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総裁×福田淳 IT企業経営者たちが考える「本当」の支援活動とは氷水をかぶるより先にできることって何だろう(前編)(1/2 ページ)

アイスバケツチャレンジブームで終わらせるのはもったいない!――自らが運営するフィールドで支援活動をコツコツと続けてきた2人のIT企業経営者が、支援や寄付についての考えを話し合った。

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 「アイスバケツチャレンジ」――この夏に大きな話題となった動画を、覚えているだろうか?

 アイスバケツチャレンジは、もともとは米国で始まった、筋萎縮性側索硬化症(ALS)へのチャリティ(寄付)を目的とした活動だ。頭から氷水をかぶるか、100ドルの寄付をするか、それともその両方をするかを選択し、次の3人を指名するという形で、難病対策の研究を支援するチャリティを呼び掛けたものだ。ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなどIT業界のトップをはじめ、有名人が相次いで参加し、その模様が動画サイトにアップロードされたことから一大ムーブメントとなった。

 あれから数カ月たち、今となっては「ああ、そんなこともあったね」と過ぎ去ったブームのように思われるが、ALSに悩む患者はいなくなったわけではない。ALSに限らず、さまざまな病気や天災に苦しむ人に向けて、地道に支援活動を続けている2人に話を聞いた。

村上 福之(総裁)

クレイジーワークス、代表取締役 総裁。アイティメディアの「オルタナティブ ブログ」上で、東日本大震災やタイの洪水など、大規模な天災が発生するたびにネット上で寄付を募り、集まった義援金を手渡しで届けてきた。8月に発生した広島/福知山の土砂災害に対しても「氷水かぶるより水かぶってる人を助けようと思います」とブログ上で寄付を呼びかけ。9月20日に広島に届け、現地でのボランティアに参加したという。

福田 淳

ソニー・デジタルエンタテインメント代表取締役社長。スカパー! の衛星放送「アニマックス」など多数のニューメディア立ち上げに携わる一方で、さまざまなチャリティ企画に携わってきた。東日本大震災発生時には、クリエイター100人の協力を得て携帯コンテンツへの課金を現地に寄付する「SAVE MIND, 100 CREATION」を実施した他、モザンビークでの医療活動に携わる「元ギャル」を、携帯小説の売り上げなどを通じて支援している。アイスバケツチャレンジにも参加。

「もうかったら寄付せなあかん」という叔父の口癖


ソニー・デジタルエンタテインメント代表取締役社長 福田 淳さん

福田 僕はバブル世代なんですよ。周りを見てもみんな女の子にもてたくて、お金持ちになりたくて、いい車に乗りたくて、出世したかった。僕も20代のときに出世してちょっとした栄華を極めたけれど、すぐ壁にぶつかって20代後半に無職になって、お金に対する考え方が変わったんです。もっと幸せを追求すべきじゃないかなと。

 で、IT業界の後輩の社長たちを見ていると、だいたい三世代くらいに分けられるように思います。僕らアラフィフくらいが先頭集団。その次の世代が、今35〜36歳くらい。その次の世代が24〜25歳くらいで、その代が一番掛け値なしに面白いことをやろうとしている。で、この真ん中の世代の人たちが、バブル世代と全く同じことをやっている印象があるんです。幸せとか関係なしに「お、次はソーシャルゲームがはやるか、じゃそれで行こう」っていう感じですが、そんな生き方は果たしてどうだろうかと僕は思っているんですよ。

 最近、三浦友和さんの自伝「相性」を読んで、涙が出るほど印象に残ったことがあります。「自分が死ぬ前に、良いことと悪いこととを数えて、いいことが一個でも多かったら幸せな人生だと思っています」という一節で、それと同じようなことが村上さんのインタビュー記事に書いてあったので、感銘を受けたんです。被災地支援のためにPayPalのリンクを張って、規約違反で引き出しをストップされた分を自腹で立て替えたということですが、どうしてそういうことをやろうと思ったんですか?

