オラクルが確約した「クラウド6箇条」と「Database 12c R2」の気になるトコロ:Database Watch(2015年10月版)(3/3 ページ)
米オラクルのラリー・エリソンCTOが、同社の年次イベントで今後のクラウド事業の行方を確約する「Oracle Cloud、6つの設計目標」を掲げました。同時に発表された基幹製品「Oracle Database 12c」の次期バージョンのポイントと共に、そこにどんな狙いがあるかを振り返ります。
次期Oracle Database、「12c R2」のベータ版が登場
Oracle Cloudは、クラウドへの旅で考えれば移住先の一つに当たります。その前に、移住元であるオンプレミス環境へ改めて目を向けてみます。
オンプレミス環境のオラクルユーザーは、ほとんどがOracle Databaseを使っていると思います。そして、この本番環境として稼働しているシステムを、どうやってクラウドへ移行させるかが課題になります。
オラクルの答えはこうです。「オンプレミスにいようと、クラウドにいようと、同じOracle Databaseや、その上で稼働するアプリケーションを使えるようにする」。
オラクルはOOW15で、Oracle Database 12cの機能強化バージョン「Oracle Database 12c Release 2(12.2)」(以下、12c R2)を発表しました。2015年11月現在、ベータ版が利用でき、クラウドはもちろん、オンプレミス環境でも、そして両者が混在したハイブリッド環境も想定した機能強化が施されています。
オラクル データベースサーバー技術担当エグゼクティブバイスプレジデントのアンディー・メンデルソン氏がOOW15のエグゼクティブセッションで12c R2の特徴を解説しました。メンデルソン氏はオラクルで30年、データベース技術開発に携わってきたDBのスペシャリスト。機能強化の目玉は「マルチテナント・アーキテクチャの拡張」と「In-Memory機能の強化」と言います。
(1)「マルチテナント・アーキテクチャ」を拡張
Oracle Databaseは12cで、クラウド(製品名にある「c」はクラウドの意味)や仮想環境での利用を明確にし、複数のデータベースをまとめて蓄える「マルチテナント・アーキテクチャ」という概念を採用しました。マルチテナント・アーキテクチャは、複数のデータベースを一つのインスタンスに統合できる技術。「CDB(マルチテナント・コンテナー・データベース)」の中に複数の「PDB(プラガブル・データベース)と呼ばれる仮想的なデータベースを持つことで実現します。CDBはソフトウエアの保守を一括して実行したり、リソースを共有したりすることでリソースの効率化が図れます。
12cは、CDBが保有できるPDBは252個でした。12c R2では、それを4096個までに増やしました。また、コンテナーデータベースで共有するサーバーリソースは、CPUとI/O管理に加えて、メモリ管理にまで拡張されました。これらによって、大規模な環境(サーバー)を想定した、より大きなCDBの運用が可能になります。
PDBを理解するには、まず、抜き差し自由なUSBメモリを想像してみて下さい。USBメモリを差し替えれば別のPCでも同じファイルを扱えるように、Oracle DatabaseでもPDB単位で入れ替えを行えるようにすることで、本番環境と開発環境、オンプレミスとクラウドなどの異なる環境へ移動させやすい作りとなっています。
12c R2では、このPDBの「俊敏性」も高められました。より素早くPDBのクローンを作成する「PDB Hot Clone」、開発環境のPDBのクローンを本番環境の最新データに更新する「PDB Refresh」、サービスのダウンタイムなしにPDBを別の環境へ移動する「PDB Relocate」などで実現します。特にPDB Relocateは、OOW15の基調講演でエリソンCTO自らがデモをするほど「伝えたかった」機能なようで、「システムを止めることなく、PDBを別の環境へすぐ移し替えられる」とアピールしていました。
「In-Memory機能拡張」とは
リレーショナルデータベースであるOracle Databaseは、データの追加や更新を行単位で行います。12cで備わった「In-Memory機能」は、行形式(ロー型)のフォーマットと列形式(カラム型)のフォーマットの両方を、メモリ上に同時に展開して処理する機能です。これによって、OLTP(Online Transaction Processing)処理と、集計やデータ分析処理の両立を図りました。
12c R2では、アクティブな「Oracle Data Guard(災害対策や負荷分散のための製品)」のスタンバイ中でもIn-Memory機能を稼働できるようになります。例えば、データ分析に掛かる負荷をオフロードさせたいときに有効です。さらに、メモリを有効活用する目的で、In-Memory機能で使うデータを使用頻度に応じて、ダイナミックにメモリとストレージの間で移行できるよう機能改善が図られました。
この他に12c R2の新機能で注目したいのが、次世代の新プロセッサー「SPARC M7」を用いて実現する「Software in Silicon」です。SPARCはオラクルが買収したサン・マイクロシステムズのプロセッサーですが、データベースとも深く連携するようになります。Oracle Databaseのパフォーマンスを最適化する目的で、データベースの性能向上やセキュリティ機能の強化をプロセッサーレベルで実現する機能が組み込まれます。この詳細は次回、解説します。
メンデルソン氏の基調講演のテーマは「次世代のデータ管理」でした。これまでオラクルの先進的な技術は、基幹製品であるOracle Databaseを中心に、それに包含される形で提供されることが多かったと思います。しかし、OOW15では、技術の発展がOracle Databaseの外でも行われるようになったと強く感じました。
例えば、ビッグデータ管理のために提供する技術には、Oracle Database向けだけでなく、「NoSQL」やHadoopを融合して使えるSQLインターフェースや分析ツールも新たに整備していました。オラクルはもう数年後、「データベースの会社」ではなく別の言葉で形容されているかもしれません。それだけ大きな変革が、クラウドでもたらされるということでしょう。
次回は前述したSoftware in Siliconと、新たに発表になったクラウドサービス群に目を向けます。
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