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第4回 クラスタリングとライセンス・コストを考慮した全体設計Windows Server 2012 R2時代のHyper-Vサーバ設計術(4/4 ページ)

Windows Server OSのHyper-Vの性能を最大限に引き出すための仮想化システム設計ガイドの最終回。今回は次世代の高速インターフェイスとして普及が見込まれるInfiniBandと、冗長化のためのクラスタリング手法、ミドルウェアのライセンス・コストを削減するためのクラスタ設計手法についてまとめておく。

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スケールアップとスケールアウト、どちらがよいか?

 連載第1回ではプロセッサやメモリのサイジング方法について解説した。「サーバ集約率はプロセッサの”物理コア数に比例する」と結論付けたものの、実際にHyper-Vホストとなるサーバのモデルを選ぼうとカタログを眺めると、1つの疑問が沸いてくる。

 「CPUがたくさん載る大型サーバにするのはどうだろうか?」

 仮想化向けのx86サーバというと、プロセッサ・ソケットが2つ搭載された1Uや2Uサイズのサーバが代表的だ。しかし、各社のカタログの後ろの方にはプロセッサ・ソケットを4個搭載しているものや、8個搭載して「最大80コア」などというサーバもある。小型のサーバを多く並べる「スケールアウト型」と、少数の大型サーバを運用する「スケールアップ型」はどちらがよいだろうか?

 実際のところは要件や構成次第であるが、検討すべきポイントをいくつか挙げてみよう。

■Xeon EN(E5-2400系)プロセッサ
・プロセッサ搭載数:最大2個
・メモリ・スロット数:最大12スロット
・製品例「HP ProLiant DL360e Gen8(1Uサイズ)

HP ProLiant DL360e Gen8(1Uサイズ)

■Xeon EP(E5-2600系)プロセッサ
・プロセッサ搭載数:最大2個
・メモリ・スロット数:最大24スロット
・製品例「HP ProLiant DL360p Gen8(1Uサイズ)

HP ProLiant DL360p Gen8(1Uサイズ)

■Xeon EP(E5-4600系)プロセッサ
・プロセッサ搭載数:最大4個
・メモリ・スロット数:最大48ロット
・製品例「HP ProLiant DL560 Gen8(2Uサイズ)

HP ProLiant DL560 Gen8(2Uサイズ)

■Xeon EX(E7-4800系)プロセッサ
・プロセッサ搭載数:最大4個
・メモリ・スロット数:最大64スロット
・製品例「HP ProLiant DL580 G7(4Uサイズ)

HP ProLiant DL580 G7(4Uサイズ)

■Xeon EX(E7-4800系)プロセッサ
・プロセッサ搭載数:最大8個
・メモリ・スロット数:最大128スロット
・製品例「HP ProLiant DL980 G7(8Uサイズ)

HP ProLiant DL980 G7(8Uサイズ)
図10「Intelプロセッサのプロダクトラインと対応サーバの例」
現在主流のIntel Xeonシリーズのプロセッサと、それを使ったサーバの例(HP ProLiant DLの場合)。仮想化ホスト用のサーバとしては「Xeon EP」が広く用いられるが、そのXeon EPでも1Uサイズの「DL360p Gen8」と、プロセッサ搭載数/メモリ・スロット数/サイズがすべて2倍になった「DL560 Gen8」がある。前者で2倍の台数にするか、後者で台数を減らすか悩ましいところだ。

●プロセッサの特性

 図2にある「Xeon EP」と「Xeon EX」を見比べてみよう。EPにはXeon E5というプロセッサが、EXにはXeon E7というプロセッサが利用される。数字の大きなE7がミッション・クリティカル向けの上位モデルであり、機能面や拡張面で優位性がある。

 機能面としてはプロセッサ内部のエラー訂正を行うMCA(Machine Check Architecture)リカバリや、メモリ上のエラー訂正を行うDDDC(Double Device Data Correction)といったRAS(信頼性・可用性・保守性)周りの機能強化が中心であり、障害発生率が低減されている。

