エンタープライズ開発現場が知っておきたいHTML5の4つの意義:Windows XP移行待ったなし(2/4 ページ)
Windows XP時代にエンタープライズ向けシステムのクライアント開発現場が抱えていた問題は、HTML5(Web標準)という一つ上のレイヤーからアプローチし解決する道が模索されています。本記事では、先月開催されたカンファレンス「Enterprise × HTML5 Web Application Conference 2014」から幾つかのセッションの内容をピックアップし、HTML5ソリューションの全体像を俯瞰し、上記解決の道がどこに向かおうとしているのかを探ってみます。
HTML5で「アプリケーション」はどう変わるのか?
HTML5の登場で、リッチなクライアントアプリケーションに、2つのニーズが生じています。どちらも、既に存在する技術要素を入れ替えるという動きです。
- プラグインベースRIAに対するニーズをどのように実現するか
- VBや.NETを用いたデスクトップアプリケーションのユーザビリティを維持しつつ、オープン技術を用いて開発するにはどうすれば良いか
専門家の考えを、ここで紹介します。
リッチなWebアプリを作る方法
2007年、プラグインベースRIAのインストールを認めないiPhoneの登場による影響で、HTML5が大きく取り上げられることになりましたが、具体的にどのような要求の変化が生じたのでしょう? ブラウザーのエコシステムにうまく関わり切れなかったプラグインベースRIAは、どう変わるのでしょうか?
金融系のBtoCシステムへ、HTML5によるオフラインアプリケーションの適用を行ったhtml5j エンタープライズ部の佐川夫美雄氏は、自身の講演の中でこう述べています。
「案件では、お客さまに自分の会社のアプリケーションを見せることになるので、リッチクライアントであることが求められました。表現力の高さ、デスクトップアプリケーションと同等なユーザーインターフェース(以下、UI)、ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)への要求から、お客さまと接するところではプラグインベースRIAが非常に使われていましたが、最近は先行きが不安です。
ゲームなどはイメージが異なるのでしょうが、業務系だと5年以上、モノによっては7年8年と長い期間にわたり活用されるということもあり、そこに、ベンダーロックインされない、標準技術であるHTML5の活用が求められます」
以前はベンダー系の製品を使わなくてはいけなかった分野が、HTML5の登場でオープン系により実現可能となりました。実際に佐川氏は、「Backbone.js」「Compass」「CoffeeScript」「Grunt」など、オープンソースの製品を活用して、プロジェクトに求められる品質の安定化、運営に役立てたようです。
オープンソースのツールやライブラリは組み合わせが複雑です。この問題を解決のであれば、「Yeoman」の活用するとよいでしょう。とはいえ、オープンソースは自分でメンテナンスすることが求められたり、サポートが無かったりするといった問題があるため、開発者の技術力など、リスク次第では、「Sencha」(後述)などのベンダー製品に頼ることも必要です。佐川氏は、「オープンソースだけに目を向けるべきでない」と、その危険性について警告しました。
デスクトップアプリケーションをオープン技術で作る方法
デスクトップアプリケーションの開発といえば、.NETのようなベンダー依存の開発を想像する方も多いでしょう。オープン系となれば、普及している技術要素の制約上、どうしてもWebアプリケーションになりがちです。
一方で、ユーザー企業からはベンダーにロックインされないオープン系技術の活用を望む声が日々増えつつあります。また同時に、従来のデスクトップアプリケーションのユーザビリティは失いたくないという要求もあり、JavaScriptでブラウザーの「戻る」ボタンを強引に動作させないようにしたり、ポップアップを活用したりするなど、泥臭い対応が求められることも少なくないようです。
こうした背景を抱え、エンタープライズITという世界の中では、HTML5を活用して、Webアプリケーションにデスクトップアプリケーションのユーザビリティを無理なく与えていこうという方向へ、緩やかにシフトしつつあります。
グレープシティの森谷勝氏も、講演の中でこう述べています。
「私たちは20年にわたりUIの製品を販売してきましたが、お客さまからは、大きく2つの声を聞きます。一つは、従来のVBのような伝統的な画面を踏襲できること。もう一つは、Excel依存やIME制御といった日本固有のニーズに答えられることです」
リッチアプリケーションの開発は.NETでやれば簡単ですが、Webでやればかなりノウハウが求められます。たとえ、それが古いVBのシステムであっても、Webでデスクトップアプリケーションを再現させるのは容易なことではありません。Webらしくない動作というものは、技術者から見れば否定的な意見もかなり多いわけですが、ユーザーはそれを求め、確かなニーズが存在するようです。
このセッションで紹介された製品「Wijmo」は、先にも述べた、いわゆる従来のデスクトップらしい操作性を、Webで実現できるjQueryプラグインです。グレープシティは今年の夏、「Forguncy」と呼ばれる、Excel方眼紙ベースの画面設計書からWebの画面を出力するツールをリリースする予定で、より設計フェーズに踏み込み、Webによるオープン化への要求に答えていくようです。
HTML5により表現力を獲得した結果、Webのデスクトップ化、既存システムのユーザビリティの再現性に対する要求は、今後より高くなるように思えます。
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