村上 最初は東日本大震災です。あの時はみんないろいろな形で寄付を募集していたんですが、「どうせなら、バーターで何かあげた方がいいよね」と思って、Twitterのフォロワーが1000人増えるプログラムを書いて寄付をしてくれた人にあげるよ、っていうことをやったんです。当然Twitterに怒られましたが(笑)。

 今のスタイルになったのは、タイで2011年に起こった洪水です。タイの大使館が寄付を募集していたんですが、そこに書いてあった方法が現金書留だけだったので、不便ではないかと思って。それで、PayPalだったら寄付する人も手間が掛からないし、自分もブログにリンクを張るだけだったら楽だし、タイ大使館は九段下にあるから集まった分を自分で持って行ってもいいなって思って……そしたら1日に100万くらいのペースで寄付が集まったのが最初です。

福田 すごいですね! そもそも、どうして見ず知らずの人を助けようと思ったのですか?


クレイジーワークス、代表取締役 総裁 村上 福之さん

総裁 うーん、何でやろね……母方の親戚が材木商を大阪と三重で代々やってまして、そのおじさんが「商売人はもうかったら寄付せなあかん、でないと商売人としての信用がつながらん」という話をようしてはったんです。

 「日本にも寄付文化を作らなあかん」というのが信条みたいで、実際に、もうかったら数千万円お寺に寄付してたりしたんですよ。自分にはそういうカルチャーがあったんだと思います。あと、大阪人って「あげたがり」じゃないですか? 商売もそうやけど、あげるの好きやん。

編注:この辺りからお二人とも関西弁混じりに。できるだけ会話を忠実に再現しています。

福田 そうやね。すっごいいい意味で「見返り」を求めるところがありますね。見返りっていうか、「いいことをしたら、いいことが返ってくるよ」っていう商売人の実感があるかもしれないやろね。

 「TABLE FOR TWO」の小暮(真久)さんは、マッキンゼーを辞めてこのNPOを立ち上げたそうです。「こっちに10億人のニューヨークなど先進国の太った子どもがいる、あっちに10億人の食えないアフリカの子がいる。それを『エクスチェンジ』(交換)したら地球がみんな幸せになるじゃない」という発想で取り組み始めたそうなんです。

総裁 「Kiva」に似てますね。

福田 そうですね。ところが、僕が感じるのは、それってリアリティがなくなってきてるってことです。だって、ニューヨークとアフリカの格差もありますけれど、一方で、日本だって給食費を払えない子が多くなってきて貧富の差が拡大しています。まずそういうところをエクスチェンジする方がいいのではないかと思うんです。

総裁 うーん。最近、日本で貧富の差が大きいと言いますけれど、海外に行くと「あれほどやないやろ」と思いますけれどね。

福田 マーケティングの話かもしれませんね。今となっては、アフリカの痩せた子どもの写真に何の訴求力もないじゃないですか。いま何とかしたい課題があって、それをわれわれのようなITに携わっている人たちのアイデアで変えられたら、これ以上の喜びはない、というのが、僕、この10年間企業経営をやって思ったことなんですよ。

 渋谷のガングロギャルだった、モザンビークでボランティアの仕事をしているプラ子という女性がいて、彼女の活動をいろんな形で支援してきました。その当時全盛期だった携帯小説を使って、売り上げの一部で活動費のお手伝いができないかって思ったのが最初です。そしたら、その携帯小説のダウンロード数が100万を超えて、最終的には岩波書店で本にしてもらうまでになりました。

 その一環として、水墨画家に小さめの作品を書いてもらって、銀座にあるアートギャラリーでチャリティ販売もやりました。いつもの作品よりも割安な値段で、そのうち半分はモザンビークに寄付するというものでしたが、一晩で111万集まったんですよ。本業がITだからそういうことをできるんだろうと思っています。

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