エンタープライズ開発現場が知っておきたいHTML5の4つの意義:Windows XP移行待ったなし(1/4 ページ)
Windows XP時代にエンタープライズ向けシステムのクライアント開発現場が抱えていた問題は、HTML5(Web標準)という一つ上のレイヤーからアプローチし解決する道が模索されています。本記事では、先月開催されたカンファレンス「Enterprise × HTML5 Web Application Conference 2014」から幾つかのセッションの内容をピックアップし、HTML5ソリューションの全体像を俯瞰し、上記解決の道がどこに向かおうとしているのかを探ってみます。
Windows XPの次はHTML5? クライアント側の問題を埋める新アプローチ
Windows XPの延長サポート終了日が迫り、システム移行は既に完了していなくてはいけないタイミング。しかし、企業のシステム部門からの関心度は、むしろ増すばかりのようです。そのことを証明するかのように、メディアではいまだに「Windows XP」というキーワードをよく目にします。OSの入れ替えが進まない現場からすると「アップグレードなんて望んでいない!」「XPをもっと使わせろ!」というのが、本音でしょう。
さて、この問題の本質は一体どこにあるのでしょうか?
システムのクライアント側が抱える問題
Windows XPにせよInternet Explorer(以下、IE) 6にせよ、またJavaにしてもそうですが、レガシーマイグレーションが進まない多くの要因は、アプリケーションが特定のプラットフォーム/バージョンに強く依存してしまったことではないでしょうか。システムのクライアント側のプラットフォームの入れ替えは、サーバー側とは異なり影響範囲がとてつもなく広く、移植性の抱える問題は大きくなりがちです。
クライアント側は、複数のシステムを巻き込む影響範囲の大きなプラットフォームです。一気にアップグレードを進めようとすれば、お祭り騒ぎに発展します。サーバーの設定に、プログラムの改修、複雑な互換性機能の設計。最悪の場合、サポートが切れたクライアントOSを仮想化技術で、重要な資産をそのまま利用し続ける「塩漬け」という手段に託すことになります。クライアント側はレガシー資産に引っ張られ、複雑化やセキュリティリスクの悪化を招くという特性を持つのです。
「標準」をアップグレードし続けるか?「マルチ」でいくか?
こうした問題に直面し、企業向け(エンタープライズ)システムのクライアント側に「標準OS/ミドルウェア」をアップグレードし続けるという考え方は、時代遅れではないでしょうか。
現実的に見たとき、クライアント側を本来あるべき健全な状態で運用するには、減価償却が終わる都度、新しいOSを入れていかないことには追いつかないケースも少なくないでしょう。
また最近は、システム化領域の拡大を進めるに当たり、モバイル/タブレットの適用は避けられないため、マルチOS/マルチデバイスへの対応が求められたりもするでしょう。企業向けシステムは、できる限りOS/ミドルウェアへ依存させないようアプローチしなくてはいけません。
なぜ、エンタープライズでHTML5が必要なのか
こうした問題への解決策の一つに、「HTML5」が力を持ち始めています。OSに負けないアプリケーションを作るために、HTML5でOSのレイヤーを抽象化してしまおうというものです。またWeb標準の思想を借りて、より高い付加価値を求めようと、さまざまなアイデアが生み出されています。
筆者は、以前からその動向に注目しており、2月28日の金曜日、明星大学で「Enterprise × HTML5 Web Application Conference 2014」というイベントを開催しました。国内のベンダー、オープンソースソフトウェア(以下、OSS)のユーザー会が結集し、国内ではまだまだ駆け出しという感じが否めない「企業向けHTML5ソリューション」の考え方について、さまざまな発信があり、新しい発見の多い場となったと思います。
本記事では、このイベントでのセッション内容に触れながら、HTML5がエンタープライズITにどのような影響を与えようとしているのか、どのような新しい価値をもたらそうとしているのか、以下4つの観点でまとめていきます。HTML5の意義が追えていないSIの現場の方には、全体像を把握する上で、役立つ資料となるでしょう。
HTML5で「プラットフォーム」はどう変わるのか?
