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OpenStackの波に乗る企業、それぞれの市場創出へのアプローチ「OpenStack Summitの歩き方」リポート(2)

OpenStackのエコシステムに参加する企業が増えている。日本国内でも、OpenStackの技術を軸に多様なアプローチで市場をもり立てようと試みる企業が増えてきた。

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 OpenStack Foundation主催のグローバルイベント「OpenStack Summit」が2015年10月27〜30日にいよいよ東京で開催される。それに先駆けて7月13日、同サミットの概要や最新動向を解説するプレイベント「5周年特別企画: OpenStack Summitの歩き方」が開催された。前回はユーザー企業側の誤解と期待、IaaSの要件を整理した。今回は、OpenStack市場にプレーヤーとして参加する企業、それぞれのアプローチを見ていく。

OpenStackに関わる企業の「市場創出」と「市場獲得」

 このイベントでは、OpenStackのビジネスをテーマとしたパネルディスカッション「ビジネス視点から観るOpenStackサミット〜OpenStack as a Business」も行われた。

 開発プロジェクトの進展とともに、OpenStackへのユーザー企業の関心が高まってきているが、OpenStack開発コミュニティに参加するITベンダーらは、「OpenStack」という市場に、どうアプローチしてビジネスにつなげようとしているのだろうか。

 パネラーは、日商エレクトロニクス マーケティング本部長の木部俊明氏、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) クラウド・セキュリティ事業推進本部長 藤岡良樹氏、NTTコミュニケーションズ 技術開発部 担当部長 逸見彰一郎氏の三人。

 モデレーターは、ビットアイル クラウド・ITソリューション本部長の成迫剛志氏が務めた。登壇者は、いずれもSIerやリセラー、サービスプロバイダーとしてOpenStackのソリューションを展開する企業に所属する立場にある。


写真右から、ビットアイル クラウド・ITソリューション本部長の成迫剛志氏、日商エレクトロニクス マーケティング本部長の木部俊明氏、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) クラウド・セキュリティ事業推進本部長 藤岡良樹氏、NTTコミュニケーションズ 技術開発部 担当部長 逸見彰一郎氏

ビットアイル クラウド・ITソリューション本部長 成迫剛志氏

 まず、成迫氏は、OpenStackのエコシステムに企業が参加する際の前提条件として「ビジネス面でのOpenStackを考える際に欠かせないのは、『市場創出』と『市場獲得』の二つ。オープンソースのコミュニティが行っているようなエコシステムによって新しい市場を創出する必要がある。頑張って市場を創出したあとは、それに見合った売り上げ、利益を得る市場獲得に取り組む必要が出てくる」と切り出した。

 市場創出では、デベロッパー的な観点から「協業(cooperation)」して盛り上がるが、いったん市場ができるとマーケティング的な観点からプレーヤー同士が「競合(competition)」することになる。

 「OpenStackは5周年を迎えたばかりで、まだ市場創出のフェーズだと思うが、今後の競争抜きにはビジネスの話はできない」と成迫氏。その上で、パネラー3社が現在どんな取り組みを進めているのか、今後どう推進するのかをそれぞれ紹介していった。

シリコンバレー経由で先進企業のユースケースを、ツールと併せて日本に展開


日商エレクトロニクス マーケティング本部長 木部俊明氏

 日商エレクトロニクスの木部氏は、同社の立ち位置が、OpenStackソリューションそのものの提供ではなく、ユーザー企業がOpenStackを使う際のツールとの連携やコンサルティング、検証がメインだと説明した。

 具体的には、ネットワークコンポーネント「Neutron」の分野ではジュニパーネットワークス(ジュニパー)、ブロケード、プロリバスネットワークス(Pluribus Networks)、ファーウェイ、ヴィプテラ(Viptela)の各製品と、ストレージコンポーネント「Cinder」の分野ではヒューレット・パッカード(HP)、ニュータニックス、ソリッドファイアー(SolidFire)の各製品との連携、検証を行い、企業のOpenStack導入・運用を支援している。

 ヴイエムウェアに買収されたニシラ(Nicira)やジュニパーが買収したコントレイル(Contrail)などの最新テクノロジもいちはやく国内に紹介。シリコンバレーに拠点を持ち、ウォルマート、GAP、コムキャストといった先進ユーザー企業が実際に使っているツールを、複数ベンダーと共同で検証して提供できることが大きな強みだという。

 「OpenStackは俊敏性、柔軟性を持ったオープンなクラウドインフラ。企業が今後、クラウド環境を前提としたアプリケーションを自分たちで構築する上で重要になる。コスト削減のためのITではなく、勝つためのITを実現するためにOpenStackと連携するツールを積極的に紹介していく」(木部氏)

