相手の情報が飛んでくる、という作りになっている」(森山氏)という。
そのため、ペアリングもクラシックと比較して高速に行える。Bluetooth SMART READYでは、クラシックとBLEの両方に対応しているが、「BLEと通信する場合は、省電力モードになるので、電力消費は少なくてすむ」(森山氏)というから、電池の消耗が気になるスマートフォンユーザーでも安心だ。
早い段階からBluetooth SMART READYに対応していたiPhoneだが、「Appleは、Bluetooth SIGのボードメンバーとなるなど、BLEを積極的に推進しているように見える。実際iOSにおいても、BLE周りの仕様の開示を早期から行っていた」(森山氏)という。Appleからすると、シェアの高いiOSの強みを生かし、BLEデバイスを利用したサービスやiBeaconsインフラが町中にたくさん出現すればiOS端末の販売に好循環が生まれる、という目論みがあるのだろう。
iBeaconsの普及は店舗が儲かる仕組みを構築できるか否か
では、近い将来、BLEのアクセスポイントのようなものが店舗などに設置され、iBeaconsやPayPal Beaconといったマイクロロケーション技術により、町を歩けば、お店のセール情報やクーポンがiPhoneの画面に通知され、レジに行かなくてもiPhone上で決済できる……そんな時代がやってくるのだろうか。
その可能性は大いにあると思うし、そうなってほしい。特に、メジャーリーグが実施するような情報通知系の活用方法には期待が持てる。普段はその存在を意識していなくても、近くに来たら「通知」でその存在を知らせてくれるというのは、とても有効な使い方だ。実は、筆者はそれで苦い経験をしている。
筆者のプロデュースする「東京今昔散歩」というアプリは、アプリ内で紹介する撮影ポイントで、古写真と自分の写真を並べて撮影することができる点がウリだ。そして、その写真をTwitterに投稿できる。アプリ開発側としてはTwitterによる拡散効果を期待した。
だが、アプリのユーザーは、その撮影ポイント近くを通りかかってもアプリの存在を忘れている。だから誰も撮影し、拡散してくれない。正直な話、プロデューサーである筆者自身も忘れて通り過ぎ、後からしまったと気づくことが多い。
このようなときに、アプリを起動していなくても、撮影ポイントが近くにあることを「通知」で知らせてくれたらとても有用だ。「東京今昔散歩」の場合は、広域をカバーする解決策が求められ、iBeaconsとは別次元の話にはなるのだが、「存在を意識していなくても、近くに来たら通知してくれる」という点では、考え方は同じ。
この「通知」の仕組みを巧みに使えば、店舗からの情報を顧客に向かってプッシュし、「気づき」を引き出し、集客・送客につなげることができるだろう。ただし、それをビジネスとして成功させ、普及を実現するためには、人々のエモーショナルな部分に訴えかける決定打となるものがないとだめだと思う。具体的にいうと、BLEインフラの設置者に儲かる仕組みを作って提示してあげないと、普及はおぼつかないということだ。
このような極狭いエリアでの情報のやりとりを行うためのインフラを導入し、サービスを提供するのは、大きくてもショッピングモール規模、通常は、どこにでもある小規模なお店が中心になるだろう。そのような店舗にとって、マーケティングを行うためのツール導入の判断材料は「いかに集客に結びつくか」であり、「売り上げがどれだけ上がるか」なのだ。
BLEを利用したiBeaconsやPayPal Beaconがどれほど優れたテクノロジであって、それがユーザーにとって便利なものであっても、それを導入する店舗側に金銭的なメリットが明確な形でもたらされない限りは、いかなる興味も示さないだろう。
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