スタートアップコミュニティを盛り上げるべきは誰なのか:プログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(9)(1/2 ページ)
大阪にはスタートアップ向けの立派な仕組みがあるのに、スタートアップコミュニティが盛り上がっていないらしい。原因はどこにあるのだろうか。
大阪ほど、スタートアップエコシステム(※)を構築するために多くの資金を投じ、誠心誠意努力している都市は少ない。しかしそれは、アントレプレナー(起業家)と政府どちらもが望むスピードでは進んでいないようだ。
今回のコラムは、少々生意気かもしれない。一切公表しないことも本気で考えた。しかし、大阪のアントレプレナーのために構築されたプログラムとアントレプレナーたちの間に、かなり実質的な、しかし極めて修復可能な隔たりがあると思うので、あえて苦言を呈することにした。どうか、最後まで怒らずに読んでほしい。
※複数の企業や団体が互いの技術や資本を生かしながら、新しいビジネスモデルを推し進める仕組み。
完璧に見える政府のお膳立て
大阪イノベーションハブは驚くべきプロジェクトだ。潤沢な資金があり、本当に熱心な人たちの手で運営されている。拠点はアントレプレナーたちの集いの場として設計されており、関心が高そうなイベントの数々を定期的に開催している。共同作業スペースは素晴らしく、私がこれまでに勤めたどのオフィスよりも豪華でシャレており、快適さは自宅以上だ。
パンフレットやカタログでは、大阪が日本中、世界中のアントレプレナーたちに何を提供できるかを解説し、関西地域の優れた大学群や十分に整備された生活基盤、新興会社に対する寛大な課税措置、大阪の生活の質が総じて高いことなどを強調している。
大阪イノベーションハブは、特別プログラム、ゲストスピーカー、新しい施設のいずれもが、現地のアントレプレナーにとって大いに役に立つように見えた。しかし実際に話をしたアントレプレナーたちのほとんどは、それらにあまり興味を示していなかった。
政府は、アントレプレナーたちを大阪に呼び込むよりも、既存のアントレプレナーたちを大事に育てることにフォーカスした方が、長期的に見てはるかに有意義なのではないかと私は思う。大阪を世界のアントレプレナーたちにとって魅力的な場所にするよりも、起業を考える大阪人にとって魅力的な場所にすることの方が先なのだ。
政府が間違ったことをしていると指摘する気は毛頭ないのだが、その活動は現地のアントレプレナーのニーズとマッチしていないようだ。恐らく政府は、先導すべきではなく、後に従うべきなのではないだろうか。
誰がコミュニティをリードすべきか
大阪のアントレプレナーたちは口々に、駆け出しのアントレプレナーたちにとって目下最大の問題は「スタートアップコミュニティがないこと」だと言っていた。もっともだ。ベンチャーキャピタル企業、大学、政府それぞれがアントレプレナーコミュニティをサポートするための役割を果たしたとしても、アントレプレナー自身が積極的に参加しないことには、意味がない。
しかし困ったことに、話をした現地のアントレプレナーたちの多くが、コミュニティがないことは、自分たちにはどうしようもないことのように感じている様子だった。
二人の現地アントレプレナーとの次の会話は、まさに典型だ。
私:(頷きながら)お二人のおっしゃる通り、コミュニティがないのは本当に問題ですね。でもわれわれは今、政府がスタートアップのために用意したこの素晴らしい施設でアントレプレナーシップに興味を持つ何百もの人々が集まるスタートアップイベントに参加していますよね。コミュニティを立ち上げるのにうってつけじゃないですか?
年長の1人:(肩をすくめながら)そうかもしれませんが、誰も実行には移さないと思います。
私:お二人でやってみてはどうですか? 何も政府主導でなくとも、自分たちで名刺を集めて、電子メールを送って、ピザでも振る舞って、コミュニティをリードしてみては?
二人:(勢いよく)そうなんです! 私たちもまさに、同じことを話していたんですよ。誰かがそれをやるべきなんです。
!!!
この二人がスタートアップコミュニティのリーダーにならなかったとしても、誰かがこの役割に一歩を踏み出さなければならない。それはベンチャーキャピタリストや役人ではなく、アントレプレナー自身なのだ。
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