第2回 無償版GmailとGoogle Apps for Businessの違いを知る:Windowsシステム管理者のためのGoogle Apps入門(1/2 ページ)
無償版Gmailをビジネスに活用しているユーザーは珍しくない。では有償のGoogle Apps for Businessの価値はどこにあるのか? 両者の違いを企業のシステム管理者の視点で解説する。
すでに多くの読者がGmailを利用されているだろう。現在も世界中でGmailのユーザーは増え続けている。ウィキペディアによると、その数は2012年6月時点で4億2500万人にも上り、世界最大のメール・サービスであると説明されている。実際の利用シナリオも多岐にわたり、無償版Gmailであっても個人ユーザーだけでなく小規模な企業ではビジネス用途として利用されていることすら珍しくないのが現状だ。
第2回となる今回は、第1回でも少しだけ取り上げた無償版Gmail*1と有償のGoogle Apps for Businessの違いに焦点を絞り、さまざまな角度から比較することで無償版Gmailがもたらす価値とGoogle Apps for Businessがもたらすさらなる価値について見ていきたい。
*1 本連載では、無償版の各種Googleのサービス(カレンダーやGoogleドライブなど)をまとめて「無償版Gmail」と呼ぶ。
無償版Gmailがもたらす価値
Google Apps for BusinessにGmail、カレンダー、Googleドライブ、Googleサイト、ハングアウトなど各種サービスが提供されているように、無償版Gmailにも同種のサービスが提供されている。こうした単純な機能の有無だけを見ると無償版Gmailでも十分にビジネス利用ができるように思えてしまうが、その答えはイエスでもありノーでもある。
まずは無償版Gmailで使うことができるGmail、カレンダー、Googleドライブ、サイト、ハングアウトの機能と活用シナリオについて、ビジネス視点で解説する。
ビジネス用途で使う無償版Gmailの機能と活用シナリオ
実は、無償版Gmailは設定こそ手間がかかるものの、無償版Gmail同士でかなりの連携ができるようになっている。ここでは、無償版Gmailをビジネスで活用するとどのようなことができるのかについて見ていきたい。
●無償版Gmailの活用法(1): メール
メールをビジネス用途で利用する場合、ユーザー独自のドメイン名を使ったメール・アドレスに対する要求は非常に高い。一定規模以上の企業であればほぼ確実に独自ドメインを利用しているし、小規模でも起業していれば独自ドメインを保有したいというニーズがあるからだ。
もし現在、独自ドメインのメール・アドレスを持っており、そのメール・システムがPOPでも利用できるのであれば、無償版GmailのMail Fetcherという機能を利用することで、その独自ドメインのメールをGmail内で受信できる。また送信元を「偽装」させることで、「〜@gmail.com」ではないメール・アドレスからのメール送信も可能である。これらの機能により、一見、無償版Gmailで独自ドメインのメール環境を利用しているように装うことができるのだ。この仕組みについては「モバイル全盛時代のメール環境にGmailが適しているワケ」でも取り上げられているので興味のある読者は参照していただきたい。
別のメール・システムのメールを送受信している無償版Gmailのメール画面
無償版GmailのPOPによるメール受信とSMTPによるメール送信にそれぞれ特別な設定をすることで、無償版Gmailの画面から別のメール・システムのメールを送受信できる。これにより独自ドメインで利用しているように見せかけることができる。
(1)独自ドメインのメール・アドレス宛のメールを受信したところ。
(2)独自ドメインのメール・アドレスからメールを送信するところ。
以下、そのメリットとデメリットを整理しておく。
<メリット>
- Gmailユーザーにとっては使い慣れた環境で独自ドメインのメールを送受信できるほか、Gmailが持つ高品質なメールの検索機能などのメリットを享受できる
- スマートフォンやタブレットなど、Gmailが持つマルチ・デバイス対応のメリットを享受できる
<デメリット>
- 独自ドメインで運用しているメール・システムは別途、継続して必要となる
- GmailからPOPでメールを取得する間隔は自動的に決まり、ユーザーに制御できないため、受信に大きな遅延が発生することも多い
●無償版Gmailの活用法(2): カレンダー
無償版Gmailを使っているユーザーは、カレンダー機能もよく利用している。その理由の1つとして、PCやスマートフォン、タブレットなど何らかのデバイスでカレンダーに予定を登録すると、どのデバイスからもその予定が閲覧・修正できることが挙げられる。1人で複数台の端末を利用するマルチ・デバイス時代にはうってつけの予定管理機能といえる。