イベント冒頭のパネルディスカッションで、「HTML5が企業向けに最初に注目されたのは、マルチデバイス/マルチプラットフォーム向け開発だったと思う」と筆者は語りました。
「IEはHTML5で変わった。今のIEは、ChromeやFirefoxとの相互運用性が確保されたプラットフォームである」――日本マイクロソフトの春日井良隆氏は、そう主張しました。
IE 6から、ブラウザーはどう変わったのか?
IE 6の時代は、Web標準自体が未成熟で、十分な相互運用性を確立できるだけの仕様がありませんでした。また、Web標準がブラウザーをアプリケーションプラットフォームとして活用することに配慮できていなかったため、IEは独自に機能を作り込む必要に迫られ、他のブラウザーと相互運用できるアプリを開発するには、ノウハウが求められていました。
しかし現在、HTML5により、ブラウザーベンダー側の要望が積極的に取り入れられるようになりました。IEも9からは高い相互運用性を獲得し、マイクロソフトも積極的にIE特化になることを防ごうという取り組みを進めています。
開発の面では、IE特化にアプリケーションを作り込まないようにする対策が求められるでしょう。Web標準への準拠が求められており、守らなければアプリケーションのライフサイクルに悪影響を及ぼします。
運用の面では、Windows 8/8.1から、IEの各バージョンがサービスパックサポートに変わった点に注意が必要です。簡単に言えば、サービスパックを当てると、IEのバージョンも自動的に上がるよう、アップグレードの方針が変更されています。
IE以外で見ると、例えばFirefoxについては、法人向けサポートを行うサードパーティベンダーが増えており、エンタープライズに必要とされるカスタマイズ、教育、サポートなどのビジネスが、競争された環境下で行われています。Chromeについては、「Chrome for Business」というエンタープライズ版をリリースしています。IEのライバルは以前よりも多く、また競争力も高いという状況でしょう。
マルチデバイス/マルチプラットフォームのエンタープライズ向けツール「MEAP」とは何か?
タブレットなどのモバイルデバイスがエンタープライズにも普及していますが、iOSもAndroidもどちらかといえばコンシューマー向けの製品です。アプリケーションの配布方法やセキュリティの確保には、コンシューマー向け製品には想定されていないエンタープライズ固有の要求があります。
こうしたニーズに答えるため、2008年ごろからチャレンジャー企業の間で「MEAP」(Mobile Enterprise Application Platform)と呼ばれるソリューションがリリースされ始めました。そして2010年ごろから、SAP、IBMなどの企業が買収を開始、自社製品との統合を進めてきました。2014年2月には、後ほど紹介する「Sencha」も同様の目的を持つ製品をリリースしています。
MEAPソリューションの1つである「SAP Mobile Platform」を提供する、SAPジャパンの井口和弘氏は、MEAPについて次のように説明します。
「ビジネスアプリケーションは、ゲームのようにフロント側(クライアント側)のUIだけを作っていればいいわけではありません。認証であったり、バックエンド側(サーバー側)との統合、アプリケーションのバージョン管理など、ビジネスアプリケーションだからこそ求められる要求に答えることが求められています。
MEAPはフロントのアプリケーションを作るためのツールと思われがちですが、実はそうでなく、バックエンドを含めて管理できるというのが最大の特徴です」
MEAPはここ最近、コモディティ化が進行しています。以前はベンダーへの依存性が強かったのですが、最近は汎用化され、アプリケーションが特定のベンダー機能へ依存することも少なくなりつつあります。懸念すべき点があるとすれば、暗号化機能付きローカルストレージの仕様にバラツキがあることでしょうか。
いずれにせよ、セキュリティにシビアなエンタープライズの業務系システムには、欠かせないプラットフォームになるとにらんでいます。
MEAPはモバイルに縛るには惜しいほどの機能性を有しているため、そのうちデスクトップにも進出するのではないかと、個人的には思っています。MEAPの「M」が消えるわけです。まだまだ進化中の技術なので、今後が楽しみです。
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