「データの重力」を軸に考える、データ/データベース領域のクラウド環境利用:Database Expert イベントレポート(2/3 ページ)
AWSがストレージ/データベースサービスに特化したイベントを東京で開催。データプラットフォームを支える「サービス」への考え方は、クラウド以降のデータの持ち方を考える上で参考になるものだった。
巨大データの共同制作ワークフローを完全クラウドサービスに移行する例
これらAWSのストレージ/データベースサービスを活用して、大きなビジネス効果を手に入れた事例として、米Sony Media Cloud Servicesにおける取り組みが紹介された。
ゲストスピーカーとして登壇した同社 CTO Ben Masek氏は、「クラウドテクノロジは、デジタルメディア制作の方法を大きく変革しつつある」と述べ、同社におけるAWSを使った「メディアワークフロー」の取り組みについて紹介を行った。
同社はエンターテインメントコンテンツ、特に映画など動画コンテンツ制作におけるクラウドサービスの活用に同業他社に先駆けていち早く取り組んできた。その背景としては、動画のハイビジョン化によるコンテンツデータの肥大化、コンテンツの数や種類の増大、より多様なデバイスへのコンテンツ配信のニーズなどがあったという。
従来のシステムでは、突発的に発生するストレージニーズに迅速に対応できなかったが、クラウドであれば迅速にオンデマンドでリソースを調達できるため、ITの柔軟で弾力的な運用が可能になったという。それまでは、将来のニーズを見越した上で必要十分なストレージやサーバーをまず初めに確保しておく必要があったが、実際には将来必要となるITリソース量の予測を正確に見積もることは難しかった。しかしクラウドであればこうした点を気にする必要がなく、必要な分を必要なときに過不足なく調達できるようになる。
また、先に紹介したトラッキング/モニタリングサービス「AWS CloudTrail」を使うことで、コンテンツの機密性や完全性を担保できるようになったという。さらには可用性の面でも、適切な設定さえほどこしておけば、クラウドサービスは従来のオンプレミス環境やデータセンターより高い可用性を実現できる、と同社では判断したという。
こうしたクラウドサービスの特徴を生かした同社のメディアワークフローは、大きく4段階のステップから構成される。
「まずは素材のコンテンツをクラウド環境にアップロードする。次にこれらコンテンツをクラウド環境上で適切に管理する。そしてクラウド環境からコンテンツをダウンロードする。最後に、クラウド環境を介してメディア専門家同士がインタラクティブなコラボレーションを展開する。これら4段階のステップのうち、ダウンロードの重要性は今後低くなっていくだろう。これからは、クラウド上のアプリケーションでコンテンツ制作の作業のほとんどが完結するようになるだろうからだ。その一方で、コラボレーションの機能は今後より重視されるようになってくるはずだ」(Masek氏)
同社では既にこうしたクラウド環境を中心としたメディアワークフローを実現・運用しており、そのインフラはAmazon S3やAmazon RDS、Amazon GlacierといったAWSの各種クラウドストレージ・データベースサービスによって構成されている。
「こうしたクラウドサービスを利用することによって、われわれはインフラについて何も心配する必要がなくなり、全精力を付加価値の高い仕事に集中できるようになった。これこそが、われわれのメディアワークフローが目指してきたことであり、またAWSが提唱する『コンテンツ グラビティ』がもたらす真の価値だ」(Masek氏)
ここまでは、巨大なエンターテインメント作品の制作基盤として、データの移動なしに多様な拠点を連携させた、クラウド環境ありきのワークフローを構築した例を示した。
次ページでは、時々刻々と入力されるストリームデータを扱うサービス開発を短期間に実現しようというチャレンジの例を紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.