無償版とはいえクラウド・サービスに変わりはないため、PCやスマートフォンなどマルチ・デバイスでどこからでも、自分のカレンダーや共有されている他人のカレンダーを確認できる。
無償版Gmailのカレンダーは個別の共有設定さえすれば、ほかの無償版GmailユーザーやGoogle Apps for Businessのユーザーと予定を共有できる。
無償版Gmailユーザー同士とGoogle Appsユーザーの3者間で予定を共有
無償版Gmailユーザーは他の無償版Gmailユーザーとはもちろん、Google Appsユーザーとも相互に予定を共有できる。
(1)無償版Gmailユーザーのカレンダー。
(2)別の無償版Gmailユーザーと予定を共有したカレンダー。予定が増えていることが分かる。
(3)さらに別のGoogle Appsユーザーとも共有したカレンダー。
●無償版Gmailの活用法(3): Googleドライブ
ファイル・サーバの代わりにDropboxやSkyDriveを利用しているユーザーにとっては、Googleドライブも魅力的な機能といえる。その理由は、Googleドライブには「Googleドキュメント」という機能があり、Microsoft OfficeのWord、Excel、PowerPointに相当するオフィス・ドキュメントをWebブラウザのみで作成できるからだ。しかも、Googleドキュメントで作成されたものはGoogleドライブ内では使用容量としてカウントされないため、無制限に保管できる。また、無償版Gmailユーザー同士やGoogle Apps for Businessユーザーとの間で、作成したドキュメントを非常に簡単に共有したり、最大50人で同時に1つのファイルを共同編集したりすることも可能だ。
Googleドキュメントの共同編集
これはGoogleスプレッド・シートの例。Googleドキュメントは、無償版Gmailユーザー同士やGoogle Appsユーザーと最大50人まで同時編集で資料を作成できる。
(1)無償版Gmailユーザーによって編集されたセル。
(2)Google Appsユーザーによって編集されたセル。
また、Googleドライブではドキュメントのビューア機能も充実しており、Microsoft OfficeやAdobe Illustrator、Adobe Photoshop、AutoCADなどで作成したファイルも、Googleドライブにアップロードするだけでファイルの内容を閲覧できる。その際、もちろんPCにはそれらのソフトウェアをインストールしておく必要はないし、スマートフォンやタブレットなどPC以外の端末からでも閲覧できる。対応しているファイル形式の詳細は次のWebページを参照していただきたい。
- Google ドライブ ビューアについて(グーグル)
ファイルをGoogleドライブにアップロードするだけで専用ソフトウェアを利用することなく、さまざまな形式のファイルを閲覧できる。
(1)Googleドライブに格納されたAdobe IllustratorのAI形式ファイルを開いて表示させたところ。
●無償版Gmailの活用法(4): Googleサイト
組織内のイントラネット・ポータルやプロジェクトごとに必要な情報をまとめたプロジェクト・ポータルなど、ビジネスではポータル・サイトを活用することも多い。無償版Gmailでは、「Googleサイト」と呼ばれるWebサイト作成機能を利用してポータルを作成し、情報の発信・共有に利用することも可能だ。
Googleサイトでは、あらかじめ用意されたテンプレートにより掲示板など最低限必要なものは選択するだけでポータルに利用できる。また、Googleドライブ上のファイルやYouTubeの動画なども簡単な操作でポータルに組み込める。このようにHTMLやCSSなどの専門的な知識がなくても簡単に利用できる点がGoogleサイトの大きな特長といえる。
カレンダーと同様に、個別の共有設定さえすれば、ほかの無償版GmailユーザーやGoogle Apps for BusinessのユーザーとGoogleサイトを共有できる。
●無償版Gmailの活用法(5): ハングアウト
インターネットの普及に伴い、従来よりビジネス・エリアが広がりつつある。例えば東京を中心に活動している中小企業や個人事業主であっても、北海道や九州などの遠方の企業とビジネスをする機会は確実に増えているし、そもそも日本という枠を超えて海外とグローバルなビジネス展開をしている企業は決して少なくない。国際電話や専用のビデオ会議システムも、昔と比べればずいぶん安くなったし導入も比較的簡単になってきたとはいえ、決して安い投資ではないことも事実である。