 拡張面では、搭載可能なメモリ・スロット数が2倍と多く、テラバイト・クラスの容量を用意したり、容量の少ないDIMMを大量に並べて大きな容量を作り出すことが可能だ。

 性能面については互角である。一般的にEXの方がプロセッサあたりのコア数が多い半面、1コアあたりの性能はEPの方が高い傾向があるためだ。プロセッサ単価だけを見たコストパフォーマンスについては、EPに分がある。

●フェイルオーバーの影響範囲

 サーバの冗長化も考える場合、1つのクラスタに対して物理サーバを1台余分に用意する「N+1構成」を取るだろう。この場合、スケールアウト型の方が有利である。

 これは、1ホストあたりの集約率が少なく、ダウンしても影響範囲が狭いためだ。スケールアップ型にすると1ホストあたりの集約率が高いために、そのホストがダウンしてしまうと、それだけ多くの仮想マシンがダウンすることになる。フェイルオーバーも長くなってしまうだろう(図11)。

 ただし、前述のように大型サーバにはRAS機能が強化されているEXプロセッサが採用されているため、障害発生率は低い。

図11「スケールアップとスケールアウト(フェイルオーバーの影響範囲)」
図11「スケールアップとスケールアウト(フェイルオーバーの影響範囲)」
大型サーバはより多くの仮想マシンを集約するため、万一ダウンしてしまうとそれだけ影響が大きい。ほかのホストへのフェイルオーバーが完了し、復旧するまでの時間も長くなってしまうだろう。ただし大型サーバは障害発生率が低いことも考慮に含める必要がある。

 なお、Windows Server 2012以降のHyper-Vでは、サーバダウンなどで大量の仮想マシンが同時にフェイルオーバーする場合は、重要な仮想マシンがいち早く復旧されるよう、仮想マシンごとに再起動優先度を調整できる(図12)。

図12「仮想マシンのフェイルオーバー優先順位」
図12「仮想マシンのフェイルオーバー優先順位」
Windows Server 2012以降のHyper-Vでは、大量の仮想マシンが同時にフェイルオーバーすることになった場合に、重要な仮想マシンをいち早く復旧させることが可能となった。
  (1)優先度を指定する。

●ライセンス・コストの削減

 逆に、スケールアップ型を採用する利点の1つはサーバ台数だ。管理者の視点からすれば、運用していかなければならない物理サーバの数は少ないに越したことはないだろう。

 また、意外に思えるかもしれないが、サーバ単体からシステム全体にまで視野を広げると、スケールアップ型の方が総合的に安くなるかもしれない。

 この理由はライセンス・コストだ。バックアップ・ソフトウェアなど、一部のサードパーティ製のパッケージ・ソフトウェアでは「物理サーバ数」で課金しているものがある。小型機で集約率が悪かろうが、大型機で大量に集約できようが、1ホストは1ホストなのだ。このような場合、物理サーバの台数が少ないスケールアップ型の方がライセンス・コストを削減できる。

図13「スケールアップ型サーバによるライセンス・コストの削減」
図13「スケールアップ型サーバによるライセンス・コストの削減」
Xeon E5プロセッサでも2プロセッサ用(Xeon E5-2600)と4プロセッサ用(Xeon E5-4600)がある。プロセッサあたりの性能がまったく同じである場合、より多く搭載できるスケールアップ・モデルを採用することで、「物理サーバ数」で課金するパッケージ・ソフトウェアのコストを大きく削減できる。


 全4回にわたって、ハードウェア側の技術トレンドなどを踏まえつつ、最新のWindows Server 2012 R2を使ったHyper-Vシステムの設計ガイドラインを紹介してきた。驚くほど急速に機能が強化されているHyper-Vだが、他社製品も進化を続けている。これだけ強化されてもまだ足りないと思う部分もあるだろう。しかしながら、必ずしもすべてをHyper-V単体の機能では補う必要はない。ハードウェアとソフトウェアが互いの強みを生かして補完しあえば、少ない予算で十分かつ先進的な“仮想化基盤”を作り上げることができるはずだ。

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