自社内でDevOps環境を整備、ノウハウをOSSスタックのインフラ基盤提供につなぐ


伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) クラウド・セキュリティ事業推進本部長 藤岡良樹氏

 CTCの藤岡氏は、「OpenStackは今までと大きく違う流れだ」とし、次のようにビジネスの背景を説明した。

 「これまでのように、ITベンダーが製品やサービスを作り、顧客に提供するのではなく、オープンソースソフトウエア(OSS)を使ってユーザー企業やパートナー企業が一緒に市場を作るという流れができた。バンクーバーサミット(2014年春に開催されたOpenStack Summit)にも参加したが、名だたるITベンダーがイベントをスポンサードしており、商用製品とOSSの関係がかつてとは逆になっていることを実感した」(藤岡氏)

 CTCは従来、商用ベンダーの製品紹介を中心にビジネスを展開してきた。OpenStackが従来と異なるのは、「ベンダーが描いた設計図」をそのまま提供するではなく、「設計図そのものを描きながら顧客が利用できる環境」を提供する必要が出てきた点だという。

 「OpenStackは基本的な設計図がないため、作り上げるのはやはり難しい。米国の先進的なユーザーもトライ&エラーを繰り返して作っている。米国ではOpenStack専業のSIerもどんどん出てきている」(藤岡氏)

 現在、藤岡氏らは、OpenStackについて三つの取り組みを進めている。一つ目は、社内にIaaS基盤を作り、インフラのAPI実装を行うこと。二つ目は、サービスを標準化し、DevOps支援ツールなどを用いてきっちりと運用できるようにすること。三つ目は、クラウドネイティブな次世代アプリケーションの開発。具体的には、OSSスタックを用いたインフラ基盤「CTC RACK」を提供する。「これら三つの取り組みを通して、サービスをみんなで一緒に作り上げていこうとしている」(藤岡氏)という。

次世代クラウド基盤でのOpenStack API対応を強化、企業利用を支援


NTTコミュニケーションズ 技術開発部 担当部長 逸見彰一郎氏

 NTTコミュニケーションズの逸見氏は、OpenStackのこれまでの取り組みとして、自社での採用事例やコミュニティ活動を紹介した。採用事例は、同社のパブリッククラウドサービス「BizホスティングCloudn」において2013年から提供しているVPN(Virtual Private Network)経由の仮想サーバー「VPCタイプ ClosedNW」だ。ここでは、NovaとNeutronに同社が展開するVPNサービスを組み合わせて、セキュアなイントラネット環境を構築している。2014年には竹中工務店と共同で開発した「次世代建物管理システムプラットフォーム」にも採用されている。

 また、SDN(Software Defined Network)とクラウドに関する技術開発では「沖縄オープンラボラトリ」(企業横断で次世代IT基盤の技術検証、研究を行う団体)に参加する他、コミュニティ活動としては2015年5月からOpenStack FoundationのCorporate Sponsorに加盟。BizホスティングCloudnや、2015年下期に提供予定の「次世代クラウド基盤」の強化につなげている。

 次世代クラウド基盤は、新しいSDN上に専有型(Hosted Private Cloud/ベアメタル)と共有型(Public Cloud)サービスを組み合わせて提供するもので、カスタマーポータルを通して既存クラウドや他社クラウドの統合管理が可能になるという。

 「次世代クラウド基盤のHosted Private Cloudでは、OpenStackのAPIにも対応し、エンタープライズのお客さまがOpenStackを利用できるようにする。コミュニティ活動については、キャリアならではの仕様やノウハウの提案を行っていき、グローバルでのクラウドサービスの強化、拡充を図っていく」(逸見氏)

パブリッククラウドとのハイブリッド利用を想定したサービス展開

 ビットアイルの成迫氏も、自社の取り組みとして、クラウド間の相互接続サービス「ビットアイルコネクト」でOpenStackに対応していることや、ビットアイルデータセンター内に構築したOpenStack環境をAWSなどの各種パブリッククラウドと組み合わせて提供する「ビットアイル ハイブリッド OpenStack」があることを紹介した。

OpenStack提供企業の市場創出アプローチ5種

 セッションの最後に成迫氏は、OpenStackを「提供する側」のビジネス視点で見た場合、大きく次の五つの取り組みに分類できると説明した。

  1. OpenStackを自社サービスの基盤として利用する
  2. OpenStackをベースとした有償ソフトウエアの提供
  3. OpenStackに関するノウハウをベースにした人的サービスを提供
  4. OpenStackの機能拡張や周辺ソフトウエア提供
  5. 自社製品のOpenStack対応

 このセッションでは、ユーザー企業やパートナー各社がこうした取り組みをまさに進めているところであり、市場創出のための動きが活発化していることが確認できた。

 OpenStackへの注目が高まるにつれ、「自社への導入」「OpenStack採用サービスの利用」「互換インフラの採用」など、ユーザー側の選択肢も広がりつつある。これに伴い、ソリューションの提供側も、多様なアプローチを取りつつあるようだ。

 いずれにしても、ベンダー、SIerにおいては、「OpenStackが企業インフラのデファクトスタンダードになること」を想定した対応を進めているといえるだろう。今後、実績が増えることで、より“こなれた”プロダクトになっていくことが期待される。

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