スタートアップコミュニティを盛り上げるべきは誰なのか:プログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(9)(2/2 ページ)
大阪にはスタートアップ向けの立派な仕組みがあるのに、スタートアップコミュニティが盛り上がっていないらしい。原因はどこにあるのだろうか。
同じ夢を分かち合おう
行政がアントレプレナー招致のために投資し、尽力しているにもかかわらず、大阪のアントレプレナーたちは、行政が自分たちと連携し、コミュニティのニーズを議論するような協調努力がないと感じているようだ。実際、行政が現地アントレプレナーのリーダーらと連携しつつ、何が彼らに最も役立つことなのかを意見交換することで、よりシンプルで生産的なプランが浮かび上がってくるはずだ。しかし、そのようなサービスは行政の仕事ではない。
大阪の行政がプロジェクト設計やプログラム運営を役人任せにせず、指針と継続的関与の両面で世界規模のベンチャーキャピタリストやアントレプレナーらに働き掛けを行ったことは大いに称賛に値する。しかし、大阪のたくさんの若きアントレプレナーたちと共に運営委員会を創設し、大阪のアントレプレナーシップにとって何が最善かを一緒に決める小プログラムもあってしかるべきだと思う。
ただし前述の通り、そのようなプログラムを考え付くことは行政の主要な役割でもなければ中核業務でもない。アントレプレナーはその名の通り、システムを変えようとする者を指す。既存のプログラムが自分たちのニーズに合わないのならば、なされるべきことを説明するか、自分たちで遂行するのがアントレプレナーの仕事というものだ。
少数の経験の浅い若手ビジネスマンの一群が、行政の専門家と「何がなされるべきか」について意見することなど、そうしょっちゅうできることではないのは分かる。そのように意見しても、何ら変化をもたらさない可能性は高い。しかし、当事者全員で何か新しいことを試みるとするのなら、ビジョンを掲げ喜んでリスクを負うのが、アントレプレナーではないのか。
このような問題に直面しているのは大阪だけではない。ロンドン、ボストン、オースチンといった多くの都市は、いずれも違ったアプローチでアントレプレナーシップを促進しようとしているが、どこの国でもアントレプレナーと役人との対話は、本質的に難しい。アントレプレナーはもともと、何かを壊して自分たちのビジョンに合わせるべくやり方を変えようとするもので、失敗したら撤退してまた別のものを試すからだ。
片や役人は、人々の何百もの日常的な問題を解決すべく、精いっぱい既存のシステムを継続運用することに尽力するのが使命だ。失敗したら撤退するというような選択肢はまずあり得ない。
アントレプレナーと役人は同盟者ではないかもしれないが、協働することでお互いに非常に多くのことを学べるはずだ。両者間の有意義かつ継続的対話によって、大阪のアントレプレナーシップは大きく成長していけるものと、私は確信している。
筆者プロフィール
Tim Romero(ティム・ロメロ)
プログラマーでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマー社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダーであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。
個人ブログ"Starting Things Up in Japan"
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.