無償版Gmailでは、そんな悩みを簡単に解決してくれる「ハングアウト」という機能が提供されており、最大10カ所までという制限はあるものの、Webブラウザのみで無償版GmailユーザーやGoogle Apps for Businessユーザーとビデオ会議ができる。
ハングアウトによるビデオ会議
無償版GmailユーザーはGoogle+にアカウント登録することで最大10カ所とのビデオ会議ができる。
(1)一見するとローカルで表計算シートを開いているように見えるが、実はこの画面全体がハングアウトでほかのユーザーと共有されている。
(2)ビデオ会議に参加しているユーザー。
インターネットを通じた簡易的なオンライン会議とはいえ、各種Googleサービスと連携できるので、Googleドキュメントで作成した資料を共同編集しながら会議ができる。また、スマートフォンやタブレットから無償のハングアウト・アプリケーション(Android版とiOS版がそれぞれに提供されている)を通じて、どこからでも会議に参加が可能だ。
ビジネス用途としては不足している代表的な無償版Gmailの機能
次に、無償版Gmailをビジネス用途で利用するにはどうしても考慮が必要な事項について説明する。
●無償版Gmailに不足しているもの(1): 管理機能
WindowsにはActive Directoryのグループ・ポリシーやExchange Serverのトランスポート・ルールのように、組織の中での利用を想定した管理機能がある。しかし、無償版Gmailはあくまで個人ユーザーがサービス対象の主体であるため、管理するための機能が存在しない。
そのため、無償版Gmailユーザー同士が情報の共有を行いたい場合は、個々のユーザーに対してそれぞれが共有設定をする必要がある。また、メールやカレンダー、ハングアウトで利用する宛先の管理についても、個々人がそれぞれ連絡先として登録をしなければならないなど、運用環境が非常に煩雑化してしまう。そのため中規模以上の企業のように、組織レベルのアドレス帳を整備していて、かつ必要な人材を常に探しながらビジネスを遂行している場合、無償版Gmailの組織的な運用は難しいといわざるを得ない。
無償版Gmailユーザー同士のカレンダーの共有手順
無償版Gmailユーザー同士がカレンダーの共有をする場合は、共有をリクエストする側がメールを通じて相手にリクエストを送り、相手に承諾してもらう必要がある。
●無償版Gmailに不足しているもの(2): セキュリティ
前述の管理性にも関連するが、無償版Gmailはセキュリティ対策を徹底する方法がない。例えば、ユーザーが意図的ではなかったとしても、社外秘の情報を社外に出せてしまったり、インターネット上への公開設定が有効になったまま社内の情報がやりとりされていたり、といったリスクが常につきまとう。
そのほか、インターネットからアクセス可能という利便性とリスクが天秤にかけられた状態であるのに、ワンタイム・パスワードなどを利用した2段階認証を徹底したくても強制することはできない。そのため、スマートフォン自体のパスワード設定がされていないAndroidやiPhone上でGmailアプリケーションやGoogleドライブ・アプリケーションを利用した社内情報のやりとりもできてしまい、紛失や盗難の際にはGmailでのやりとり内容やGoogleドライブ上のドキュメントが閲覧されてしまう可能性もある。
Google Apps for Businessの2段階認証プロセスの登録レポート
Google Apps for Businessには個々のユーザーが2段階認証を利用してセキュリティ・レベルを高めているかどうかを管理者側で確認するためのレポーティング機能がある。これはそのレポートをExcelで開いたところ。
(1)「FALSE」すなわち2段階認証をまだ利用していないユーザーが残っていることが分かる。
数名という規模で、しかもITリテラシーの高いスタッフだけで運用するなら、無償版Gmailでも操作ミスにより機密情報を漏えいするリスクは低くなり、ビジネス用途に使えると考えることも可能だ。逆にこの条件を満たさない環境では、セキュリティ面でも無償版Gmailの運用は難しいといえる。
●無償版Gmailに不足しているもの(3): サポート
無償版Gmailには問い合わせ窓口が存在しない。通常、ビジネスで使用するシステムは障害やトラブルを想定して最低限のサポートを用意するものだが、無償版Gmailは無償であるがゆえ、そのような環境を準備できない。
そして稼働率も保証されていない。無償版Gmailはこれまで大きな障害により数日間ずっと使えないという事態はなかったものの、障害が起こらないことをグーグルが保証しているわけではない。考えようによってはビジネス継続性という観点でリスクとなり得る。
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