第2回 フラッシュメモリは企業向けストレージでなぜ注目されるのか:「攻めのIT」時代のストレージの基礎知識
フラッシュメモリは、一般消費者向け製品においては当たり前の存在になりました。一方で企業向けストレージ製品における活用も進みつつあります。この技術は、一部の用途で使われるにとどまるものなのでしょうか? それともHDDを駆逐することになるのでしょうか?
ストレージの世界では、「フラッシュメモリ」という記憶媒体が注目されています。フラッシュとは半導体メモリのことで、現在のところ事実上、NAND型フラッシュメモリ(不揮発性メモリ)を意味します。半導体メモリという意味で「SSD(Solid State Disk:半導体ディスク)」という言葉を使う人がいますが、SSDの「D」はDiskですから、フラッシュメモリのうち、ハードディスクドライブ(HDD)と同じ形状、インターフェースを備えたものを指す言葉として使うのが適切です。
フラッシュメモリは、SDカードやメモリースティック、コンパクトフラッシュなどのリムーバブルメディア、スマートフォン、タブレット型端末、iCプレーヤーなど、コンシューマー向け機器のための記憶媒体として急速に普及してきました。これを背景に、低価格化、大容量化をもたらす技術革新が進んでいます。
一方、企業向けストレージのNAND型フラッシュメモリは、これまで広く使われてきたハードディスクドライブ(HDD)に比べ、小型・軽量、高速、低遅延、低消費電力という特徴があります。このため、PC用のSSD、さらには企業向けストレージ製品用の記憶媒体としても、普及し始めています。ただし、フラッシュメモリの製造技術の進化は、少なくとも現在のところ、コンシューマーニーズに大きく左右されることには注意が必要です。
NAND型フラッシュメモリには、さまざまな種類があります。よく知られているのはSLC(Single Level Cell)、MLC(Multi Level Cell)の2つです。MLCは、単一のトランジスタセルに複数のビット情報を書き込めるようにしたもので、記憶容量を拡大しやすいメリットがあります。反面、各セルへのデータの書き換え回数、データ保持期間でSLCに劣ります。このため、10年といった長期間での利用が一般的な産業用製品では、SLCが主流です。企業向けのストレージ製品では一部でSLCが使われてきましたが、MLCの圧倒的なメリットに押され、最近ではあまり見られなくなってきました。
MLCだからといって一つではありません、耐久性にかかわる仕様によって、さまざまな種類があり、分類がなされています。eMLCと呼ばれる製品は、セルの酸化膜を厚くして耐久性を高めています。
しかし、いずれにしても書き換え回数とデータ保持期間は、NAND型フラッシュメモリを活用しようとする限り、必ずついて回る問題です。これに対処するため、特に企業向けストレージ製品では、フラッシュメモリを制御するハードウェア/ソフトウェアが重要な役割を果たします。「ウェアレベリング」(書き換え回数の均等化)、ECC(誤り訂正機構)、不要ブロック管理、物理/論理アドレス変換など、多様な技術が適用されています。
先ほど、「フラッシュメモリの製造技術の進化は、少なくとも現在のところ、コンシューマーニーズに大きく左右される」と書きましたが、大容量化と容量単価の低減を目的とした、製造プロセスの微細化が急速に進んでいます。これは望ましいことではありますが、一方で、エラー発生率の増加、耐久性の低下、レイテンシの増大といった課題がさらに深刻化しています。これを補うため、今後は、フラッシュメモリを制御するソフトウェア/ハードウェアなどの役割が、ますます重要なものになってきます。
エンタープライズ分野において、HDDからフラッシュメモリへの移行はどのように進むのでしょうか。
フラッシュメモリがHDDと同等な容量密度および容量単価を実現し、信頼性および耐久性についてもHDDと同等であれば、HDDのほとんどは、今すぐにでもフラッシュメモリに置き換えられてしまうでしょう。しかし、現実はそうではありません。信頼性は上述のように補う方法があるとしても、耐久性の問題は容易に克服できません。そして何よりも、HDDに比べて容量単価がはるかに高いという問題が、普及の壁となっています。
上記の理由から、現在は高いコストを支払ってでも高性能、特に低レイテンシが求められる用途、例えば一部の事業に不可欠なデータベースで、積極的にフラッシュメモリが使われ始めています。また、既存ストレージへのアクセスを高速化するためのキャッシュ、あるいは「0次のストレージレイヤー」として使われることも増えています。
フラッシュメモリは、コンシューマーニーズにけん引され、今後も容量単価の低下と大容量化が確実に進みます。NAND型メモリの技術的な進化は、そろそろ限界に達しようとしているといわれることもありますが、本当に限界が来るならば、他の技術がとって代わることになります。より安価な、より大容量の半導体メモリを求める大きな市場があるかぎり、この分野における技術革新が止まることはあり得ません。
これに伴って、エンタープライズ向けにおいても、技術的欠点を補う工夫を加えた上で、フラッシュの用途はますます拡大していきます。それまで一部のデータベースにしか適用できなかったものが、より多くのデータベースに活用できるようになっていきます。さらに、より一般的な用途におけるフラッシュメモリの活用も進みます。
一方で、組織内に保存されるデータが今後さらに増えていくのであれば、HDDの役割がなくなることはありません。HDDの大容量化および容量単価の低下も進んでいますので、バックアップやアーカイブのためのストレージ装置は、ますますHDDを活用していくことになるでしょう。
今後は、大まかにいえば、一般的にフラッシュメモリで性能を向上し、HDDで容量・保存性を実現するという方向に進むと考えられます。
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