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「Google Car」が勝つかどうかにかかわらず、自動車産業は変質する「デジタル化」の意味

グーグルが完全な自律走行車の実用化を目指して、開発・検証、ロビー活動を進めているのは周知の事実だ。グーグルといえども既存の自動車メーカーに、従来の意味合いで容易に「勝つ」とは想定しにくい。それでも、既存の自動車メーカーには、「グーグル対策」を自社の将来と重ね合わせて考えなければならない理由がある。

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 ガートナー・アナリストのマーク・ラスキーノ(Mark Raskino)氏は、自動車メーカーが自動運転技術をアピールせざるを得なくなったのは、グーグルが実用化に向けて着々と準備を進めているからだと話す。だが、グーグルが自律走行車で成功するのか、あるいは既存の自動車メーカーを打ち負かし、勝者になるのかについては、多様な立場の人々がいろいろな意見を示している段階で、議論が収束する気配はない。

 もともと、自律走行車開発への取り組みで、グーグルが何を達成しようとしているのか、何で利益を獲得したいのかが、グーグル以外の誰にも分からない。例えばグーグルは、いずれかの自動車メーカーを買収して自らが自動車産業の一員になるのか、それとも自動車メーカーに技術をライセンス提供することで利益を挙げるつもりなのか。もちろん、Androidの場合のように、技術のライセンス料を安価に抑えることで自律走行車を普及させ、自社のコンテンツやサービスを多数の「ドライバー」や同乗者が車内で利用できるようにして、広告その他の売り上げを増やそうという考えなのかもしれない。あるいはグーグル自体も、何で儲けるかをまだはっきりとは決めていないのかもしれない。従って、グーグルが何を達成すれば「成功」といえるのかがあいまいなまま、議論されている。

 グーグル成功論を唱えるチュンカ・ムイ(Chunka Mui)氏は、Forbes電子版に投稿した長文の連載記事で、次のような成功要因を挙げている

グーグルは「大きく考えて」いる。既存自動車メーカーのように、これが段階的に進むものとは考えていない。グーグルは完全な自律走行車が、人の運転する自動車にとって代わる世界を描いている。コダックや(書店チェーンの)ボーダーズで分かるように、変化を過小評価する企業は滅びる

グーグルは「小さく始めて」いる。同社の自動走行車プロジェクトは12人のエンジニアによって進められており、研究開発に費やしたのは5000万ドル程度にすぎない。グーグルは大きく考えながら小さく始めているため、失敗しにくい。

グーグルは急速に学習している。机上の空論ではなく、収益化を急ぐわけでもなく、実験を繰り返すことで学んでいる。大きく考えられない既存の自動車メーカーは、素早く学ぶことができない。

 ムイ氏はこれらを踏まえ、物事を大きく考えて、収益化を急ぐことなく急速にテクノロジを進化させることにより、後にさまざまなキラー・アプリケーションを生み出せる大きな余地を作れる、そうなればグーグルは、自社に一番適した需要を作り出すこともできると同氏は主張する。

 上記のムイ氏の主張は、いまひとつ決め手に欠けているようにも思えるが、確実にいえることはある。自動運転が、ドライバーをアシストする機能にとどまらず、完全な自律走行車に進化するのであれば、これは既存の主要自動車メーカーにとって大きな打撃だ。完全自律運転は、クルマというモノの利用効率を大きく高める。レンタカーの利用が広がる一方、自動車を購入する人が減り、自動車市場が大きく収縮する可能性があるからだ。


IT INSIDER No.22「あなたのビジネスは『Google』に侵食されようとしている」では、企業がグーグルのような企業に侵食されるのを防ぐ必要性について、ラスキーノ氏が語った部分をお届けします

 従って、既存の自動車メーカーがグーグルに優るとも劣らない自律走行技術を有していたとしても、法律や保険などの問題をグーグルがクリアするのを横目で見ながら、これらのメーカーは事態を静観することになるかもしれない。これらメーカーの追随が遅れるほど、グーグルは(特定のメーカーを買収するなり提携して)、完全自律走行車を使ったさまざまなビジネスを展開することになる。グーグルがGoogle Venturesを通じて出資している「ソーシャル・タクシー配車サービス」のUberも、これを契機に急速に成長する可能性が高い。

既存の自動車メーカーが完全自律走行車を販売し始めた後にどうなるかは分からない。だが、少なくともグーグルはそうなるまでの「時間差」を生かして多様な事業を行える。

 グーグルが既存自動車メーカーに勝つかどうかより大きな問題がある。完全自律走行車が普及した後の自動車市場は、現在とは大きく異なるものになってしまう。自動車産業のゲームのルールが変わってしまい、後戻りができなくなってしまう可能性がある。

 自動車産業に限らず、あらゆる産業がデジタル化の影響を受けるようになると主張する、ガートナー・アナリストのマーク・ラスキーノ氏インタビューの後編を、「あなたのビジネスは『Google』に侵食されようとしている」にまとめました。前編の「CEOに伝えたい、『全産業デジタル化』の真のインパクト」とともにお読みください。

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