ゲーム嫌いも知っておきたい3D CG/VRのエンタープライズ活用事例〜Unity Solution Conference 2014まとめ(2/5 ページ)
ゲーム開発で有名なUnity。医療や建築、ヘルスケア、観光などゲーム以外の活用事例をイベントリポートでお届けする。
【医療】医者も知らなかった生きた骨や関節の動き方をUnityで再現
大阪大学医学系研究科 整形外科 教授の菅本一臣氏は、「オタクは医療を救う」というやや過激なタイトルで、Unityをはじめとするゲーム開発のためのさまざまなIT技術が、医療の進歩に大きく貢献していることを紹介した。
菅本氏は、チームラボが開発した3D人体解剖アプリ「teamLabBody」の監修者だ。teamLabBodyは、生きた人間の骨格が、筋肉の中でどのように動いているかを3Dビジュアルで再現するアプリ。医療業界だけではなく、子どもの教育などにも活用されており、2013 Unity Awardの「Best VizSim Project」を獲得している。
菅本氏は、グラフィックの技術やゲームエンジンといった、いわゆる「オタク」の人たちが作った技術が医療に大きく貢献し、今まで治療できなかった数万人もの人たちの治療を可能にすると述べた。
「実は医者も、骨や関節がどう動いているかは知らない」
菅本氏は整形外科医として、「腰が痛い、膝が痛い」とやってくる患者さんの治療に当たっているわけだが、「実は医者も、骨や関節がどう動いているかは知らない。医者に限らず、皮膚に覆われた骨が実際にどのように動いているかを見た人はいない」という。生きた人間の膝を切り開いて動かしてみるわけにはいかないから、それも当たり前だ。
もちろん、解剖学の教科書には関節や骨の解説図が載っている。しかしそれはあくまで、検体を解剖し、皮膚や筋肉などを取り除いた後の骨について解説したものにすぎず、「生きた人間の関節の動き」ではない。医療の現場で利用されているX線撮影やCT/MRIスキャンを使えば細かな形状は分かるが、「“動き”が分かるものがない」と限界を感じていたという。
立体的な「パラパラ漫画」
そこで菅本氏は、14〜15年前から、MRIで撮影した画像と画像解析ソフトウェアを組み合わせ、「生きた関節の動き」を把握できるソフトウェア作りに取り組んできた。
例えば手首の動きを解析するには、ある角度で固定し、MRIで断層撮影を行う。次に少し角度をずらして同じように撮影を行う…… という作業を繰り返す。そうして取った写真を解析し、どれが骨でどれが筋肉かといった特徴点を抽出し、コンピューターに覚え込ませた。この作業を繰り返していくと出来上がるのが立体的な「パラパラ漫画」だ。
このパラパラ漫画によって、人が動くときにそれぞれの骨、そして筋肉がどのように連動し、動いているかが分かるようになった。例えば、手首は単純に“ちょうつがい”のような動きをするのではなく、空豆サイズの8つの骨が複雑に絡み合ってひねりの動きを実現しているし、指を動かしているのは実は指の筋肉ではなく腕側の筋肉である――このような「解剖学の教科書を読んでもなかなか分からないことが、動きを見れば3秒で分かる」(菅本氏)。これまでの教科書に書いてあった動きと、パラパラ漫画で再生した動きとでは異なるところも多々あり、医療サイドには衝撃もあったそうだ。
しかも、コンピューターを使って部位を覚えさせているため、「ここに回転軸を設定して動きを見たい」「頸椎のこの骨の動きだけを見たい」といった具合に、細かく条件を指定して動きを確認することも可能だ。
人工関節の開発をはじめ、広がる活用
こうして実際の骨の動きを把握できるようになると、さまざまな応用が可能になる。
その一例が、人工関節の解析、開発だ。膝に人工関節を埋め込んだ患者の中には、何年か経つと緩衝材となっているポリウレタンがすり減ってしまうケースがある。「どうしてそうなってしまうのかが、なかなか分からなかった」(菅本氏)。
そこで今度は、同じ手法を動画に適用してみたという。「歩いているところを動画モードでレントゲン撮影し、そこから『立体パラパラ』を再現した」(菅本氏)。これによって、人工関節がどのように動き、どこで摩擦が生じやすいかといった事柄が分かってきたという。
最近では菅本氏の試みが口コミで広がり、他の医師から解析を依頼されるケースも増えてきたそうだ。「何千例と解析を引き受けてきた結果、いわゆるビッグデータが蓄積できている。これを次のバージョンの人工関節を開発する際の参考にできる。良い意味で坂道を転げ落ちるように劇的に進歩している」(菅本氏)。
意外なところでは、ロボットやヒューマノイドへの応用も考えられるという。「ロボットに複雑な動きをさせようとすると、どうしてもたくさんモーターを付けたくなる。しかし、一連の解析によって、一関節当たり数個のモーターで全ての動きを再現できることが分かってきた。ロボットの作り方が根本的に変わるかもしれない」(菅本氏)。他にも、より効果の高い健康器具(乗馬マシン)の開発や歯の噛み合わせの評価など、応用範囲は幅広いという。
ときに利害が対立するように見える企業と医者と患者という三者だが、「体の機能を回復させたい、その思いは一緒」(菅本氏)。グラフィックをはじめとするIT技術はそれを結び付ける役割を果たすことができる。「ぜひオタクの皆さんに医療業界に参入してほしい」と菅本氏は会場に呼び掛けた。
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